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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある化け物の話

作者: からし

内容的にグロを感じるかもしれません。

苦手な方はバック推奨です。

あと、主人公なんもしません。

「もしかして、人間なの?」


 授業と授業の間にある短い自由時間。

 10分だけ与えられた自由を生徒達は思い思いに過ごす。

 次の授業の準備をする者、友人と雑談するもの、他の教室に遊びに行く者。

 そんな生活の一コマの中、ある教室で女生徒が友人にそうたずねた。

 聞かれたその友人は顔を青くし、口を金魚のように開け閉めする。


「ねえ、聞いてる? 小梅ちゃんって、人間なの?」


 聞こえなかったのかと、同じ問いかけをする。

 問われた側、小梅と呼ばれた彼女は、問いかける女生徒から後ずさって距離をとった。


「そうなんだ。小梅ちゃん、私たち側じゃなかったんだね。ざーんねん」

「ち…知里ちゃんは優しい人だよね? 私のこと、と…友達だって……食べないよね!?」


 小梅は、女生徒--知里--に乞うように語りかける。

 その姿は必死で、まさに命を乞うている様子だった。


「うん、小梅ちゃんは私の大好きな友達だよ」

「! …だったら!」

「でもねー、小梅ちゃん人間でしょ? 人間は、私たちにとってのご飯であってデザートなんだー。目の前に美味しそうなデザートがあったら、小梅ちゃんだって食べたくなるでしょ?」

「…ぁ…うそ…だって……」


 ガタりと、小梅の背で押された机が音を発てる。

 教室の真ん中から位置がずれた机は、ずらした小梅の足をもたつかせた。

 先ほどより大きな音を発てながら机が動き、小梅が床に倒れる。

 音は教室内に響き、ほとんどの生徒の視線が小梅に向く。

 クラスメイトの様子に小梅は小さく悲鳴をあげ、何かを探すように視線をグルリと回した。そして、教室の片隅にいる男子生徒に手を伸ばした。


「た、助け…み、宮君」

「…僕?」


 宮と呼ばれた男子生徒が小梅の方を見る。

 本を読んでいたためか、騒動が起きても宮は小梅達に一切目線を寄越さなかった。

 名前を呼ばれたために、騒動に関わらざるを得なくなったと不満そうな顔をしている。


「あれー? 宮君も、もしかして人間だったりするの?」


 小首を傾げながら、知里は問いかける。

 問われた宮は、不満顔をさらに歪め、不機嫌さをありありと顔に浮かべた。


「そんなわけないだろ。僕がいつ人間に戻ったって?」

「あー、そうだねー」

「み…宮…君」

「何? 人間だった頃の僕に片思いでもしてたの?」

「あれ? そーだったの? あ、じゃあさ! 宮君にも食べてもらう? これでずっと一緒だよってね。どうかな小梅ちゃん」


 妙案だと言いたげに知里が微笑む。

 その笑顔は慈愛に溢れているように見えた。

 反対に小梅は顔を紙のように白くし、知里の方を見ようとしなかった。「なんで、どうして」と呟やき、目尻には涙が溜まっていた。


「……。僕は遠慮するよ。迷惑かける奴の地肉は欲しくない」

「あれれ、いい案だと思ったんだけどなー。ごめんね小梅ちゃん。食べるのは私だけで赦してね」


 知里の言葉に小梅が首を横に振って否定する。その勢いで、溜まっていた涙が頬を滑り落ちた。

 その姿を哀れと思ったのか、ただのお節介なのか、周りの生徒から庇護も混じった言葉がとぶ。


「小梅ちゃん食べてほしいんだとよ、血液ぐらい飲んどけば」

「知里、お前独り占めするのか? ちょっとくら分けてくれてもいいんじゃないか?」

「心臓と脳は擬態がまだの奴にとっておくとして、その次に美味しいのを宮に渡せば?」

「片思いって甘酸っぱいんだって。私も食べてみたい」


 やいやいと盛り上がる生徒達。

 その中に“小梅を食べない”という選択肢は全くなかった。


 そんなクラスの様子を見た宮は、まだ開いていた本を閉じ、本を持って椅子から立ち上がった。


「僕は、自分が食べたいと思った人間しか食べないんだ。知里が言ったように、人間はデザートなんだ。趣味嗜好が合わない奴は食べたくない」


 拒否を全面的に押し出す宮に、小梅は体を丸め、えずくように泣き出してしまった。

 涙を流す姿に罪悪感でも湧いたのか、宮は視線を小梅から反らす。


「…ああでも、血液くらいなら飲んでもいいかも」


 そして、拒否したばかりの小梅の血を飲むと言った。

 その様に、知里が面白がるようにニヤニヤと笑みを浮かべる。


「なんで血液だけOKなの?」

「人間の飲み物にワインがあるだろ? 赤ワインだ。血をワインに見立てて、チーズをおつまみにして飲むのもオシャレかなって」


 宮の答えを聞き、知里は少しだけ顔を強張らせた。その次には眉を下げ、乾いた笑みを浮かべる。

 求めていた答えと違ったのか、残念だと言いたげな表情だった。

 だがすぐに、残念そうな表情を上塗りするように、知里は花咲くような笑顔を見せた。


「とっても美味しそうな飲み方だね! じゃあ私がやるのでー、今回は宮君は諦めてね!」

「何でだよ」


 宮は頭をガシガシとかき、諦めたように大きなため息をつく。

 その様子を面白がったのか、知里が得意げに胸を張った。


「えへへ。早い者勝ちですー」

「なら権利は僕にありそうなんだが」

「ダメですー。小梅ちゃんのこと食べたいなら分けてあげたけど、イヤイヤでなら絶対ダメー。だって私は、小梅ちゃんの友達だからね! この鈍感タラシ!」

「何でそうなるんだよ」

「だって血だよ! 心臓や脳に続く人間の命の結晶なんだよ! 小梅ちゃんの甘酸っぱい想いを受け止めてくれたのかなって思ったんだもん! ラブロマンスってやつを期待したの!」

「…悪かったよ」

「素直でよろしー。素敵な食べ方ありがとね、宮君。こんど何かで埋め合わせするから! ね、小梅ちゃん。そろそろ“台所”に行こ? あんな鈍感タラシは放っておいてさ。あ、宮君。ついでに、先生に授業お休みするって伝えといて」

「はいはい」


 知里は小梅を“台所”に連れて行こうと小梅の腕を引っ張る。それを小梅は机にしがみついてそれを拒もうとする。

 しかし、知里の引っ張る力には勝てないのか、小梅はずるずると引きずられていた。抵抗も虚しく、教室から出て行く。

 やがて廊下の向こう側に行ってしまい、曲がり角で見えなくなってしまった。

 それでもしばらくは小梅の叫び声が廊下に響いていた。だがそれも徐々に遠ざかっていく。

 完全に聞こえなくなる頃には、教室内に平時の喧噪が戻っていた。



 2人を見送った宮は、普段の騒々しさが戻った教室を一瞥して席に着く。

 そして、本の続きを読もうとページを開いた。


「やあ、災難だったな宮」


 宮の1つ前の席に座る男子生徒が宮に声をかけた。

 男子生徒の問いかけに宮は答える。


「ああ。人間を食べるのはいいが、食べられるのはまっぴらごめんだよ」


 宮の言葉に男子生徒は首をかしげた。

 少しして合点がいったように宮の言葉を肯定する。


「あー、確かにな。共食いって悪夢だわ。小梅ちゃんもなかなか意地の悪いことするな」

「…まあ、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。死なば諸共とか一蓮托生なんて言葉があるくらいだし、人間なんてそんなものなんだろ」

「ふーん。お前の食べた宮って博識だったんだな。俺の食べた人間にはそんな知識なかったぞ。一蓮托生って?」

「死なば諸共はわかるだろ? 死ぬときは一緒だって意味だよ」

「へー」

「お前も勉強しろよ? 社会に出た後、困るのは俺たちなんだからな」

「いいじゃん別に。周りの人間はみんな仲間に食わせる。それで済む話しなんだからさ」

「…僕たちがこの学校を占領してからだいぶ経って、それでもまだ人間が残ってたんだ。小梅みたいに取りこぼす可能性を考えたら、人間に上手く擬態するべきだろ?」

「うっわ、お前真面目だわ。それも宮って奴の真似?」

「ああ。上手いもんだろ?」

「んー、記憶にある宮と確かに似てるかな。あんまり喋った記憶がないからわかんね」

「…そうか。もう少し喋らない方がいいのかな。今は寮生活だからいいけど、肉親にあったらバレるかもしれないし」

「いや、単に気が合わなくて話してないだけだったし、今のままでも通じるって」

「だといいんだけど」

「いやいや、通じてくれないと困るって。元いた星での暮らしや関係性の殆どを忘れる代わりに、この星の記憶や知識を手に入れたんだぜ。通じなかったら忘れ損じゃん」

「はは。まあ、習うより慣れろってことだな。実践あるのみだよ」


 そう言って宮は肩を竦める。

 ついでにズレたメガネの位置も直し、開いたまま目を通さなかった本に視線を落とした。


「なあ宮」

「僕は本が読みたいんだけど」

「早速実践か? 学校にいる時ぐらい気負わなくていいのに」

「わかった、わかった。で、なに?」


 読むのを諦めたのか、本を閉じて机の中にしまう。

 それに気をよくした男子生徒は、宮の机に肘を置いて頬杖をついた。


「この学校にさ、もう人間は残ってないのかな」

「…食べたいなら知里におこぼれ貰ってくれば?」

「いや、そんなことしたら知里に怒られるから。じゃなくて。さっき小梅ちゃんが連れて行かれただろ? 人間からすれば、小梅ちゃんはまだ同胞なのに、誰も助けに来なかったなーと思ってさ」

「…そんなに気になることか?」

「人間が馬鹿じゃないのはさ、わかってるつもりなんだよ。脳と心臓を食べて、記憶や知識を貰ったからな。けどさ、人間って愛や友情が大好きなんだろ? まだ残ってるんなら、見捨てるなんてしないと思うんだよな。その辺り、"宮"はどう思うのかなって」


 男子生徒の問いを聞き、宮は目を細めた。


「宮? どうかしたか?」

「いや…ちょっと思い出してたんだ。お前の食べた人間は、他の人間を助けるために死んだんだって。そういう意味では、すごく人間らしかったんだなって」


宮の言葉に、男子生徒は笑顔で頷いた。

尊いものを慈しむような笑顔だった。


「ああ。俺の前に飛び出してきたから、ついやっちゃったんだよな。他の頭良さそうな奴狙ってたのに」

「僕とか?」

「そう! 狙い通り宮は頭良かったし、悔しいよ。全く」

「残念だったな。脳と心臓はひとり1組までだ。宮は美味しくいただいたよ」

「おい、自慢か?」

「自慢だ」

「このやろう。ま、俺が食べたこの人間も悪くはないけどな。…で、さっきの質問だよ。どう思うんだ?」

「……。さあ? 僕にはわからないけど、触らぬ神に祟りなしって事じゃないかな?」

「神?」

「よけいなことに関わらなければ、ひどい目にあうこともないって事だよ。隠れて、息を潜めて、生き延びたいって思ってるなら、これから"台所"に行く小梅を助けたりはしないだろ」

「愛や友情が好きでも、結局は見捨てるってことか? 俺の食べた人間とはえらく違うんだな」

「人間は神に勝てないからな。それをするのは無謀って言うんだ」

「…ふーん? じゃあ、神に勝てないと悟った人間が、小梅みたいに俺たちに紛れて暮らしてるってことか?」

「その辺はわからないな。小梅が最後だったのか、そうでないのか。でも、何もしてこないなら放っておいてもいいんじゃないか? それこそ、人間は神に勝てないって奴だ」

「いや、そうじゃなくてさ。俺たちに擬態するなら、人間が人間を食べることだってあるよな? それって共食いだろ? 人間ってそんなに酷いものなのか? 愛や友情は、ただ好きなだけ? 自分のことになったら例外なのか?」

「…………」


 男子生徒の問いに、宮は考える素振りを見せる。

 少し時間をおいてから、答えようと宮は口を開く。


「人間を食い物にする人間……か。それってさ、もう」


 そこにタイミング悪く、言葉を遮るようにチャイムが鳴り響いた。

 間延びした音に気を削がれたのか、男子生徒は椅子に座りなおして話しを切り上げた。


 席に戻ろうと移動する生徒達のたてる音に紛れ、喧騒に飲まれる小さな声で宮は吐露する。


「化け物だからだよ」


 人間を捨てた宮はそう、苦々しく呟いた。

化け物とは、人間を食べて生きながらえる人間のことを、つまり宮のことを揶揄してました。

宮は残酷なことをしてますが、生きたいなら神の生活に紛れるしかないのです。


宮に話しかけた男子生徒(神)の元の人は、宮を助けるために食べられました。

この男子生徒(人)は本当にお人好しの善人ですが、それでも命を賭して庇うなんて中々できることではありませんよね。男子生徒(人)を食べた神が、「人間は愛と勇気が好きだ」と強く思っていたのはその為です。

宮が人間をやめてまで生きようと思ったのも、この男子生徒(人)の為です。


男子生徒(神)は、"宮"が人間だと睨んでいます。


小梅ちゃんと宮以外にも生き残りはいます。

ただ、基本は互いに不可侵で、「助けを求めるな」というルールが決められています。

小梅ちゃんはそれを破って宮に助けを求めてしまいました。心情的には仕方ないと思います。

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