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第11話: タブレットの中にあるのは外法のバイブル?

なんで仏さんがタブレットなんか持ってるんか不思議やったけど、開いたファイルの表紙には「金烏玉兎集」って書いてあり、それを見るなり小角のおっちゃんと道真さんが目を丸くする。

金烏玉兎集(きんうぎょくとしゅう)・・・おい真魚よ、オマエもマニアックやな。そんなものを持っとったんか?」しかし真魚さんは首を横に振る。「オレが持っとるわけやない。ネットでたまたま見つけたんや。」

「真魚さん、そんなん別に珍しいもんや無いでしょう?写本もようさんあるし、こないだAmazonみとったら現代語訳っていうんも売ってましたで?」っと、これは道真さんである。

「まぁ待て道真・・・オレが見せたいのは・・・」そういうと、真魚さんはPDFファイルを最後の方にスワイプしたけど、それを見た途端、小角のおっちゃんの顔が青ざめた。


「真魚・・・これは呪詛(じゅそ)反魂法(はんごんほう)やないか・・・写本にはこんなもんは書いてへんかったぞ・・・」

「まぁそうなんやけど、ようよう考えたら晴明(せいめい)は人形、蟲毒、式神、反魂その他諸々の外法の使い手や。金烏玉兎集が安倍家の秘伝やとしたら、そう言うことが何にも書いてへん方がおかしい。」

「せやけど、陰陽道の外法が何の関係があんの?仮にそう言うんが書いとったとしても、1,000年以上あの子みたいな呪詛の達人なんかおった試しなかったやんか?」八幡さんがそう言ってお茶をすする。

「ちょっと、そもそもこのファイルの出どころ自体が怪しいんやけどな・・・夏菜子ちゃん、美紗ちゃん。こっからはオレの憶測や。AIとかインターネットを使うて、人間の欲や怨念を集めたり、呪符を作ったりできるんとちがうか?」

「え?じゃあその、気持ち悪い霊獣?って、人間が作った化け物ってこと?」田島が言うと、太子のおっちゃんがゆっくりと頷いた。「まだ憶測の域はでぇへんけど、可能性としては考えとかなアカンな・・・」


「ほんで太子はんよ、どないするんや?」小角のおっちゃんに促されて、太子のおっちゃんが頷いた。

「小角はん、悪いんやけど、鬼神らに伊勢の社の廻りを探らせてくれへんか?見つかりそうやったら直ぐに帰らせてくれ。いまワシらが関わってると思われたない。敵が誰か分からへんからな。」


「誰か分からん?おっちゃん、それどういうことなん?」わたしが我慢でけへんで聞いてみたら、道真さんがハァって溜息をついた。

「なぁ小路さん…」

「夏菜子でええよ」

「ああ、おおきに…夏菜子ちゃん、美沙ちゃん、僕みたいな怨霊ってな、有名どころだけでも、平将門さん、崇徳(すとく)の帝、長屋王、早良(さわら)親王って…めっちゃ多いねん。そういうん、歴史で習うたことある?」

いや、そんなん知らんし。日本って、昔っから一人の王様が代々継いできた国やん。そやから日本は素晴らしーって…なんか、どっかの議員さんが言うてた気が。

「僕な、その当時の帝にえっらい気に入られとってん。せやけどそれをよう思わん人らがおったんやね…アイツ、友達や思うてんけどな…それか一番堪えたわ。」

「え?道真さん、それどういうこと?」田島は不思議そうに聞き返したけど、東京やから知らんのかも知れへん。太子のおっちゃんが代わって説明する。

「コイツのことをよう思わん連中がおった。そいつらが道真を謀反人に仕立て上げた。」

「…!そんな!」

「知らんかったか?昔っからようある話やけどな。ワシはそれで死んだわけやないけど、ワシの息子はいきなり蘇我氏に討たれて、それやった入鹿(いるか)は息子の親戚やで…」おっちゃんがそう言うと、八幡さんも顔を覆って呟く。

「ウチもそうやった…誰が自分の婿さんの子供殺したいて思う?なんぼ腹違いの連れ子やいうても…せやけどな、この国ではそれはムリなんよ…」


「どういうことですか?ちょっとあーし意味わかんないって言うか…」田島が戸惑ってると、真魚さんが応える。

「要は、偉大な王様が治める偉大な国です、っていう建前がいるんやろ?ま、オレも小角さんもその為に利用されたんやけどな。」


「えっ?…どういうこと?」

「えーとな、夏菜子ちゃん、国譲りって知っとる?ナムジはんが高天原の使者に国を明け渡すって言うた話やけど…」真魚さんがそういうと、アマテラスさんはちょっと悲しそうな顔になった。


「それは知ってるで?代わりに僕の神社建てて、って言うたんやろ?」

「そうそう、元はひのもとはヤマトとか、イズモとか、クマソ、エミシ…色んな国があった。それを侵略したり協力したりして一まとめにしていった歴史が、古事記とか日本書紀には書いてあるんよ。せやけど、もともとおった色んな国の人らはどないしたんやろな?神さんや王さんは消えてもうたんやろか?」

「え?・・・そんなわけないやん。ずっとおったんやろ?それがどないしたん?」

わたしがそういうと、真魚さんはちょっと苦笑いをした。


「ヤマトからしたら、イズモやクマソ、エミシは敵や。またヤマト王権の内部でも色々対立があった。そういう場合、夏菜子ちゃんやったらどないする?」

「そんなん・・・仲良うしたらええやん。たしか十七条憲法にそうやって書いたんやろ?」


「夏菜子!もうぼちぼち分からなあかん!それは()()やったんや!」

いままでじっと聞いていた太子のおっちゃんが怒ったように声を荒げて、すぐにハッとしたようにわたしに頭を下げた。

「・・・すまん、おまえに言うことやない・・・全部ワシの失敗や・・・」

「ウマちゃん・・・やめなさい、アンタ一人でしょい込んでどないすんねん・・・」がっくりと項垂れるおっちゃんの背中を八幡さんが擦って慰める。

「ど・・・どういうことなん?・・・なんでおっちゃんはそんなに辛そうなん・・・?」わたしは悲しくなってきて、たぶんちょっと泣いてたんやと思う。


「夏菜子ちゃん・・・人間いうんは愚かなもんでな・・・ヤマトの初めの頃はな、いろんな豪族や服従した国の民が入り乱れてお互いに相争ってた・・・ヤマトの大王(おおきみ)はまだまだ力が弱くて、完全に抑え込む力はなかったんや。そんで太子は、儒教や仏教を使うて豪族や民を教え導こうとした。そやけどや、そんなことは大して上手いこと行かへんかった。蘇我氏が、中臣が、暴力と偽りで権力を牛耳ろうとした。そして大海人皇子(おおあまのみこ)は更に力でそれを奪い返そうとした・・・そんでな、その度ごとに・・・」真魚さんがそこまでいうと、アマテラスさんが目をつぶって耳を塞ぐ。

「自分たちは、姫・・・天照大神の直系の大王を抱いている・・・って言って正当化した。ようは、姫に自分らの暴力と偽りの責任をなすりつけて来たんや・・・ほんでな、オレとか小角さんはよ、そいつらの所為で恨みを持って死んだ道真みたいな怨霊を鎮めるための道具にされてきた、ちゅうこっちゃ。な、そんだけドロドロしとったら誰が敵かなんか分からんやろ?」


ご覧いただきありがとうございます。

楽しいおでんパーティーから一転、歴史の授業では習わない「日本の闇」に触れる回でした。


「和を以て貴しとなす」。 そう説いた聖徳太子自身が、どれほどの血と争いを見てきたのか。 そして、神話や歴史書が何のために編纂されたのか。


「関西神仏ライオンズクラブ」のメンバーは、そんな歴史の荒波を生き抜き、時には利用されながらも、現代まで人々を見守り続けてきた存在です。 だからこそ、彼らの結束は固いのかもしれません。


さて、そんな彼らが指摘した「AI×呪術」という現代の脅威。 物語はここから、過去の因縁と現代のテクノロジーが交差する展開へと進みます。


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