第40話: とんでもなく大変なことが判明!事件は四天王寺の金堂で起きてるんや!
「えと・・・ウチは太子のおっちゃんが行くからって・・・」そう言うと、こんどは恵信尼さんは座りなおして真っすぐウチを見た。
「夏菜子さん・・・」顔は笑ってるけど、目が笑ってない。なんで?
「はっ・・・はい・・・」
「太子様に言われたから行く・・・そのようなことがあると思いますか・・・?」
「ちょ、ちょっと恵信尼はん・・・来い言うたんはワシなんやから・・・」
「太子様、私はいま夏菜子さんにお聞きしています。しばしお待ちくださいね・・・」え?おっちゃんがビビってる・・・どうしたんやろ・・・っていうか、何をいうたらええん?
「えと・・・でもウチ、橿原神宮とか談山神社って言われてもどんなとこか知らんし…挨拶まわりと根回しやって聞いたけど、別にウチいらんような気ぃもするし…」
ウチが言うと、恵信尼さんは、ふっとため息を着いた。
「では淡路島に帰りなさい。」え?
「ちょっと!恵信尼はん!」おっちゃんがびっくりして声を上げる。真魚さんも、唖然として口が開いたまんまになっていた。
「ちょっと!なんだよ!夏菜子が何したっていうのさ!?さっきから聞いてたら夏菜子のことばっかいじめて!」田島が、ウチと恵信尼の間に割って入った。あれ?夏菜子って?
・・・でも、田島がそれ以上言おうとしたら、森女さんが間に入ってきた。
「ねぇ・・・あなた。今は夏菜子さんが叱られている番なの。あなたはわたしがいっぱいお説教してあげるからこっちにいらっしゃい…」
森女さんが妖しく笑って田島の手を取ると、金堂の外に連れて行った。
「ちょっ!何すんだよ!離せっ!夏菜!」
「ふむ…あの金髪のお嬢さんは森女さんに任せましょう…ねぇ、夏菜子さん。因果応報という言葉は知っていますね?それは、今この瞬間に起きることは、全て自分が選んだこと、自分が思ったことの結果ということです。」
「はい…それはなんとなく…」
「であれば、あなたが今ここにいることは偶然ですか?あなたが、なぜイザナギ様を助けようとしたの?アマテラス様を守りたいと、なぜ思ったのかしら?」
「それは…だって!可哀想やないですか!」
そんなん当たり前やん!姫は泣いてたんやで!せやけど、恵信尼さんは厳しい目をしたまま言うた。
「可哀想?・・・驕り高ぶるものではありません…アマテラス様はこの国の皇大神。あなたのような、何の力もない若い女性が助けたいなどと、おこがましいと思いませんか?
あの方はその気になれば、この国の人も魔も、裁きの光で焼き尽くして仕舞えるのです…その、悪しき企みを持った人間たちも例外ではありません。
高天原の光で、まつろわぬ国津神も、妖も、人も、全て支配し、それに逆らうものは悉く滅ぼしてきた。それだけではありません。役目を果たさぬものは、例え我が血と霊を受けようと容赦なく切り捨て、替わる者を据える…それこそが、この豊葦原中津国の一切を統べる光の神です。
石清水で、あのお方の姿を垣間見たでしょう?あなたはそれでも、あの方が可哀想だと思えるのですか?」
「いや・・・でもアレはお芝居で・・・」でも、ウチはちょっと自信がなかった。あのときの姫の態度は、ホンマに饒速日さんを救うためのお芝居やったんやろうか?それとも・・・いや、そやけど!
「ウチは・・・ウチは!姫が可哀想やって思ったんです!よう分からへんけど!ウチの腕の中で姫はホンマにわんわん泣いてたし、関東炊き美味しそうに食べてたし!石清水で、お好み焼き無い無い言うて、ウチに焼いて~って言うてたし!」そういうと、恵信尼さんはニッコリ笑った。
「ねぇ、夏菜子さん。それって何ていうの?」なんて?何てって、えーと・・・
「あなたと、美紗さんみたいよね?そうじゃないかしら?」?ウチと田島?・・・あっ!
「恵信尼さん、それって、ウチと姫が友達みたいってことですか?」そういうと、恵信尼さんがゆっくり頷く。
「夏菜子ちゃん・・・あなた、アマテラス様のことが好きなのよね?友達ってそういう事じゃないかしら?」
あっ・・・、そっか。
「じゃあ、この先何をしないといけないのか、どうしたいのか、分かるわね?・・・あっ、あっちも終わったみたいね・・・」恵信尼さんが言う方を振り返ると、お話が終わったのか、森女さんと田島が金堂に入ってきた。
でも、田島はなんか、考え込んでるみたいやった。
「恵信尼様、お話終わったかしら?あら夏菜子ちゃん、ちょっといい顔になっているわね?まぁ、美紗ちゃんはもう少し時間がかかりそうだけど・・・」そういうと、森女さんは田島の背中をおして、ウチに押し付けてくる。
「まぁ、あなたがいれば大丈夫でしょ。太子様、弘法大師様、わたしたちのお話は終わりました。会議の続きをして下さいな。」
◆
「あ?ええんかいな、ほんならまぁ…真魚、アレ君、ちょっと資料写してくれへん?」
おっちゃんがそういうと、金堂の中に設置された大きいスクリーンに『堕天の可能性について』って書いたパワポが表示された。
「皆の衆、修行中の者も、解脱した者も、慌ただしい中よう集まってくれた。今日は緊急の事案での参集やけど、事前に配った資料は見てくれたやろか?」
そういうと、集まったお坊さんたちが皆頷いた。
改めてよく見ると、いろんな人がいる。
日本のお坊さんだけやなくて、オレンジ色の袈裟を着た東南アジアっぽい人、赤い袈裟をきたチベットっぽい人、あと、アメリカとかヨーロッパっぽい人もいる。
それだけやなくて、背中に後光が差してる人らがチラホラ…
ウチは、前の席でパソコンを操作してる真魚さんに聞いてみた。
「なぁ、真魚さん。この人らってなんなん?四天王寺のお坊さんとちゃうん?」
「あ?あぁ、この連中はな、太子に師事する世界各国の坊主と、あっちゃこっちゃの浄土から来た阿羅漢と菩薩どもや。あのテーブルの上に笠おいて、赤い前掛けかけた人おるやろ?あれ地蔵さんやで。」
あ、ほんまや。なんか可愛らしい顔した人がおる。赤い前掛けと、毛糸の帽子被ってはるな。
で、その人が手を上げた。
「ウマくんさぁ、最近なんか地獄に落ちて来る子たちがね・・・急に減ってきたんだよ・・・それってひょっとして今日の話に関係ある?なんかさ、中陰でさまよってる魂がいるなぁーって思ったら・・・フッて、掃除機で吸われるみたいに、どっかに消えちゃうんだよね・・・」
お地蔵さんが不思議そうに首をかしげると、会場がざわついた。 真魚さんが、パチパチっとキーボードを叩いて、スクリーンにグラフを表示すると、おっちゃんがギョッとした。
「……なるほど。地蔵先輩の言う通りや。 太子、これ見てみぃや。ここ半年くらい、日本周辺の『霊的質量』が徐々に減って来とるで。」
「なんやて?どういうこっちゃ真魚よ?まさか死んだ人間の魂が吸い取られとるんか!?」
「いや?霊魂の数は・・・変わらんな・・・どうも、魂魄の中に詰まっとる「霊力」の密度が落ちとるんとちゃうか?あ、なんやこれ・・・死者だけやのうて、そもそも生きとる人間の霊そのものが弱っとるけど・・・これは、穢れやな・・・まぁいうたら、『摩耗』させられとる、っちゅうこっちゃ。」
「摩耗?」ウチが聞き返すと、真魚さんはウチのスマホを指さした。 「夏菜子ちゃん、自分最近、スマホ見てて『しんどい』思うことないか? X(旧Twitter)やらTikTokやら見てて、誰かが誰かを叩いたり、不安になるニュースばっかり流れてきたりして。」
「あ……ある。なんか、見たないのに見てもうて、そのあとドッと疲れる感じ……」
「それや」 真魚さんがパチンと指を鳴らす。
「饒速日はんは、黒い背広を着た奴をみたって言うたんやて?アルゴリズムを使って、人間の『負の感情』を意図的に刺激する・・・怒り、嫉妬、不安、恐怖……そういう強い情動を煽って、ネットという巨大な壺の中で人間同士を争わせる。 古来より伝わる呪術……『蠱毒』のデジタル版やな。」
「蠱毒……!」 おっちゃんが息を呑む。 「虫を共食いさせて最強の呪いを作る、あのアレか!?」
「せや。あいつらは、人間を物理的に殺すんやない。精神的に追い詰めて、そこから立ち昇る純度の高い呪い・・・ネガティブ・データを収集しとるんちゃうか?人間たちは、自分の魂を燃料にして怒り続け、その結果、霊的に疲弊してスカスカになる……これが『霊的質量減少』の正体ちゃうか?」
会場が凍りついたように静まり返る。 「それってさ……その煮詰められた『呪いのデータ』で、なにをするつもりなんだろ?」 田島が震える声で聞いた。
「インストールだす。」 アレ君が、じっとスクリーンを見ながら答えた。
「おら前に言ったす? 金烏玉兎集の最後さ書がれだ反魂法、呪詛や印をディスプレイやボカロで再現して、アミノ酸合成装置で作った肉の塊に吹き込めば、ゾンビみてぇなの出来るんじゃねがって。 そんで、SNSで集めた人の気持ちば(を)入れたら、意思持づ(もつ)がも知んねすって。」
これを聞いた、おっちゃんと真魚さんがゆっくり、大きく頷く。
「アミノ酸合成で作った人造人間……ホムンクルス・・・そいつに、デジタル蟲毒で練った巨大な悪意のデータを流し込む・・・まさか、それが人間どもが姫に当てがおうとしたバケモンの正体か・・・」
おっちゃんがいうと、みんな騒然となった。
別のお坊さんが手を挙げる。後光が射してるから阿羅漢っていうんかもしれへん。
「はい、カッサパさん、なんか意見ある?」おっちゃんが聞くと、その黄色い袈裟を着たインド人っぽいおじさんは、咳払いをして応えた。
「太子殿、持明院を召喚した方が良いのでは?彼の砦から腕利きの戦士の一人か二人でも呼べば、そのような化け物など瞬く間に焼き尽くせましょう?このままでは・・・」
せやけど、おっちゃんは手で制する。
「それは流石にアカン・・・そのバケモンごと半径5㎞圏内焼野原になってまうて・・・皆の衆!よう聞いてくれ!これは仏が介入する事態にさせたらアカンのや・・・飽くまで、人と神が解決せんと。みんなは、悩める人と神の悩みを聞いたって欲しい。」
「どうしたん?おっちゃん・・・」見ると、おっちゃんは冷や汗をタラタラ流してた・・・
「もう半分くらい見捨ててる御仁がおる・・・こりゃ急がんと・・・あぁ、夏菜子、大丈夫や・・・なんでもない・・・」
第40話、お読みいただきありがとうございます!
今回は、物語の核心に触れる「敵の正体」が見えてきました。 SNSのアルゴリズムを悪用した現代の呪い、『デジタル蟲毒』。 スマホを見ていて「理由もなくドッと疲れる」あの感覚……もしそれが、魂を削られている証拠だとしたら? 書いている作者自身も、ちょっとスマホを見るのが怖くなりました(笑)。
そして、そんな巨大な悪意に対抗する夏菜子の動機は、「神様のため」ではなく「友達だから」。 このシンプルな答えこそが、最強の力になる予感がします。
太子様が最後に漏らした「見捨ててる御仁」とは一体誰なのか……? 次回、動き出す事態をお見逃しなく!
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