第48話: 女神の霊的チートにおっちゃん大ショック! っていうか、ウチはなにもん?
「うそやん……お祖母ちゃんは、ウチが子供の頃に死んで……お葬式かって出たんやで!?そやのに何でここにいてるん?それに、石長比売ってどういうことなん!?」
ウチが叫ぶと、おっちゃんがギョッてびっくりした。
「ちょっとちょっと!落ち着けや夏菜子!お祖母ちゃんって……この人はこの神社のご祭神、大山津見神の娘さん、石長比売や!……っていうか、石長比売は夏菜子のこと、知ってるんでっか?」
おっちゃんがそういうと、お祖母ちゃん……石長比売が静かに頷く。
「まぁ……どない言うたらええんやろうね?ウマヤドさん、私はね、この子のお祖母ちゃんの魂に憑いとってん。知ってますやろ?わたしら神は、ときどき地上に御稜威をもたらす為に現世に分霊を降ろす……せやけど神の分霊を人の肉の殻に入れるには、その神に連なる血が要る。ほんで、みんな知っとるように私は誰とも夫婦にならんかった。そやから子孫がおらんのや。そやから……」
すると、お祖母ちゃんの姿がだんだんと揺らいでいって、別の人の姿になる。教科書でよく見る、飛鳥時代の服装や。今度は、おっちゃんが固まったように言葉を無くしたまま、その人を見つめた。
「お……叔母上……なんでや……」
「違いますよ。私はあんたの叔母上……推古天皇に憑いとったから、あの時のことは全て覚えとる……せやけど推古天皇その人やない。私はな、この国が男たちの力だけではどないもならん時に、「巌のように永い智慧」で導くため、然るべき運命を持った女子に取り憑いてきたんや。それが卑弥呼であり、神功皇后(八幡さん)であり、推古天皇、持統天皇、北条政子、天璋院篤姫や。」そういうと、その人は次々に違う女の人の姿になり、最後にすごーく古い時代の女性の姿になった。
「な……そんなアホな……そんな!そんなこと、姐さん(八幡さん)も叔母上も言うてへんかったで!」
「そらそうや。人である間は私の霊が憑いとることは分からへん。それに、あんたの叔母上も、神功皇后も、もともと力のある女子やった。そやからこそ、私はそれを見定めて智慧を与えたんや。」
石長比売さんが淡々と言うと、おっちゃんは腕を組んでうーんって唸った。
「いぁー……なんかなぁ……ワシ、勝鬘経とか引用して、『女性の力で国を治めることができます!それは理論的に説明できるんです!』みたいなこと力説しとったのに、蓋開けたら女神が直で統治してるとか……そら上手いこと行くに決まっとるやん……あ、せやけど、ほんならなんで夏菜子のお祖母はんに憑いとったんですか?言うてもその人は、大王でも将軍の正室でもおまへんやろ?なんのために……」
おっちゃんがそう言うと、石長比売さんはウチの手を取って悲しそうな顔をした。
「夏菜子、わたしはな、アンタに謝らなあかんねん。この国……日ノ本はな、私が憑くだけでは物事が解決できへんようになった。それだけやない、そもそも憑くだけの力のある女子がおらんようになった……そやから私は……」そういうと、石長比売さんはウチを抱きしめてこう言うた。
「妊娠して間もない胎児の魂魄を、私の霊で書き換えることにした。」
「えっ?」
ウチは一瞬、意味が分からへんかった。書き換える?どういうこと?まさか……
「分かったみたいやね。そう、胎児の魂魄に取り憑いてそれを書き換える。そうすると、その赤子の魂は私そのものになる。そしたら、その子孫はわたしの血を受け継いだことになる。つまり……」
うわ、酷いやん!乗っ取りやん!……やけど、まぁ結局は、この石長比売っていう人が、ホンマにウチのお祖母ちゃんっていうことで?うーん、どういうこっちゃ??
「あの……ごめんな、夏菜子。わたしは、アンタのお祖母ちゃんになるはずやった子供の魂が出来上がる前に、それに取り憑いて自分のものにしてもうたんや……恨むんなら恨んでくれてええ、許してくれとはいいません。」
そういって、石長比売さんは心配そうにウチの顔を覗きむんやけど……美人やなぁ……確か、まんが古事記かなんかで、石長比売は不細工やからニニギノミコトに要らんっていわれたんやなかったっけ?ニニギノミコト、どんだけ面食いやねん。
「えーと、えーと……あのー、お祖母ちゃんやんね?結局は。ちょっとその、胎児に取り憑いたとか、分霊を入れるために、っていうんは良う分からんけど、ウチが子供の頃、ここに遊びに来た時に飴ちゃんくれたり、一緒にお昼寝してくれたお祖母ちゃんは、石長比売さんそのものってことやろ?」
ウチがそう言うと、石長比売さんはキョトンってなった。
「嫌やないの?嘘ついとったんやで?」そういう彼女を、ウチは思わず抱きしめた。うん、間違いない!
「ちょっと!夏菜子!?」
「嫌なわけないやん!お祖母ちゃんはお祖母ちゃん!ウチの大事な家族や!ただいま、今帰って来たで!」
◆
とりあえず、ウチらは畝傍山口神社で茅乃輪を開いて常世に入った。
そこは、神社の手前にある古い民家で、たぶん、お父ちゃんが子供の頃に連れて行ってくれたお祖母ちゃんの家やった。
「うわぁ……お祖母ちゃん、家残しておいてくれたんや……あ!土間もカマドもそのままや!ここでようご飯炊いたなぁ!」
ウチが言うと、お祖母ちゃんも嬉しそうに笑う。
「ありがとう、現世にあった家は、わたしが死んだ時にあんたのお父ちゃんが処分したから。ほんでこっちに再現したんよ。でも!あんたが喜んでくれて嬉しいわ。まぁ、お昼は食べたやろし、お団子でも食べよか。」
お祖母ちゃんが団子とお茶を用意している間、真魚さんが不意に話し出す。
「いやー……しかしびっくりしたなぁ……石長比売様がこないにベッピンさんやったとは……」
すると、お祖母はニッコリ笑って見返す。
「空海様、それはどういうことです?」
「あ、いえその……ほら、古事記に書いてますやん。大山津見神がニニギノミコトに二人の娘を目合わせると、彼は可愛らしい木花之佐久夜毘売のみを娶って、醜い石長比売を拒んだ、ッていうヤツ。いやー……ニニギノミコトはん、えらい見る眼がないなって思うて。」
真魚さんがそういうと、お祖母ちゃんはプッて吹き出すように笑った。
「空海様!あのスカタンの話、ホンマに信じてます?」
す、スカタン!?天孫をスカタンって!上から目線すぎひん!?いちおうその子孫のおっちゃんもおるのに!
「ちょっとちょっと……お祖母ちゃん、それ言い過ぎやって……」ウチはそう言うてお祖母ちゃんの手を取ったけど、おっちゃんはゲラゲラ笑ってる。
「そらええわ!いやー!実はそれ、叔母上も言うてましてん!倭の男は最初のスタートラインが間違うとる!ヘタレばっかりや!アンタはそんな風になったらアカンでって!」
おっちゃんがそう言うと、お祖母ちゃんお腹を抱えて笑った。
「そうやねぇー、わたしが憑いた女の子らは気が強い子が多かったからな~。神功皇后とか、気ぃ強いし口も悪いからしょっちゅう言うてたわ。『目ぇ噛んでしね!このヘタレが!』って!」
「ちょっと待って待って……それどういう話だんねん?ニニギノミコト様がスカタンって……」
真魚さんがそういうと、お祖母ちゃんは涙を拭きながら、ああごめんごめん、説明するわ、って言うた。
「えーとねぇ、空海様。ニニギノミコトが『醜い』って言うたんは、『こいつ、女のくせに頭が良うて可愛げない』っていう意味ですわ。」
お祖母ちゃんが笑いながらそう言うと、田島とアレ君は、心底軽蔑したようなゲンナリした表情になった。
「何それ……女だからって舐めてんじゃん!天孫ってさ、王様の先祖でしょ!王様のくせして女をそんな風に扱うのかよ!クソじゃん!」
「いやー、それはダメだべ。男どしてクズ過ぎるべ。おいはさ、母っちゃがロシア正教徒だはんで、聖書の話も子供の頃さ聞がされだげど・・・イエス様は、不倫して皆がら石ぶっつけられそうになってだ女の人さ、庇うがらね!男の格、違い過ぎるべ!」
「まぁまぁ……いやー、今の子らはハッキリモノ言うねぇ~。まぁ、スサノオはんはクシイナダはんを守って戦ったからねぇ……実は、この話は続きがあってな。妹のコノハナサクヤが妊娠した時、あの男は『天神でも一夜で孕ませることはできない。それは私の子ではない』って言いよってん!ほんであの娘は、怒って産屋に火をつけて『私の子が天孫の子であれば傷つかない、そうでなければ焼け死ぬ!』」と誓約したんよ~。まぁ、三人とも子供は無事に生まれたし、そやからみんな天孫やっていうことになったから良かったようなものの……あの娘、その事件の後でわたしに相談に来てな。『お姉ちゃん、ウチは運命の出会いや思ったけど、旦那はクソやったわ。ごめんやけど、これから何かあったら助けてほしいねん。』っていうとったなぁ~」
お祖母ちゃんは笑いながら言うてたけど、おっちゃん以外は「えーっ……」ってため息をつく。
「ねぇねぇ、お祖母ちゃん。」ちょ、田島待てや。お祖母ちゃんはウチのお祖母ちゃんであって、アンタのお祖母ちゃんとちゃうんやで。あと、なんでそないにしっかり手を握ってんねん?
「あら?どないしたん、えらい甘えて。美紗ちゃんやったっけ。頭ナデナデしたろか?アンタもベッピンさんで可愛らしねー。」
「やったー!あ……そうじゃなくて……」田島はお祖母ちゃんに頭をなでなでされて、ニコニコしながら抱き付いたけど、流石にアカンと思うたんか、ちゃんと座りなおした。
「ん、んー!ごめんなさい、お祖母ちゃん。そうじゃなくて……そのー、コノハナサクヤさんが言った『何かあったら助けて欲しい』ってヤツ?それって初めに言った、『運命を持った女の子に取り憑いて国を救う』ってことなのかな?」
そしたら、お祖母ちゃんはニコッて笑ってもう一回田島の頭を撫でた。
「アンタ、よう分かってるやない!そう、そういう事やね!まぁ言うたら、この国の男は根っこに芯がないっちゅうことや。ウマヤド様、その話をお父はんから聞きたぁて来たんやろ?ちょっと待っとって下さいね。今呼んで来ますさかいに……」
「え?お祖母ちゃんのお父ちゃん?誰それ?」ウチが訊くと、お祖母ちゃんは優しくウチの頭を撫でて言った。
「何言うてんのこの子は……わたしの、この石長比売の父神っていうたら大山津見神、この国最古の国津神に決まっとるやないの。空海様、覚悟しといて下さいね。お父はん、あんさんには100回くらい説教せなアカンって言うてましたわ!」
お祖母ちゃんがそういうと、真魚さんはピィーンって固まって棒みたいになった。
【飴ちゃん最強説と、ニニギの株の大暴落】
読んでいただきありがとうございます!
今回は、物語の根幹に関わる「お祖母ちゃん(イワナガヒメ)の真実」が明かされました。
【今回の一口メモ:神の論理と、人間の情】
「国を守るために、赤子の魂を書き換えた」という、神様ならではの冷酷さと悲しみの深さ。
それに対して、夏菜子が出した答えは「難しいことは分からんけど、一緒に昼寝して飴ちゃんくれた、ウチの好きなお祖母ちゃんや!」というものでした。
一見残酷なやり方に見えても、その背後にある石長比売の深い愛。それをきちんと分かることができるのが、主人公 夏菜子の最強の力「幸魂であり、この物語のテーマでもあります。
【ニニギノミコト、公開処刑の巻】
そして後半は、まさかの「古事記の裏話(女子会ノリ)」でした(笑)。
イワナガヒメがニニギに送り返された有名なエピソード。実は「顔がブサイクだった」のではなく、「賢すぎる女は可愛げがない」というのが真相でした。うーん、今でもそんな話、聞きますよね。
さらに、アレ君(お母ちゃんがロシア人)による「浮気した女性すら庇うイエス様」との比較により、ニニギの「妻の浮気を疑って火を放たせるヘタレっぷり」が国際基準でボコボコにされるという事態に……。
神功皇后(八幡さん)も似たようなエピソードがあったようで、「目ぇ噛んで死ね!このヘタレ!」と史実で言っていたかどうかは分かりません(笑)。
さて、ラストで顔面蒼白になって固まった真魚さん(空海)。
次回はいよいよ、日本の山の神の総元締め・オオヤマツミ(お父はん)が登場します! なぜ空海が100回説教されなければならないのか?
次回も怒涛の展開です。お楽しみに!




