第19話 呪術とITの合体!?・・・と思ったら神様にも大人の事情やて?
拝殿の土間に戻ると、アレ君が座布団に座り、一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩いている。 パチパチパチパチッ! ものすごい速度や。指が残像に見えるくらい速い。
「どないしたん?」 わたしが声をかけても聞こえてへんみたい。 画面を覗き込んでわたしはギョッとした。 黒い背景のウインドウに、緑色の文字が滝のように流れているんやけど、それがただの英数字やないねん。
『南無三曼多伐折羅赧悍……System Check……』 『急々如律令……Access Denied……』
「なにこれ……お経? それともプログラム?」 梵字と英語と数字が、まるで生き物みたいに混ざり合って画面を埋め尽くしている。 アレ君の碧い瞳が、その情報の奔流を瞬きもせずに追っていた。
「あ、わりわり! 今いいところなんだす!」 エンターキーを「ッターン!」と叩くと、彼はふぅーっと息を吐いてこちらを向いた。
「さっと試しに、『金烏玉兎集』さ書いであった占術アルゴリズム、Pythonで組んでみだんだす。敵の本拠地・目的どが、いま何するべどしてらが、ビッグデータから逆算して予測でぎねがで思って」
「え? なに? ウチ全然意味わからへんねんけど? 田島は分かる?」 「無理。あーし文系だし。っていうか、今画面に『呪』って出てなかった?」 田島も口をぽかんと開けている。
「さっきこご襲った敵の直接の位置は、式鬼の主である真魚さんが直にわがるんだども、そいだげでは敵の意図や次のアクション読めねがらね。本当は敵のサーバーにハッキング出来ればえんだども、今ある機材だげだどファイヤーウォール突破できねし、通信傍受も出来ねがら」アレ君は悔しそうに「F5」キーを連打する。
「アレ君ってハッカーなん?」 わたしがおそるおそる聞くと、アレ君は「ちがうちがう!」って手を振って否定した。
「おい公務員だよ? そんたヤバぇごどするわげねでね! そうでねぐで、ウチの課で行政情報保護するだめの『ホワイトハッカー』やってらんだよ! 守るために攻め方を知ってるだげだす!」
そうなんや、実はアレ君めっちゃすごい人なんでは? と思ったら、後ろから覗き込んでいた真魚さんが、アレ君の肩をパンパン叩いてガハハと笑った。
「いや~、ほんまおもろい奴っちゃで! 『金烏玉兎集』の占いをソースコードに変換して、ネットの海から敵の『因果』を検索するとはな! 陰陽道とデータマイニングの融合や!」 真魚さん、自分と同じレベルで話できる相手を見つけてめっちゃ嬉しそうや。
「ところでアレ君よ、機材さえあって、相手の居場所や狙いが大まか分かったら、その『防御壁』とやらを破って、中身を覗けるんか?」
「んだすな……。『金烏玉兎集』さ書いでら占術をデジタル的に模倣するごど自体は、理論上は難しくねで思うす。んだども、今のノートPCだげだど演算能力が全然追い付がねで・・・せめで高性能なワークステーションが3台ぐれぁあって、並列処理させれば……」
アレ君が天井を仰ぐと、真魚さんがニヤリと不敵に笑った。 「なんや、箱の問題か。それやったら、ないでも無いで?」
「え?」 「アレ君、ちょっと自分、高野山に来ぇへんか?」
「え? それってどんた・・・」 アレ君が聞き返そうとしたとき、境内の方からガヤガヤと声がした。
「太子様! 御仏たるあなた様の仰りよう、この平八郎、よくよくわかり申す! とは申せ……!」
見たら、黒い鎧を着たごっついおっちゃんが、太子のおっちゃんに土下座して迫ってる。 兜には、巨大な鹿の角みたいな飾りがついてて、めちゃくちゃ強そうや。 その横では、全身真っ赤な鎧を着て、兜に五円玉?がいっぱいついた(六文銭って言うんやって)イケメンのおじ様も、やっぱり太子のおっちゃんに土下座して詰め寄ってた。
「この源次郎からも御願い奉りまする……。日出づる國の天子たる太子様に、それがしの如き浪人風情が申すなど畏れ多き事。されど、お方様(八幡様)が斯様に傷つかれては、我ら天津軍たる日ノ本の武家は面目も立ちませぬ・・・」
「太子様、陪臣の身で申す無礼、幾重にもお許しを・・・されど、お方様が仰せの通りここでは我らが皇大神をお守り出来申さぬ。せめて守りに優れた我らの拠点、石清水に皇大神をお連れすること、お許しくださりませ・・・なにとぞ、なにとぞ・・・」黒い鎧のおっちゃんは、もう一度太子のおっちゃんに、額が石畳に着くくらい土下座した。
太子のおっちゃんは、「うーん」と唸って頭をかいている。
「日本一の兵らに頭を下げられてはのう……。せやけど姐さん、さっきも言うたけど、直に人間を殺すんは承服できん。せやのに石清水ってアンタ、本気で戦争でもする気かいな?」
すると、左腕を抑えて痛そうに顔をしかめていた八幡さんが、二人のお侍さんを立たせた。
「忠勝、信繁。武士たるものが軽々に頭を下げるもんやない。この御仁へはわらわからお願い申すゆえ、下がっておれ」
「しかしお方様……」 黒い鎧のおっちゃんは心配そうに言うけど、八幡さんはそれを手で制する。
「よい。それよりも、負傷した者の手当てを優先するのじゃ・・・さて、厩戸皇子、いやさ救世観世音菩薩・・・」そういうと、八幡さんは、太子のおっちゃんに土下座した。
「姐さん・・・そういうことはやめて下さいよ・・・ずるいわ・・・」おっちゃんが溜息をついて顔を背けるけど、八幡さんは顔を上げない。
「何を申されますか・・・?元来、観世音菩薩の化身たるお前様には、我ら一介の神々はこうして帰依せねばならぬもの。その上で、我ら日ノ本の神、そして死してこの国の神兵となった武士どもの願いをお聞きくださりませ。」
「うーん……せやけど石清水って普通の参拝客も来るし、宮司らもおりますやろ? そいつらはどないしまんねん?」
「宮司らには、わらわが夢枕に立って神託を下せば従うであろ。宮に至る男山の道も全て結界を張って封ずるゆえ、心配には及ばぬ」
「そないして、神の力が直に人間たちの眼に見えてしまうんが困るんやけどな……」
そこに、小角のおっちゃんと道真さんが戻ってきた。
「え? 姐さん、石清水に移るんですか? いやー……さすがにちょっとそれは、日ノ本の神界的にヤバいことないです?」
道真さんが難色を示すと、八幡さんは鋭い眼光で見返した。 「なにがじゃ?」 怖っ! めっちゃ怖い! これがあの気さくな八幡さんなん? 今の八幡さんは「親戚のお姉さん」やなくて、ほんまにこの国のお侍さんたちを束ねる「軍神」の顔をしてる。
道真さんは「うわー、こらアカン」と冷や汗を拭いた。
「えー、ゴホン! 太后様。畏れ多くも太后様は武士たちの守護神、天津軍の総領であられます。その太后様が、皇室の祖神であるアマテラス様を、あろうことか武家の本拠地である石清水にお連れになられましたらば……中臣やら公家の神々が黙ってはおりませんぞ?」
「それがなんとした?」八幡さんは荒っぽく道真さんを叱りつけるけど、道真さんも一歩も引かへん!アレ!?道真さんカッコええやん!なんちゅうの?アカンことはズバッと言える官吏とか宰相、みたいな!
「なりませぬ!『武家が朝廷(皇祖神)を乗っ取った』と、謂れなき疑いの目を向けられましょう!天津軍は武士だけではありませぬ!春日大社や石切の軍勢もおるのですぞ!まして、 スサノオ様やナムジ様を始めとする国津神も黙ってはおりますまい!今一度ご再考を!」
「それがなんとした!?言わせておけばよかろう!」 八幡さんは鼻を鳴らした。 「わらわは、中臣のごとき口先だけで帝も神も恣にする者どもが赦し難き故、源氏の武者どもに加護を与え、あれら腐敗した貴族の世を終わらせたのじゃ。 こう申しては畏れ多き事じゃが、スサノオ様もオオクニヌシ様も、皇大神をお助けすることより、市井にあって民と遊ぶことをお選びになったのではないか? 皆々様が楽しゅう商いや歌舞伎に興じている間に、血を流してこの国を守護して参ったのは我らぞ? 其方もであろう!? 我らが武で、そなたは文をもって日ノ本を支えて参ったのじゃ!血統だけで大きな顔をされては適わぬ!」
八幡さんがそう言い放つと、道真さんはハァーっと息をついた。
(太子様、あきませんわ。姐さん切れすぎて理屈通じへん。ここはいったん折れときましょ?中臣はんとか物部には僕から上手いこと言うときまっさかい。)
道真さんは、太子のおっちゃんに耳打ちしてたけど、一部始終を見ていた小角のおっちゃんが、まぁまぁと言う。
「神功皇后殿、中臣が今回の件に関係しとるかも分からんのやから、何もそないに噛みつかんでええやないか。 とりあえず、姫に石清水に移ってもらうんは、『四天王寺(太子)』と『吉野(役行者)』の意向やって先触れを出そ。道真、書状をしたためてくれるか? お主も立ち合いのことやったら、神も妖魔も、諸仏も文句は言わんやろ」
「はぁ・・・小角さまがそないに言わはるんやったら・・・ほいで、理由は書くんでっか?それもそれでややこしなぁ・・・」
「かまわん、書いとけ。『正体不明の敵より皇祖神を守護するため』とな。 少なくとも伊勢の連中は分かっとることや。あれらが良からぬことを企んでのことやったら、もうワシらが知っとることやという牽制になるし、アイツらも困っとるんやったらそれはそれで助けになるやろ。 ついでに『高野山も承知』やって付け加えとけよ。ええな! 真魚よ!」
小角のおっちゃんが話を振ると、「え? なんやて?」と真魚さんが顔を上げた。 アレ君のノートPCを覗き込んで、「ほほう、スレッド処理か……」なんてブツブツ言っている。 どうやら、神様の政治的対立よりも、アレ君とのハッキング談義に夢中みたいやった。
「なんや、聞いてへんのかいな・・・姫を石清水に連れてくんや!ええやろ!」
「あぁ、太子とアンタがええんやったらかまへん。それより小角はん、そんな細かいことどうでもええさかい、大枠を考えよやないか。」
うっわー……。 太子のおっちゃんと八幡さんがケンカになりそうで、道真さんが胃を痛めてるのに、「どうでもええ」って。 この天才(空海)、やっぱり神経の太さが違うわ……。
【謎解き、そして新たな火種?&今後の更新ペースについて】
ご覧いただきありがとうございます。
アレ君と真魚(空海)の天才タッグによる「呪術ハッキング」、いかがでしたでしょうか? 敵の正体が「AI × 呪術」であるという仮説、そして浮かび上がった内部対立の火種……。
派手なバトルの後は、少し「神様たちの政治(お家騒動)」と「次なる旅の準備」を描く、濃厚なドラマパートに入っていきます。
そこで、ここからの展開をより丁寧に、高いクオリティでお届けするために、次回からは「2日に1回の更新ペース」に変更させていただきます。
・より深い歴史考証
・キャラクターたちの掛け合い
・そして、これからの旅路
これらをじっくり練り込んでいきますので、これからは「隔日の楽しみ」としてお待ちいただければ幸いです!
次回、第20話は【12月12日(金)】の更新予定です。 金曜日の夜、関西神仏ライオンズクラブの活躍をまた覗きに来てください!
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




