第37話: 饒速日さんも赦してもらって一段落・・・と思ったら、もっとヤバイ奴がおるやて!?
「どうとは・・・吾は、河内の民が、なんとか幸せになるようにと・・・磐余彦尊様に支配されても、河内の民、物部の民が滅びずに済むように、蘇我氏の企てに飲み込まれぬようにと・・・」
「ちょう、アニキ何言うてんねん・・・そんなん関係ないって・・・えーと?自分どこの子?あ、太子町?またごっつ田舎やな・・・あ、ごめんごめん睨まんといて・・・なぁ、おれら河内もんって・・・不幸かな?河内ってほら、東大阪とか八尾とか、それこそ松原とか太子町とか・・・みんなそれなりに楽しいやってるやん?」
ナガスネヒコさんが、ド田舎っていうからしばいたろかって思たけど、不幸かって言われたら・・・?
「そんなわけないやん。そら、ウチの近所で一番都会なんはラムーやけど、うっとこ米も葡萄も美味しいし。友達は東大阪で実家は町工場やけど、おっちゃんもおばちゃんも親切やし。お好み焼き美味いし。それがどないしたん?」
「せやんなー・・・なぁ、アニキ。オレも、姉ちゃんも幸せやったし、おれらの子孫のこの子らもフツーにみんな幸せやって。そら、あの時死ななアカンかったん辛かったけど、オレあんとき自分に出来ること精いっぱいやったんや。それよか、いま生きとるこの子らに神恩分けたってぇな。」
ナガスネヒコさんの問いかけに、饒速日さんはハッとして顔を上げる。ウチはもう一回、マップの石切神社のとこをタップした。そこには、石切さんの参道を行き交う人らがいっぱい映ってた。
「な?みんな楽しそうやろ?そやからもう気にしゃんかてええんちゃう?」
そういうと、饒速日さんは憑き物が落ちたみたいになって、小さく笑う。その目からは、一粒、二粒、涙がこぼれた。
「は、はは・・・そうじゃな・・・吾は何をしておったんじゃろう・・・河内の民は、とうに自分の脚で歩いておったのじゃな・・・ならば、吾の為すことは、その幸せの後押しをすることで良かったのじゃな・・・半次郎殿、さ、ひと思いに斬るがよい・・・其方も辛かろうて・・・」
「ちょっと、饒速日さん!話聞いてた!?ナガスネヒコさん、これからも河内のみんなのことよろしくって言うてたやん!死んだら石切さんが無くなってまうやんか!」
「え?ええ?いやしかし、大神が・・・」
えーなに?全部いわなアカンの?この人?ちょっとめんどいんやけど。
「姫!八幡さん!死刑とか止めてぇや!」ウチが叫ぶと、姫=アマテラス様が、ふっと笑って扇子をパチンとならす。
「ふん、つまらぬ。興が削がれた。妾は下がる故、続きは我が名代たる、そこな豊受姫の命に従え。よいな?」
姫は、扇子で田島の方を指すと、プイっと振り返って本殿の奥に消えていく・・・
「え?あーし?なんで?あーしがこの人の罪状決めちゃうみたいな?ムリムリムリ!あーし法学部じゃないし!ってか、神さま世界の法律知らないし!」田島が必死で手をブンブン振るけど、理沙ちゃんが・・・
「良いのでは?美紗さんは二番目にえらい神様なのでしょう?だったら、たぶん、美紗さんの思ったようにすればあたりなのですわ。」
「ほんとかよ・・・ったく。えーとさ、いちお、斬首とか止めといた方が良くなくない?半次郎さんだって嫌でしょ?っていうかさ、理沙ちゃんも言ったけど、なんで饒速日さんがこんなことしちゃったか聞こうよ!八幡さん、それで良いよね!」聞かれた八幡さんは、??ってなってる。あ、たぶんギャル語が分からんねんな。
「美紗ちゃん・・・あのな、おばちゃん最近の若い子の言い方よう分からへんねんて・・・よくなくない?よくなくなくない?・・・まぁ、アレやけど、斬首はナシ!えーと…夏菜子ちゃん、ちょっとこのオッサンに茶ぁ出したって。ちょっとナガスネちゃん!材料あるよって、アンタたこ焼き焼いてんか!」
「え?オレですか?いやー…ウチの店、明石焼きやし、これから子ども食堂でイカ焼き作らなアカンので・・・パパって作れるもんやったらエエんやけど…」
「なんやアンタ!?ややこしやっちゃなー!もうええから早よ作り!美紗ちゃん、台所までそのスカタン案内したって」
◆
で、結局ウチらは、境内に並べた椅子と机の上で、みんなで明石焼きとイカ焼きを食べてる。あ!太子のおっちゃん、またハイボール飲んでる!
「かーっ!一戦を終わった後の一杯はまた格別やのーっ!ほんでアレ、饒速日はん、なんでアンタ、よりにもよって軍を率いてここを攻めよて思たんな?あ、アンタもこれ飲みぃや。あのな、これ鳥取のウィスキーなんやけど、安い割にメッチャ旨いねん。こないだ、因幡の白兎くんにもろたんよ。」
「いやっ!観世音!それは流石に・・・」饒速日さんはそう言いながら、八幡さんと田島をちらちら見る。それに、八幡さんが応えた。
「もうええて。それよか、アンタんとこの怪我した子らも手当したり。必要なもんとか、野戦病院はこっちで作るさかいな。あ!ウマちゃん!このウィスキーほんま美味しいわぁー!アレやな、日本酒にばっかり拘っとったらアカンな。でぇ・・・美紗ちゃんもエエやろ?アレ?」
「はぁ~ちまんさぁ~ん!あーしわぁ~・・・ぜんっぜんOK!ハイボールさいこー!」なにやコイツ、知らんまに出来上がっとるやないけ。わっ!理沙ちゃんも飲んでる!あ、でも大丈夫っぽいな。
「夏菜子さん、これしきのハイボール、飲んだうちに入りません。それよりも・・・饒速日様!ぜひお聞かせください!神の悲哀!いくらでもご飯がいける!・・・あ、いえ、わたくし文化庁として正式な記録を残す義務が・・・」
なんや、結局酔うてるやん、いちおう国家公務員っぽいフリだけしようとしてるとこが余計に怪しい。
「……デキモノ、じゃった。」 饒速日さんが、ポツリと呟く。
「デキモノ?」ウチが聞き返すと、饒速日さんはハイボールのグラスを悲しそうに見つめた。
「うむ。吾が社は、『石切劔箭』。岩をも切り裂く剣の威光で、魔を断ち切る霊験があるのじゃが・・・いつの間にか、腫物や病を取り除く、ということに変わっての。まぁ、それは良かったのじゃが・・・」
ここで、饒速日さんの顔が歪む。
「ここ40年ほどかのう・・・聞こえてくる願いが変わりおった。金が欲しい、女が欲しい、男の愛が欲しい、宝くじ当たれ・・・まぁそれでも、最初は神社に来たものだけじゃった。しかし、何時からか、空中を人々の想いが漂うようになった・・・ちょうど、其方らがもっている、その小さな箱を皆が持つようになってからじゃ。」
饒速日さんは、そういって、ウチらのスマホを指さした。
「昼夜問わず、恨み、苛立ちが呪詛のように吾の耳に流れ込んでくるようになった。気が狂いそうじゃったし、吾はこれが河内の民の苦しみと思うて、どうにかせねばと思った。その時・・・」
「その時?」いままで、目を覆って苦しそうに言葉を吐き出していた饒速日さんは、ふっと思い出したように顔を上げる。
「そうじゃ・・・奴が現れおった…おもえば奴が・・・」
「ヤツ?奴って誰なのでしょう?神様?まさか悪魔とか!?メフィストフェレスみたいな!あぁ!ゲーテね!」
ちょと理沙ちゃん酔いすぎやって。ちゅうか、田島とちゃうタイプの酔っぱらいやな。逆にめんどい。
「な、なんじゃ・・・この娘は?夏菜子さんと申したか?友達は選ばねばならんぞ?その点、あの娘など…まぁ酒癖は普通じゃ。」といって、饒速日さんが指した田島は、ムニャムニャ言いながら寝ている。まぁ、害はないけどな。
「あ、うん。ごめんな饒速日さん。まぁ、こいつらはほっといたって。そんで奴って、神さんとか鬼?それとも・・・」
「人間じゃ・・・喪服のような黒い背広を着て、顔は……いや・・・思い出せん。普通の顔だったハズじゃが・・・全く印象に残っておらん。」
人間?あの黒服たちと違うの?
「そいつは、こう言いおった『饒速日命様、お困りのようですな・・・どうも、天照大神は力を失ったんじゃないですか?・・・私たちなら、アマテラス様のお力を取り戻せますが・・・ねぇ、あなた。アマテラス様と一度話してみませんか?ああ、軍をお連れなさいな。簒奪者どもがいますからねぇ。』と。」
「簒奪者やて!気ぃ悪いな!ウチかて頑張って…」
「あ、いやいや…其奴は確かに八幡殿のことも申してはおったが、伊勢神道と、これは…畏多きことじゃが、御仏のことを申しておった…特に補陀落と西方極楽浄土のことを…」
ここで、太子のおっちゃんが急に真面目な顔で身を乗り出す。
「ちょっとまて。ワシは別にええけど、補陀落と極楽はアカンやろ?法理そのものの否定やで?アンタはそれを信じたんか?」
「い、いや…其奴は『人の運命は人に委ねられるべき』とか言うて…吾は大神の神意を確かめねばと思うた…それで…」
「軍を起こした、ちゅうわけか…アンタ、ほんまに戦争しょうて思うてへんかったやろ?あの魔軍と人間の兵器もそいつの差金か?」
「魔軍?あれは八幡殿が呼んだものと聞いたが?人の兵器とは?」
ここまで聞くと、太子のおっちゃんはチッと舌を鳴らす。
「やられたのう…饒速日はん、アンタは謀られたんや。目的は電波兵器とカラクリ人形のテストやろ。負けてもええ様に、死んでもかまへんクズどもを使うんもなるほどや。」
「た、謀られたとな?…その、黒い背広の男に?電波兵器とカラクリ人形?」
呆然とする饒速日さん。せやけど、太子のおっちゃんは険しい顔としてる。
「エゴが人間の自由やて?ミルトンの失楽園やあるまいし。こらホンマにヒルコはんの予言が当たりそうやな…饒速日はん、アンタはいっぺん石切に帰りなはれ。夏菜子、美紗ちゃん、すぐ四天王寺に行くで!」
「え?…まぁそのつもりやったけど、なんでそんな急いでんの?」
「まぁ訳は道々話す。あ、あと理沙ちゃんな、文化庁に電話入れといてくれるか?この石清水八幡宮でテロ行為をしようと思てるヤツがおるて。ほんで、さっき人間どもから押収した通信機器あるやろ?アレ持ってきて欲しいんや。」
「ええ?…テロ行為って…さすがに常世で起きることなんて説明出来ませんわ…それに前例のないことだし…」
理沙ちゃんは困ったふうに手を振ったが、おっちゃんは「ちゃうちゃう」って言う。
「あいつらが神霊に干渉しよて思うたら、それなりの設備がいる。この周りをポリさんがウロウロしとるだけでエエ。姐さん!神職を集めてくれ!神兵召喚は人間がおらなでけへん!」
【更新ペースについてのお知らせ】 いつも読んでいただきありがとうございます! 物語がいよいよ核心(神話の深い謎や、新キャラ登場など)に入り、一話ごとの熱量と文字数が4000字を超えることが増えてきました。
そこで、私自身もじっくり執筆するため、また読者の皆様にも消化不良を起こさず楽しんでいただくために、これからは「週2回程度(3〜4日に一度)」のゆったり更新に切り替えようと思います。
その分、一話一話を濃密にお届けしますので、通知をオンにして気長にお待ちいただければ嬉しいです!




