第21話: 敵のアジト発見!ってか、お兄ちゃんの優しさに姫号泣や!
太子のおっちゃんが腕組みして唸る横で、道真さんは顔面蒼白になって震えていた。
「難儀やな、ちゃいますよ! これ、もし公になったら神界のクーデターでっせ!? 皇祖神が自らの正統性を否定して、『ただの女の子になりたい』やなんて……。そないなことになったら、伊勢神宮はおろか、日ノ本の民全体の元型が揺らいでしまいますがな! 下手したら国津神(出雲系)の連中が『ほら見たことか!』って勢いづいて、また国譲りのやり直し戦争になりますよ!?」
道真さんが必死に訴えるけど、横で酒を飲んでる真魚さんは「カカカッ」と愉快そうに笑うだけ。
「ええやないか道真。諸行無常、盛者必衰や。システムっちゅうもんは古びたらOSごと入れ替えるもんやで? なぁアレ君?」
「んだすな。レガシーシステムを無理やり延命するよりは、リプレイスした方がバグも減るし効率的だべ」 ちょ! アレ君まで! 変な横文字で納得せんといて!
道真さんが胃を押さえて蹲りかけた、その時や。 ヒュオォッ! 窓の外から一陣の風が吹き込み、何かが部屋の中に入ってきた。
「ん? なんや?」 見たら、光る粒子を纏った二羽の白い鳥――っていうか、鳥の形に折られた式神が、生きているかのように旋回し、真魚さんの肩にスッと舞い降りた。 一羽は嘴に何か手紙のようなものを咥えている。
「おっ、戻ったか。ご苦労やったな」 真魚さんが指先で式神を撫でると、紙の鳥は満足げに羽を震わせ、元の紙切れに戻った。 「ムフフ・・・ナ~イスタイミングやないか! おい太子! まぁまぁええニュースとごっつええニュース! どっちから先に聞きたい?」
「なんやそれ、どっちもええんかいな。ほな、まぁまぁええ方から頼むわ」 おっちゃんが言うと、真魚さんはニヤリと笑って、手元のタブレットを操作した。
「まぁまぁええ方っちゅうのはやな、オレの式神が敵のアジトを突き止めた! っちゅうこっちゃ! おい夏菜子! 美紗ちゃん! 見てみぃ!」
真魚さんがタブレットを私たちに向けると、そこには神戸の地図が表示されていた。 「奴らは兵庫県庁のすぐ近所におるみたいやぞ! ほんでえーと?・・・なんじゃ? 『民主共和党 兵庫県支部連合会』やと? おい、姫がさっき言うとった『Homines creavit corp.』って書いたトラックも止まっとるやないか! アレ君、当たりやな! 政治とカルトの合わせ技や!」
「んだ! これで足がつかめるがもしれね!」 アレ君がガバッと立ち上がり、座布団を蹴飛ばす勢いで自分のPCに向かった。 その碧い瞳が、獲物を見つけた鷹のように鋭く光る。
「夏菜子さん、美紗さん、いよぇよこれがらが本当の闘いだべ! そいだば、『金烏玉兎集』ver2.0、起動! ポチっとな~!」
アレ君がエンターキーを叩き込むと、ディスプレイに表示されていた梵字とコードが、まるで心臓の鼓動のように脈打ち始めた。 『急々如律令……Access Granted……Target Locked……』
「うわっ、なんか凄そう! 前より画面が派手になってね?」っと田島が手を叩く!
「んだ! 真魚さんの式神が『物理的なマーカー』を敵サーバーに付けてくれだおがげで、ファイアウォールを内側から突破でぎる! 見えだぞ……データの奔流が! これを解析すれば、敵の正体も目的も丸裸に……!」
アレ君の指がキーボードの上を舞う。 画面には無数のウインドウが開き、地図データ、資金の流れ、謎の設計図らしき画像が次々と表示されては消えていく。
「いげる! ……うぉ!? な、なんだ!?」
突然、アレ君のノートPCのファンが「ブフォォォン!」と悲鳴を上げた。 画面上の梵字とコードが激しく明滅し、処理落ちしたみたいにカクカクし始める。
「あ、あわわ! なんか画面さ人型の紙出でぎだ……さっきの言葉吸収して……アレ? なんか飛んでっちゃったよ!?」 プスン……。 情けない音と共に、画面が真っ暗になってしまった。
「うわぁぁぁ! 落ちだぁ! 自分で作ってで意味わがらねなぁ……くそっ、やっぱしリソース不足がぁ! このプログラム、ネットワーク上の『悪意』や『欲望』を全部検索してくるがら、今のノートPCだげだど演算能力が全然足りねんだ! だめだ、もっとパワーのあるマシンでねと話さならねぇ!」
アレ君は悔しそうに机をバンと叩くと、ガバッと振り返って真魚さんに詰め寄った。
「真魚さん! やっぱダメだべ! 今すぐ高野山さ連れでってけろ!」
「お? なんや急に」 真魚さんが目を丸くすると、アレ君は必死な顔でまくし立てた。
「前言ってたべ! なんかスゲェのがあるって! そんたモンスターマシンがあるなら早ぐ連れでってけれ! 今すぐそいづさ繋がねば、敵の尻尾を見失っちまう!」
アレ君の剣幕に、真魚さんはニヤリと不敵に笑った。
「カカカッ! ようやっと気づいたか! ええぞ、弘法大師の法力(物理)を見せたるわ! くぅーーー! ノリで買うた気候変動解析用のスパコンが日の目を見るときが来たで! ほな、オレと高野山合宿やな!」
「んだ! 善は急げだす! 行ぐべ!」
科学なのか呪術なのかもう分からへんけど、とにかくすごいことだけは分かった。
「ほんで真魚さん、もうひとつの『ごっつええニュース』って何なん?」 わたしが聞くと、真魚さんはもう一枚の式神が運んできた手紙を手に取った。
「これや。この手紙の差出人を見たら、姫が腰抜かすで? ……拝啓、父上、アマテラス、元気にしとるか? 僕や、ヒルコや」
「えっ!?」 その名前を聞いた瞬間、イザナギさんと姫・・・アマテラスさんが弾かれたように顔を上げた。 「お兄様!? ヒルコ兄様なの?・・・お父様!」
真魚さんが手紙を開くと、そこからボワッと青白い光が溢れ出し、まるでホログラムみたいな文字が空中に浮かび上がった。 そして、どこからともなく、鈴を転がすような、でも少し舌足らずな可愛らしい少年の声が聞こえてきた。
『……何やら東の方で不吉な気を感じて、南の空を見たら東から西に飛ぶ流れ星を見た。 そして、伊勢の方角を遥拝すると、アマテラス、君の神気が感じられへん。それでもしや父上のところにおるんちゃうかと思うた。間違いやったら父上、赦してほしい』
「この声……! 間違いない!我が初子、其方の兄、ヒルコじゃ!」 イザナギさんは、震える手で姫の手を取った。手紙の声は続く。
『……こっからはそこにおるんやないかと思って書くんやが、アマテラス、何か困ってへんか? この兄に出来ることはないか? 君はいっつも無理をしてまうけど、僕の大事な妹やから、何かあったら頼って欲しい。 こっちには少彦名さんも、事代主くんもおる。何かの力になれるやろ。 それではな。君の兄より』
そして、もう少し言葉が続いた
『父上、僕のことで悩んだり、悲しんだりしないで欲しい。今僕には沢山の友達がいて、毎日楽しく過ごしているよ・・・本当なら、すぐそちらに行けばよかったね。ちょっと商いが忙しくて行けなかった・・・あ、これは言い訳だね。ごめんね。あなたの息子より。』
光が消え、手紙が真魚さんの手元に落ちると、姫とイザナギ様は、その場に泣き崩れてしまった。 「うっ、ううっ……兄様……なんてお優しい……」
ポタポタと落ちる涙が、畳を濡らす。 それはさっきまでの「自分のいびつさ」を嘆く涙とは違う、温かい涙に見えた。
「わたくし・・・お兄様にしてあげたことなんて何もないのに・・・加太にも、西宮にもなかなかいけなくて・・・ 廻りの神々が、『アレはできそこないの神だ』とか、『あんなのは兄弟じゃない』とか言って・・・ わたくし、怖くて・・・もっと勇気を出せばよかった・・・」
自分を責めて泣く姫の肩を、小角のおっちゃんが優しく叩いた。 「姫、泣かんでええ。ヒルコはんはな、何かして欲しいとか、オレの方がとか、そういうことは考えはらへんのやで。 あの方は、海のように広く、形を持たない自由な魂で、いつでもこの国の全てを見守ってはる・・・」
小角のおっちゃんは、わたしと田島の方を向いて、ニカッと片目をつむって見せた。 「そやけど、姫よ。ちょうどええやないか? 石清水に行くついでにちょっと、兄君に甘えに西宮に行かへんか?」
「え? 小角さん、それって……」 姫が顔を上げると、小角さんは太子のおっちゃんの方を向いた。
「あー、夏菜子、美紗。ちょっと姫と一緒に西宮に行ってくれへんか? ああ、護衛はつけるさかい。太子殿、ええな?」
「せやな、あのお人やったら姫も安心やし、なんちゅうても皆いうこと聞きやすいからな。 そういうわけで二人とも、済まんけど頼むわ。これは業務命令や!」
「ん? いーよ! 甲子園あるとこじゃんね! あーし行ったことなーい!」 田島が軽~くOKする。 いや、田島よ。西宮市役所にはいっぺん研修で行ってるんやで? ってツッコミ入れたろ、って思ったら、
田島のお尻に、なんか金色のフサフサしたものが付いてた。
「えっ!? アレっ?」 目をこすってみたら、そのフサフサは無くなってる。 幻覚? それとも疲れ目?
「夏菜、どしたん?」 「いや、別に…アレ? あんたエライ髪の毛はねてるな。寝てた?」 「何言ってんだよ、わけ分かんないし」
田島の頭の上も、なんかケモミミみたいに髪が立ってる気がするけど……。 なんやろ? ウチ疲れてんのかな? とりあえず、今日は帰ろ。
ご覧いただきありがとうございます。
第21話、いかがでしたでしょうか。 アレ君と真魚(空海)の天才タッグによる「呪術ハッキング」。
梵字とソースコードが入り乱れる画面、そして真魚さんがノリで買ったという「気候変動解析用スパコン」(笑)。
SFとオカルトが融合した、この作品らしい展開を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
そして、後半のヒルコ様からの手紙。 「失敗作」として語られがちな彼ですが、この物語では誰よりも優しく、家族を想う「兄」として描いています。 イザナギ様とアマテラス様の涙は、長年の呪縛が解けた証かもしれません。
さて、敵のアジトは判明しましたが、謎の核心を暴くにはマシンスペックが足りません。真魚さん・アレ君チームはスパコンを求めて「高野山」へ、そして夏菜子たちはヒルコ様に会いに「西宮」へと旅立ちます。
舞台は淡路島から関西全域へ! 次回、いよいよ出発です。
次回、第22話は【12月16日(火)】の更新予定です。 面白かった!続きが楽しみ!と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると執筆の励みになります!




