第18話: 敵の秘密兵器?っていうか八幡さん激オコや!
小角さんがパンと柏手を打って合図すると、前鬼さんと後鬼さんの体がブワッと膨れ上がり、瞬く間に身の丈3mを超える異形の巨人になった。
筋肉が岩のように隆起し、口からは鋭い牙が覗く。まさに修験道の伝説に出てくる「鬼神」そのものの姿や!
「ウオォォォォッ!!」
咆哮とともに二人が地面を蹴ると、境内の石畳がバキバキにひび割れて、前鬼さんはでっかい斧(どこから出したん!?)を振り回して黒服の男たちをなぎ払い、後鬼さんは霊力?的なヤツの光弾を放って敵を吹き飛ばす。圧倒的なパワーや。人間なんか手も足も出えへん!
せやけど、相手の数は減るどころか、光る渦から次々と湧いてくるで! どないしょ!
「チッ、数が多いな!女将よ!」
小角さんが叫ぶと、八幡さんが「任せとき!」とばかりに前に出た。
彼女が白スーツの袖を翻すと、その背後の空間が陽炎のように歪んで、無数の鎧武者たちが現れる!
その人らは一糸乱れぬ動作で弓を構えると、八幡さんの号令を待たずに次々と矢を放った。
ヒュンッ! ヒュンッ!
風を切る音と共に放たれた矢は、正確無比に黒服の男たちの胸や頭を貫いた。
アレ? 血が出えへんで?
けど、矢を受けた黒服たちは「ぐあっ」と声を上げて、糸が切れた人形のようにバタバタと倒れていく。
「あ、あれ? 大丈夫なんかな? 死んじゃってない?」田島がびっくりして震えていると、八幡さんは首を振った。
「天津軍は神霊や。その武器は人間の肉体を傷つけるんやのうて霊魂を撃つ。まぁ、2-3日は金縛りに遭うたみたいに動かれへんやろ」
そう言う八幡さんの姿を見て、わたしはゴクッて息を飲んだ。
さっきまでのキャリアウーマン風の白スーツやなくて、いつの間にかキンキラの鎧(大鎧っていうんやて)になってて、手には身長くらいの長さの巨大な和弓を握っている。
まさに「戦う女神」や! めっちゃカッコ良い~!
「かっこいい・・・八幡さんって、マジで戦神だったんだ・・・」
田島が彼女の凛々しい姿に見とれていると、不意に八幡さんが鋭い声を上げた。
「美紗ちゃん、夏菜子ちゃん、頭を下げぇ! 奴らは銃を持っとる! ウチらには効かへんけどアンタらには……うっ!」
ダァァァン!
乾いた破裂音と共に、八幡さんがガクリと膝をついた。
肩口の鎧が砕け、そこから金色の光の粒のようなものが血のように溢れ出している。
「八幡さん!?」
見ると、お侍さんたち・・・天津軍の兵士たちも、次々と倒れたり、体を押さえて苦しそうに蹲っていた。普通の弾やない? あの銃弾、霊体である神様たちにダメージを与えてる!?
「お方様! あ奴らの銃弾は我らを傷つけます! 呪詛が込められた魔障の類かと! おさがりを!」
一人のお侍さんが必死に叫んで前に出ようとするが、八幡さんはそれを手で制した。
その顔には、痛みの色よりも、遥かに凄まじい「怒り」の色が浮かんでいた。
「たわけ! 誰に口を聞いておる!」
八幡さんは怒号と共に立ち上がると、持っていた弓を投げ捨て、虚空から現れた巨大な薙刀を掴んだ。
全身から立ち昇る神気が、ビリビリと肌を刺すほどに膨れ上がる。
「おのれ下郎! 妾を八幡三神の息長帯比売命と知っての狼藉か! 貴様らごときが、神の身体に傷をつけた罪、万死に値するわ!」
彼女の怒号に呼応するように、空が急に暗くなり、風が唸りを上げ始めた。
「我が神風を受けよ!」八幡さんが薙刀を天に突き上げると、何個も竜巻が起きて、たちまち黒服の男たちを切り裂いていく!
それでもどんどん敵が湧いてくるけど、竜巻に切り裂かれて辺りは血の海になっていた。
「道真! 雷を用いよ! あの不届き者らを焼き払え!」
「ちょ、姐さん! ここで僕の雷をぶちあてたら、死ぬだけではすみませんで! 魂ごと消し飛んでしまいます!」道真さんが慌てて止めようとするが、ブチ切れた八幡さんには届かない。
「構わぬ! いやしくも日ノ本の祖霊神、伊弉諾様の常世宮を穢したのじゃ! 阿鼻地獄に落として魂までもすりつぶしてくれようぞ!」
「うっわぁー……姐さん本気で怒ってはるわ~。しゃあない、ほんならちょっと久々に、怨霊モード解禁といこか……」
道真さんは諦めたように肩をすくめると、懐から呪符を取り出し、ブツブツと祝詞とも漢詩ともつかない低い声で詠唱を始めた。
『東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花……いやさ、天満大自在天神の雷火をもって、あしき魔縁を焼き尽くさん!』
呪文と共に、道真さんの体が膨れ上がり、サラリーマン風のスーツが弾け飛ぶ。
現れたのは、筋肉隆々の緑色の肌、背中に雷太鼓を背負った、教科書で見たことのある「雷神」そのものの姿!
「ちょっと可哀想やけど、邪見と三宝の冒涜は重罪やからな! 43兆年地獄で反省せぇ!」
彼が叫ぶと、黒い雷が天から降り注ぎ、境内を薙ぎ払った。
ドォォォォォン!!
「ぎぁああ! 熱い! た、助けてくれぇ!」
黒い雷撃に打たれた黒服の男たちが、全身青白い炎に包まれて転げ回る。
普通の火傷じゃない。魂そのものを焼かれているような、この世のものとは思えない絶叫が響き渡る。
わたしは恐ろしくて、田島と抱き合ったまま震えるしかなかった。
「ひぃぃ! に、逃げろ! 撤退、撤退だ!」
戦いに加わってなかった白い服の男たち(研究員?)は、あまりの惨状に腰を抜かしながらも、慌てて光る渦の中へ逃げ帰っていく。
「おのれ! 逃さんぞ!」
八幡さんは薙刀を構えたまま、鈴を鳴らして茅乃輪を開き、外の世界(なんか、現世っていうらしい)に出て行こうとする。
完全に殺る気や!
「待てっ!」
そこで、今まで静観していた太子のおっちゃんが叫んだ。
「止めるな! 厩戸皇子よ!」
八幡さんは烈火の如く怒って振り返ったけど、おっちゃんは怯むことなく立ちはだかり、首を横に振った。
「姐さん、それはアカン。神域に入り込んできた不逞の輩は、正当防衛やからいくら殺しても構わん。せやけど、現世まで出ていって報復するんはルール違反や。そんなことしたら、姐さんが菩薩がたの裁きを受けまっせ・・・」
「くっ! またか! 何がルールやねん! アンタら仏がそんなことばっかし云うて人間どもをのさばらしとるから、こんな暑すぎて獣も草花も生きられへんほどになってもうたんやないか! まして神前を穢すやなんて・・・ウチが生きとったころにはこんなこと起きへんかったわ!」
八幡さんは悔しそうに唇を噛み締めると、薙刀を地面に突き刺し、踵を返して負傷した軍の手当てを命じた。
その背中は、怒りよりもどこか深い悲しみを帯びているように見えた。
真魚さんが、気遣うように太子のおっちゃんの肩をポンと叩く。
「しゃあないわな。神さんにとっちゃ、自然も人間も我が子みたいなもんや。それが自分らを害しに来たんやから、やりきれんわな」
真魚さんは紙人形をフッと空中に放った。
「とりあえず式鬼を付けておいた。先ずは奴らが何処に帰って行くか、巣穴を見定めよやないか」
【お詫び】 本日は更新が少し遅れてしまい、申し訳ありません! 今回のバトルシーン、八幡様と道真公の暴れっぷりに筆が乗ってしまい、ギリギリまで加筆修正しておりました。 お待たせした分、楽しんでいただければ幸いです。
ご覧いただきありがとうございます。
ついに開戦しました! 普段は白スーツで「コンプラ」を気にする八幡さん(神功皇后)ですが、ひとたび戦いになれば、やはり「武家の守護神」。 弓から薙刀へ持ち替え、神風を呼ぶ姿……書いていてゾクゾクしました。
そして、道真公の「43兆年地獄で反省せぇ!」。 さすが元・日本三大怨霊、怒らせてはいけない相手でしたね(笑)。
次回、逃げた敵を追って、物語は「犯人捜し」のフェーズへと移ります。 アレ君の科学と、神様の呪術がどう融合するのか?
迫力あった!続きが気になる!と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




