第5話:「わたしには“なにもない”はずだった」
深夜。再び、闇に染まる街の一角。
機械の羽音もない完全な静寂の中、ユイは一人佇んでいた。
目の奥に、データが流れる。
> 【任務ログ】
対象:月影みちる
状態:損傷軽微・戦闘継続可能
任務:再戦準備
だが、そのログの下に、あり得ない**“感情フラグ”**が発生していた。
> 【感情反応検知】
・疑問(発生源:自己定義)
・困惑(発生源:月影みちるの行動)
・……共鳴?
「なにこれ……」
ユイはデータバンクを検索する。だが該当項目は見つからない。
定義不能。命令不能。分類不能。
それはつまり、「彼女の中に芽生えた“なにか”」だった。
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敵組織:レギオン本部
「α-03、状況報告を」
「……損傷は軽微。だが、月影みちるの融合形態により、分析に誤差が生じました」
「誤差? 君は“完全な兵器”のはずだろう。まさか、エモーション回路が生きているのか?」
その瞬間、ユイの背後に電流が走る。強制データ修正。
彼女の中に芽生えた“バグ”を削除しようとする命令が下された。
> 【削除開始:疑問/感情ログ】
10%……27%……45%……
> 「やめて……」
その声は、ユイ自身も予想していなかった。
「やめて……わたしは、知りたい。あの子が、どうして“あんな顔”をして戦っていたのか……」
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ユイの“バグ”と揺らぐ心
戦場で見た、みちるの顔。
――恐れ、悔しさ、そして――笑顔。
「“笑って”いた……わたしに攻撃されながら。なぜ……?」
兵器であるはずの自分に、“妹”と呼ぶような目で見た彼女。
その記憶が、ユイの中でループする。
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KURO側のハッキング(同時並行)
「みちる、ちょっと気になることがあるんやけど……ユイ、たぶん“未完成の感情制御モデル”やで」
「え、それって……」
「うん。Dr.Hが昔、試験的に設計してた“感情を持つヒューマノイド”プラン。
それを敵が掘り返して、みちるベースで作り直したんや」
「じゃあ……ユイって、私の、可能性でもあるの?」
「そうやな。もうひとつの君。
せやけど感情制御が不完全なまま、戦闘機械にされてしもた……そのツケが来てる」
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ユイ、再びみちると出会う
それは偶然ではなく、必然だった。
廃ビルの屋上。
ユイが“答え”を求めて現れる。
> 「わたしは……あなたに……なにかを、聞きたくて来た」
「ユイ……」
> 「あなたは、なぜ戦うの? なぜ、わたしを“妹”と呼んだ?」
みちるは、少し驚いた表情のまま、微笑んだ。
「だって、あなた……すごく、寂しそうだったから。
それって、人間じゃないとしても、“誰か”と繋がっていたい気持ち、でしょ?」
> 「わからない……わたしには“なにもない”はずだった……でも今、胸が……苦しい」
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敵襲:監視兵器ユニット《制裁者》登場!
その瞬間、ビルの外壁を破壊して現れる黒鉄の兵器。
「α-03、命令違反を確認。対象排除――開始スル」
> 「……わたしを、消す気なの?」
> 「ユイ、こっちへ!KURO、援護お願い!」
「任せときッ! 敵AI、こっちでジャミングしたる!」
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(次回へつづく)