第42話: 結局、精進料理も食べられへんで、イタリアンとロシア料理と河内ワインになる話
そういうわけで、ウチらは精進料理を食べることも出来んと、四天王寺を出ることになった。割とエエ時間やねんけどな~・・・
「で、おっちゃん、何処に行くん?」
「ん?ちょっと叡福寺にな・・・あ、そや。オマエもいっぺん実家に帰ったらどないや?お父はんとお母はんも心配してはるやろ?」
もちろん、田島が「えっ?」って顔をする・・・まぁ、おっちゃん知らんからしゃあないけど・・・
「おっちゃん、ウチの家、離婚してお父ちゃんおらへん。家出て行った。」
「えっ!・・・いやその、すまん・・・不用意やった・・・」
「ええて、知らんねんから。ちょっと待ってや・・・」そういって、ウチは実家に電話する・・・っていうか、お母ちゃんは電話しにくいから、お義姉ちゃん、つまり兄ちゃんの奥さんに電話した。
「あ、お義姉ちゃん?ウチ。急やけど、今日ちょっとウチ帰ってええ?・・・うんうん・・・ありがとう。ごめんな。ちょっと友達もおるから家に泊まるかどうかわからんけど・・・え?ホンマに?いや、せやけどお義姉ちゃん大変やん・・・そやしお母ちゃんが・・・え?そうなん?・・・うん、分かった。ありがとう・・・ほな、後でな。」
電話を切ると、田島とアレ君、おっちゃんが心配そうな顔でウチをみる。
「あの・・・夏菜子・・・大丈夫やったか?ムリせんでええんやで・・・」
「ん?あ、大丈夫。お義姉ちゃんがな、わざわざ他所に泊まってもらわんかてええ。みんな連れてきたり、やって。お義姉ちゃん、めっちゃ料理旨いねん。今日はイタリアンと河内ワインで宴会や!言うて張り切ってた。」
「いや、でもさ、いきなり行って迷惑じゃない?それに何人もで行ったら寝る場所だって…」
「大丈夫、ウチ農家やし部屋いっぱいあるから。田島、虫でるけど大丈夫?ゲジゲジとかムカデとか。アンタ嫌いやろ?」
「それは別に…大丈夫だよ、なんで?」アレ?おかしいな、蛾でも嫌がるのに。
「よっしゃ…ほな行くわ…すまんな、真魚、わざわざ高野山から来てもろたのに、飯も食いに行かれんで。」
「お、おう…まぁこんな状況やしな…ん?どないしてん、アレ坊。」
真魚さんが手を振って金堂を出ようとすると、アレ君が引き留めた。
「真魚さん、このまんまじゃわんね。勝てね。オラの金烏玉兎集Ve2、今日サイバー攻撃さ受けたっけど、あの真琴って人だはず。まんずすげぇ!呪力とネット通信が完全に融合してっぺ。AIと式神の区別もねぇす(無い)。太子様、四天王寺でITやってる人いねすが?紹介してけれ。高野山チームと合同で対抗しねば。 あと、オラも畝傍山さ連れてってけれ! 元が分からねば対抗できねす!」
◆
「ちゅうわけで、太子町にいかなアカンねんけど・・・」 なんでか知らんけど、ウチらは鶴橋の鮮魚店におった。 「急ぐんちゃうの? アレ君。」 せやけど、アレ君は目を輝かせて、いろんな魚を見ては、店のおっちゃんに色々質問してた。
「うぉ! なんだこのタチウオ、でっけぇな! すげぇ美味そうだ! 秋田だば食えねす! ……あ? なんだこのカニ……ガザミ? 青いな……おっちゃん、これなんだすか?」 「なんや兄ちゃん! ガザミ知らんのけ! 今はオスが旬で美味いで! 蒸しがオススメやな。」
「コレは迷うな……あ、こっちのシマシマの魚は……熱帯魚だすか? 」 アレ君が指さしたのは、黄色と黒の派手な縞模様がある、平べったい魚やった。 「お? ……これか? 『カゴカキダイ』や! 見た目はアレやけど、実はめちゃくちゃ脂乗ってて美味いんやで! 知る人ぞ知る、ってやつや!」
アレ君は、そのド派手な魚をまじまじと見つめて、指でツンと押した。 「……ほんとだ。すげぇ弾力だ……この脂の乗り方、ただモンじゃねすな。 よし! これもけれ!」
「……っていうかアレ君、なんで魚買いに来たん?」
「そりゃ、夏菜子さんちに泊めてもらうのに、手ぶらってのはわんね(ダメだ)。それに、おれも漁師の息子だすけ、捌くくれぇ手伝わねば!」
「ん? アレ君、料理できるん?」
「漁師料理と、ロシア料理だけどもね。おらたちの分、全部お姉さんに作ってもらうってのは申し訳ねす!」 なんか…アレ君って、妙に義理堅いところあるよな。
「せやけど、こないのんびりしててええのん? ハッキングされてんのちゃうん?」
「ん? あぁ・・・それなら大丈夫だす。あの真琴って人、たぶんオレらを攻めんのが目的じゃね。多分だけど『おめだつの今の力じゃ敵わね、ふんどし締めなおせ』って言いたかったんじゃねがな・・・敵さ、だんだん強くなってきてら。式神を使ったハッキングが通じにくくなってるす。」 可愛くて綺麗なアレ君の顔が、精悍で鋭い男の顔になっていく・・・なんか、ウチはちょっとそのまま見続けられへんようになった・・・顔の周りが熱なる・・・。
「おい、アレ君よ。そらどういうこっちゃ?」 おっちゃんが聞くと、真魚さんが代わりに答えた。
「いや実はな、高野山に行って直ぐにスパコンで金烏玉兎集組みなおして、敵の探索とサイバー攻撃を行ってたんやが・・・」
すると、アレ君が買うた魚を発泡スチロールに入れて担ぎながら、応える。 「昨日今日で、急に効きにくくなったす。敵の攻性防壁で頭さ焼かれそうになったこともあるす。どさしようって思ってたら、真琴さん入って来て・・・多分教えてくれたでねが? 四天王寺の坊さん方に教わった加持祈祷で、いまは反撃出来てるすから。やっぱ四天王寺はスゲェーす! 宝の山だ!」
「はは・・・そうなんや・・・ま、とりあえず魚も買うたし、はよ行こか・・・」
◆
今日はもう遅いから、っていうことで、とりあえず皆でウチらの実家に行った。
「ただいま~、お義姉ちゃん、お母ちゃん、いてる~?」ウチの実家は昔からある古民家やから、玄関を開けると土間があって、家族はその奥にいる。しばらくすると「はーい」って声が聞こえた。
「夏菜子ちゃんお帰り~!あらまたエライ別嬪さんの友達やんか~、ほんで・・・わ!??なんやアンタ!またごっついイケメン連れて帰って来て!なになに?外国の子?えーと、日本語は通じるんかいな?ハ、ハロー?」
「お義姉ちゃん、アレ君は日本人やて・・・ちょっと紹介するわ・・・えーと、この子は同じ課の同僚で田島美紗、東京出身。ほんでこの子は高橋・アレクセイ・銀次郎くん。洲本市役所の職員やねん。」
「初めまして、田島美紗です。夏菜子さんの同僚で親友です。」
「急に押しかげですまねす。高橋・アレクセイ・銀次郎だす。夏菜子さんには色々どお世話になってるす。」
アレ君が挨拶すると、姉ちゃんは眼をパチパチさせた。
「夏菜子ちゃん・・・日本人・・・やねんな?今のは何語やろ?フランス語とか?」
「ちょっと!失礼やん!アレ君は秋田出身やからちょっと訛ってるだけや!あはは・・・ごめんな、アレ君・・・ほんであとの二人は・・・」
「あ、どうも夜分にすみません・・・私はウマ・・・えーと、馬戸って言いまして、四天王寺で行っている神社と仏教寺院の連携事業についてですね、夏菜子さんと美紗さんに色々手伝っていただいておりまして・・・」
「本日はありがとうございます・・・手前は高野山の方から来ました佐伯空界と申しまして。ままこの銀次郎くんと一緒に仏教のDX化に取り組んでいるのですが、県庁職員のお二人にもいろいろとご協力を・・・」
うん、確かに嘘やない。この国の神様のリーダーである姫を助けるんやから。
せやけど、何時の間に着替えたんか、おっちゃんはスーツ姿のダンディーなおじ様になってて、真魚さんは品の良い袈裟を着た偉いお坊さんみたいな感じになってる!ほんでお義姉ちゃんの眼がハートになってた!
「ちょっと!夏菜子ちゃん!このシブいおじ様たち誰なん!?あ、アカン、ウチには愛するダーリンが・・・」
「お義姉ちゃんなに言うてんの?それよかお兄ちゃんは?あとお母ちゃんはどこなん?」
「お兄ちゃんは集落の寄合い、お母ちゃんは部屋で韓流ドラマ見てるわ。ご飯まだやろ? 今からパスタしたるさかいな・・・あ!馬戸さんも佐伯さんも楽にして下さいね!ウチはワインしかあらへんで、お口に合うたら良えんですけど!お母さん、おかあーさん!夏菜子ちゃんが帰って来たで~!」 お義姉ちゃんは上機嫌でキッチンに戻ろうとすると、アレ君が呼び留めた。
「お義姉さん、おいにも何が手伝わせでもらえねですが?泊めでもらうども晩御飯もごぢそうになるっていうのは、さすがに申し訳ね様な気がして。ロシアの魚料理ですまねすが、もしお口さ合うようでしたら。」
「え・・・ほんまに!夏菜子ちゃん聞いた!?お義姉さんやて!お母さん、おかあさーん!夏菜子ちゃんが婿さん連れて帰って来たで!早よ来て~!
「ちょっと!お義姉ちゃん何言うてんの!?ご、ごめんアレ君!・・・台所こっちやから!田島も手伝うてぇや!」
アカン、たぶんウチ、真っ赤な顔してたかも・・・
それからウチらは、みんなで晩御飯を作った。田島はお義姉ちゃんとパスタ作り。アレ?なんか田島の手際が妙に良い?
「あら!アンタ料理上手やね!なんかな、夏菜子ちゃんが同じ職場の子がコメもよう研がれへん言うてたけど?」
「夏菜子ちゃんは大げさなんです。わたしも一通りできますから。あ、ガザミを蒸してパスタの具にするんで、ワインお借りしますね!」
「なんや田島・・・何時の間にあんなテクニックを覚えてん・・・」
「夏菜子さん、どした?」ウチが怪訝な目で田島を見ている間にも、アレ君はどんどん魚をさばいていく。
「ううん、何でも・・・って早やっ!あんなでっかい太刀魚もう三枚におろしたん?あ、カゴカキダイも!ごめん、急いで野菜切るわ!ていうか、何つくるん?」
「母っちゃの得意料理で、スグダイとウハ―って言うんだす。オラん家は父っちゃが漁師で母っちゃはロシア人だすけ(※だから)、父っちゃが獲ってきた魚で毎日魚料理だったす。」
「スグダイとウハ―?なにそれ?」
「スグダイはマリネ見てぇなやつだす。あ、そのミョウガと大葉と玉ねぎのスライスさ、入れてけれ。んで、ウハ―ってのは魚のスープだす。こご(ここ)は山手でちょっと涼しいから、ちょうど良いすべ。」
へー・・・アレ君すごいな、めっちゃIT詳しいし、料理も出来るし、しかも男前って・・・って言うてる間に料理が出来て、ガザミのパスタもちょうど出来上がった。
読んでくださってありがとうございます! 今回は、嵐の前の静けさ……というか、嵐のようなお義姉ちゃんの登場でした(笑)。
IT技術者で、漁師の息子で、料理もできてイケメン。 アレ君のハイスペックぶりが際立つ回となりました。鶴橋の市場で目を輝かせる姿、可愛いですね。
そして、田島にも変化が。 以前は蛾を見ただけで悲鳴を上げていたのに、農家の実家でも平然としていたり、プロ顔負けの手際で料理をしたり……。 みんなは「豊受姫の影響かな?」と思っていますが、果たして真相は……? 彼女の意外な一面にも注目です。
次回は、いよいよお父ちゃんの蔵へ。 美味しいご飯を食べた後に待っている「衝撃の展開」をお楽しみに!




