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第10話: 作戦会議!その前に腹ごしらえや!?

「まぁ、とりあえずは作戦会議やけど・・・」

なぜかみんな用意が良く、チクワやら大根やらコンニャクを持ってきてくれてて、その頃にはアマテラスさんも調子が戻ってたから、わたしらは皆で車座になって関東炊きを作った。


「夏菜、これっておでん? あーしクジラって食べたことない・・・」

田島は怪訝な顔して鍋に浮いた「コロ」を見てたけど、わたしは構わずそれを箸で掴んで口に放り込んだ。

「うっま! 久しぶりに喰うた! っていうか何? なんでこんな美味いん? えーと、役小角様?」

「小角でええで。なんや自分、クジラ好きなんか? かまへん! なんぼでも喰え! イザナギはんとこの鍋は神代の特注品やし、このクジラは太地(たいじ)で上がったばっかりのヤツや! トラックの運ちゃんやっとる修験者が奉納してくれたわ!」

「おおきにおっちゃん! お父ちゃんがよう作ってくれてん! ほら田島! あんたもキモイとか言うてんと喰うてみ!」

「えー・・・ほんとかなぁ・・・う、モグモグ・・・! なにこれめっちゃ旨い! モチモチしてジューシー! あ、この鯨ベーコンも食べてみよう・・・旨っ! 信じらんない! 夏菜っ! なんで早く教えてくんなかったの! あしたマルナカに買いに行こうよ!」

「いや、淡路島のスーパーにクジラは滅多におらんし・・・」

都会もんはこれやから・・・と思いつつアマテラスさんをみると、彼女は初めて見るクジラのコロ・・・というか、関東炊き自体が初めてらしく目を白黒させてた。


「アマテラスさん、関東炊きは苦手? なんやったらウチが入れたげよか?」

わたしが言うと、彼女は無言でコクっと頷く。

可愛い! なんでこないに可愛いねん! ウチはこのままアマテラスさんのオカンになってもええ!

それはともかく、わたしは煮えた具を彼女のお椀によそった。

「えーと、ちょっと疲れてはるやろから、卵と大根と・・・うん、やっぱりコロやな。おっ、牛スジも旨そう! 餅巾着いれとこ。はい、アマテラスさん! アツアツの内に食べてや!」


せやけど、彼女はお椀によそわれた、茶色い大根や卵、黒い皮のついたコロや牛スジをまじまじと見ている。

いつも神殿で奉納される清浄な神饌(しんせん)とは似ても似つかない、むせるように醤油と獣の匂いがする煮物。アマテラスさんは、少し戸惑ったように、お箸でおそるおそる大根をつついた。


「大丈夫? アマテラスさん、あーしがフーフーしてあげよっか?」

田島が彼女のお椀を引き取ると、大根を小さく一口大に箸で切ってフーフーして冷ます。

あっ! コイツどさくさに紛れて何してんねん! それはウチの役やろ!

「フーフー・・・ほら、食べやすくなったよ? あーんして・・・」

田島がそう言いながら、アマテラスさんのお口に大根を入れると、彼女はハフハフしながらそれを嚙んで、ゴクッと飲み下した。

「……! 美味しいっ!」

薄茶色の瞳がまんまるに開かれ、いままで見たことが無い様な笑顔になる。


「美味しい? じゃあこれも食べてみる?」

田島が牛すじを串から外してアマテラスさんに食べさせようとすると、彼女は愛らしく微笑む。

「もう、美紗ちゃん・・・子供じゃないんだから食べられるよ!」

アマテラスさんはそういうと、牛スジやコロを瞬く間に平らげて、おかわりを小角のおっちゃんに要求した。

「お、おぉ…よう食べるな、いや感心感心…なぁ太子はん、姫はこないによう食べる子やったかいな? なんかワシだいぶイメージちゃうんやけど…」

小角のおっちゃんがアマテラスさんのお椀におかわりを入れながら聞くと、太子のおっちゃんはニッコリ笑った。

「ま、ツレと食う飯は美味い言うこっちゃ! なぁ、夏菜子! 美紗ちゃん! あと、下品でゴチャゴチャしたもんほど美味いもんやろ!」


あ! またウチだけ呼び捨てや!

そのことを抗議すると、おっちゃんは「そらお前はワシの娘みたいなもんやないか。我がの娘にちゃん付けするオトンはおらんやろ?」って言われた。

「なんでやねん…だいぶひいひいひい…お爺ちゃんくらいやんけ…」

「どしたん? 夏菜、顔赤いよ?」

わたしがモゴモゴ言っていると田島が頬っぺたを突いてくる。やめんかい! と言ったらアマテラスさんが笑うてた。



「さてさて、腹も膨れたし本題に入ろか」

一通り食べ終わって、みんながお茶を飲んだところで太子のおっちゃんが切り出した。

大丈夫? 真魚さんだいぶ飲んでへべれけやで。と思ったら、田島もロレツが怪しい。

「まぁ…一部酔うてる奴もおるけど、ええやろ。先ずはみんなの意見を聞こか。姫、改めて何があったかワシから言うてええか?」

おっちゃんが言うと、アマテラスさんが無言で頷く。


おっちゃんは、アマテラスさんから聞いた内容をなるべく正確にみんなに説明した。

「…ちゅうことやけど、みんなどない思う?」

四人はしばらく腕を組んで考えてたけど、道真さんが手を上げる。

「兄さん、腹立つんはまぁその通りやけど…そのなんちゅうの? そのキショい霊獣ってなんなん? 僕けっこう怨霊やってたし、怨霊とか妖のツレもようけおるけど、そんな奴聞いたことないで? そもそもそんなんが伊勢の神域に入れるん自体おかしない? 僕も、将門さんも、崇徳の君も、入れるようになったんは怒りが収まって神様として祀られるようになってからやで?」


「なんや道真、ほったらそれは怨霊や悪霊やのうて、ただの神さんやっちゅうんか? ヒルコ様みたいな」

と、これは八幡さんである。道真さんが答えあぐねていると、横から小角のおっちゃんが口を開いた。

「いや、ワシは淡嶋でヒルコ様に何遍も会うとるけど、そんなヌメヌメしてるとか、醜悪な男の顔がいっぱいついてて下品極まりないことを言うとか、そんなもんやないぞ? 確かにあのお人は体の骨がのうて、なんかグニャグニャしてはるけど、お人柄は優しゅうて、深く、広い心をお持ちや」

おっちゃんは、遠くを見るような目をした。


「ワシは昔聞いたことがある。『イザナギ殿やイザナミ様を恨んでまへんのか?』と。せやけどあのお人は、『お父ちゃんもお母ちゃんも、ああするしかなかった。せやけど今は日本(ひのもと)の子供らがこんなにも僕を崇めて慕うてくれるやないか・・・何を恨むことがあるんや・・・今の僕に出来るんは、お母ちゃんが味わった悲しみが、このひのもとの女の人らの身に降りかからんように守り、癒すことだけや』ってな」

うわっ、メッチャ人間できてはる。

っていうか、ヒルコ様って誰?

田島に聞いても首を振ってる。そしたら、真魚さんが教えてくれた。


「えーとな、兵庫県やったら西宮(えびす)ってあるやろ? アレまさにヒルコ様が流れ流れて神戸沖に着きはった、ちゅう話なんよ。しかしなんにせよ、そのキショイ霊獣は神やないやろ、ちょっとこれを見てくれへんか?」

そういうと真魚さんはタブレットを出して、PDFファイルを開いた。


ご覧いただきありがとうございます。


第10話は、神仏オールスターズによる「関東炊き(おでん)パーティー」でした。 初めて食べる下世話(?)な煮物の味に目を輝かせるアマテラス様、書いていてとても和みました(笑)。


さて、作中に出てきた「コロ(クジラの皮)」などの関西おでん事情について、このあと投稿する活動報告で少し詳しく紹介しています。 「神様たちの食卓」の裏話、よろしければ覗いてみてください!


そして後半、真魚(空海)が出してきたタブレット。 ここから物語は、この国の深部へと切り込んでいきます。


続きが楽しみ!と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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