第46話 日本の始まりを調べようと思ったら、仏教の天才たちも煩悩があったり、剣豪も流行には敏感だったりする話
「おっちゃん、なにこれ?」ウチが訊くと、おっちゃんはそれを開いて読み始めた。
「んー?ワシなぁ、十七条憲法って作ったやん?それ作る過程でな、仏教の経典とか、日ノ本の歴史とか調べたわけよ。ほんでその中にな、なんか今回の件に関係ある大事なことを書いとったような気がして。畝傍山のご老体に会うて話するにしても、ちょっと頭の中を整理しとかなアカンやん。それを確認したかってん。」
おっちゃんは、そう言いながら巻物を順番に手繰っていく。二頭身のヌイグルミが巻物を手繰っていく姿はだいぶシュールで、このモフモフの指でどうやって巻物を掴んでるんか謎やけど、おっちゃんは「ふむふむ」とか「あー、そう言えばそうやったなぁ、忘れとったけど」とか、一人でブツブツ言ってた。
それで、南阪奈道路を走って行ってトンネルを抜けると、田島が、「わぁー……」って声を上げる。
「これが奈良?初めてきたかも。大阪とも神戸とも雰囲気ちがうねー。なんか、周りが全部山って感じ。」
ウチも来たのは久しぶりや。『とりあえず昼ご飯を食べよう』ってことになって、山を下ったところにある「道の駅 かつらぎ」に入る。
「葛城かぁー……久しぶりに来たなぁー……」おっちゃんが道の駅からの風景を見ながら、しみじみした感じで言うた。
「そやなぁ……オレも一回か二回来たくらいやしなぁ……そうかぁ、今こないなってんねんなぁ……」真魚さんも感慨深そうや。高野山からやったら近いのに?
「真魚さん、高野山からこの辺来るんなんか、JRですぐやん。ドイツ行ったりしてるんやし、ほら、テレポートみたいなんも出来るんやろ?なんで来ぇへんかったん?」
ウチがそう言うと、真魚さんはうーんと考え込む。
「いやー……オレ、奈良の坊さんとは一応上手いことやってた風やけど、当時は気ぃ遣うたんよ〜。今でこそやで、高野山とか比叡山ってメジャーやけど、当時は京都の仏教なんか二流三流やってん。やっぱりな、本流は奈良やって。そんなんもあって、オレ、奈良もう一つ苦手なんよね~」
「え?そうなん?ワシのとこ(四天王寺)はそないなことなかったで?真魚ってアレちゃう?言うことはロッケンロールな感じやけど、割と権威っちゅうの?そういうん気にするやんな?」
おっちゃんに突っ込まれると、真魚さんは嫌そうな顔をする。
「ちょ、アホなこと言うなや……オマエ、日本仏教のレジェンド中のレジェンドやん。なんなら四天王寺って聖地やん?平安時代でも四天王寺って別格やし、それと一緒にすんなって。それよか、弟さんの寺、今どないなってんの?」
「え?あー……當麻寺なぁ。実はワシ、ここ800年くらい行ってないねん。どない言うんやろ?マロっち(おっちゃんの弟の麻呂古王っていう人)が立てた寺やし、いちおうアイツも神さんになってたから、しばらくは会いに行ったりしてたんやけど、鎌倉の時分に浄土宗に変わった頃かなぁ……アイツ、『兄ちゃん、オレもうエエわ』って言うてな。輪廻の輪をくぐってしもうて……いやまぁ、ワシら皇族やし、言うてもお母はんは違うから、それぞれの人生やって思うてたんやけど……なんか淋しいなって。帰って来るんちょっとしんどいって言うか……」
「へぇ……なんかその、太子のおじさんって、割とナイーブだったりする?あ、ごめん! そう言うんじゃないんだけど……観音様だから、もっとこぅ『悟ってるオレ、超無敵!』みたいな感じだって思ってたから。」
田島に言われると、おっちゃんが「うーん、まぁ……」って言う。
「なんちゅうの?真魚みたいな鬼メンタルな仏って、案外少ないんよ。ほら、四天王寺で恵信尼さんと森女さんに会うたやん、親鸞と一休の嫁さんの。その親鸞と一休って、むっちゃ悩む奴らなんやで?特に親鸞なんか『僕、ぜんぜん良いとこないんです。エっちゃん(恵信尼さんのこと)にも苦労ばっかり掛けてるし。僕なんて地獄に落ちた方が良いくらいだし、人間失格ですよ』とか、しょっちゅうわけ分らんこと言うてるで。」
「へぇー……そう云うものなんだ。じゃ、真魚さんは悩みないの?」っと、今度は田島は唐突に真魚さんに振る。
「え?オレか?悩み……悩みねぇ……あー、そうね。独身生活飽きたし、そろそろ結婚したいな~♪」
真魚さんがあごひげを撫でながら思い出したように言う。
「なにそれ?真魚さん、今さら結婚とかしたいん?1300年くらい独身生活を謳歌してるのに?」
ウチが訊くと、真魚さんは「いやー」って言った。
「ほら、アレやん。オレの頃はな、女犯っていうて、出家した奴は結婚とかでけへんかってん。そやけど、その後に親鸞とか一休とか出てきて、なんか別にええ感じになってきたやん?今やったら坊さんが結婚するんなんか普通やん?そやったら、ワシみたいなイケメンが独り身でおるんもアカンな~って思うわけ。」
何それアホみたい。そんなん悩みちゃうし。なんか聞いて損した。
「ん?夏菜子ちゃん、なに膨れてんねん?オレなんかいらんこと言うた?」
「ちがうよ、真魚さん。夏菜子は真魚さんの悩みがしょうもな過ぎてちょっと怒ってんじゃん……なんか真魚さんって、デリカシーないなぁ。天才にはありがちかもだけど。」
田島に突っ込まれて、えっ?そうなん、って言うと、真魚さんはおっちゃんを振り返った。
「別におかしいことないやん。太子、どない思う?オマエ嫁さん4人くらいおったし、オレの気持ち分かるやんな?」
真魚さんに言われると、おっちゃんは呆れたような顔をした。
「いやー……ワシもアカンと思うわ。なんかオマエ、さっきの話の流れで『オレ結婚したいねん、それがオレの悩みやねん』とか言う? いやホンマ、ワシおまえのことマジで仏教の天才やと思うけど、そういうところ絶望的にアカンわ。モーツァルト級やわ。あ、浪速のモーツァルト、キダタロー先生とちゃうで。」
うん、最後の例えは、なんかよう分からへんかったけど、とりあえず、真魚さんがアカンオッサンやていう事だけは分かった。
「そんで真魚さん、なんた(どんな)女子っ子がええだす?」今後はアレ君に突っ込まれると、ムフフーとキモイ笑顔を浮かべる。
「やっぱり、仏界で一番のベッピン言うたらターラ(多羅菩薩)ちゃんやろ!すんごい優しいし、美人やし、しかも服いつもスケスケでめっちゃセクシーやねん!」
「あ、その人、太子のおじさんも言ってたけど……なんかサイテー。いっつも服スケスケで乳ポロでエロエロだから好きって。あーし、真魚さんがそんな人だって思わなかった。セクハラ大師だよ。これからは南無セクハラ大師遍照金剛って言わなきゃだよ!」
いや、田島よ。真魚さんはそこまで言うてへんで?そら可哀想すぎるやろ、って思ったら、おっちゃんが真魚さんの肩をポンポンたたく。
「あのな、真魚。いま21世紀やねん。二人とも年頃の女の子やで?その前で服スケスケはあかんわ。重罪やわ。あ、ちなみにな、ターラちゃん『真魚さんはわたしを見る眼がいやらしいから嫌いです』って言うとったで? あ、もひとつ思い出した。パラミタがお前とまたデートしたいって言うとったで?ええやん。アイツ頭のネジ飛んでるけど、いちおう美人やし。なんやかんやでサバサバしてて性格もええし。」
おっちゃんがそう言うと、真魚さんは露骨に嫌な顔をした。
「ちょ、太子……それさすがに酷ない?ターラちゃんアカンのは、まぁしゃあないとして……あの、切り刻むしか能のないジャージ女あかんやろ!?嫌すぎるやろ!だいたいこないだのデートちゃうし!無理やり拉致られて、ランニングと剣の練習に一日付き合わされただけやし!」
「ふわぁー…うるせぇな……寝てらんねぇぜ……」っと、急にガム新さんが、姿を現した!あれ、今までどこ行っとったん?
「いやまぁ、特に邪気も感じねぇしよ。石清水でだいぶ力を使っちまったから眠くなっちまって。四天王寺と叡福寺は霊気が満ちてて寝るにゃ気持ち良いしな。あれ?そういや、総司も半次郎の旦那もいねぇな?」
あれれ?今の今まで気が付かんかったけど、
スマホを見ると、そこにはガム新さんのアイコンしか表示されてない。どういうことやろ?
「なぁ田島、ちょっとアンタのスマホ見てや。総司さんか、半次郎さんおらへん?」
「え!?……あ、うん、ちょっと待って……そう、だね。あーしのスマホにもガム新さんしか出てこないね。」
そうなんや……一人だけしか護衛がおらんのは用心悪いな……
「あ、それなら大事だべ。オラの護衛もいっから。おーい、ジュウベーさーん!」
「ヘイヨ~!オレを呼んだかブラザー!」なんやコイツ!アレ君が呼んだ護衛は、ドレッドヘアでサングラスをかけて、ダボッてしたTシャツにカーゴパンツを履いた、なんかイマイチいけてないラッパーやった。
「アレ君、これ誰?護衛って、柳生十兵衛三厳さんやなかったっけ?ほら、ゴッツイ怖いお侍の。」
「そだ、これが十兵衛三厳さんだべ。」え?うそやん!何であの、リアル侍がラッパーになんの?
「ヘイヨー!お嬢さんマジ分かってない江戸時代のオレ、イケてない、ここは令和、オレも平和、みんな幸せ活人剣Yaa!」
な、なんやこの人…十兵衛さんは、中途半端であんまりカッコよくないラップを歌った。っていうか、ただ変な喋り方してるだけやけど…と、思ってたら、ガム新さんが口をあんぐり開けてパクパクさせてた。
「ちょっと・・・この唐変木が柳生十兵衛三厳殿だって!?いってぇどうしなすったんです!?」
◆
「いや、三厳殿、おれぁ何も今風にするのがダメなんて言ゃあしませんぜ?でもよぉ、アンタは俺ら剣客の目標、神なんだから、そういう西洋かぶれだかなんだか分からねぇ奇態なことはやめてくだせぇよ?だいたい前にお方様(八幡さんのことやで)の前に出てきた時ぁ真っ当な格好だったじゃねぇですか?」
フードコートで瓦焼きそばを食べながら、ガム新さんが十兵衛さんに説教してる。
「ヘイ!ガム!オレら剣客、からだ感覚、それを無くすはマジ失格・・・だから三学、まじで・・・あれ?えーと、えーと・・・」
「ほら言わんこっちゃない。出来もしねぇのにラップだなんだって、韻が踏めてねぇじゃねぇですか!もー、そんなん良いから早く飯食って行きましょうぜ。ねぇ太子様」
ラップが歌えなくてシュンってなってる三厳さんを放って、ガム新さんがおっちゃんの方を向くと、おっちゃんは例の巻物を一生懸命読んでるところやった。
【憲法の裏側と、最強のジャージ姉さん】
読んでいただきありがとうございます!
今回はレジェンドたちのキャラ崩壊回(笑)でしたが、その裏には重要な伏線が隠れています。
【用語解説】
十七条憲法と歴史調査:
おっちゃん(聖徳太子)が憲法を作る際、ただ条文を考えただけではありません。『三経義疏』を著して仏教を解釈しつつ、そこに儒教の教えや、日本古来の神道を統合しようと試行錯誤していました。
そのの中で見つけてしまった「表に出せない真実」が、今回の巻物に記されている……という設定です。
パラミタ(般若菩薩):
真魚さんが恐れる「ジャージ女」の正体。般若波羅蜜多=「仏の智慧」を神格化した存在であり、「持明院」を構成する5人の明王たちの一人です。
本来は「迷いを断ち切る」智慧の象徴ですが、この世界では「物理的に悪を斬り刻む戦闘狂」になっています(笑)。
ちなみに彼女の純白ジャージには、銀の刺繍でビッシリと般若心経が書かれています!
さて、フードコートでのドタバタの裏で、おっちゃんは「ある真実」にたどり着いたようです。
次回、いよいよ物語は「日本の起源」と「畝傍山のご老体」へ。
お楽しみに!




