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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第32話 泉の大妖精

 目の前に泉が広がっていた。草木が生えており、自然豊かな場所に気づけば立っていた。


「……ここは」


 リオノーラが周りを見渡すと、クローディアたちもぼーっとした様子で立っていた。


「みなさん、大丈夫ですか?」


 声をかけると、三人はハッとした表情を浮かべた。クローディアは周りを見て、眉を寄せる。


「……大妖精のいる泉ですね」


 クローディアがそう言った。シャノンも険しい顔をしている。二人はこの場所に来たことがある。そのことを思い出しているのだろう。

 フェリーナだけは一点を見ていた。顔を赤らめ、泉の上の方を見ている。


「……大妖精様」


 彼女がそう呟く。そこには誰もいない。だが、彼女には見えているようで、惚けた顔で何かを見上げていた。

 すると、大きな笑い声が聞こえた。あたりに響くような、女性のような甲高い声だ。ひとしきり笑うと、穏やかな声が聞こえた。


「何だ、君には私が見えているのか」


 その声とともに、目の前が揺らぐ。目を閉じてもう一度開くと、そこには大きな人のような姿をしたものが泉の上で座っていた。その姿は人の何倍もあり、見上げないとその人の顔が見えなかった。


「クローディア、シャノン。久しぶりだね。願いが叶ってどうだった?」


 その言葉にクローディアが恭しく礼の姿勢を取る。だが、その目は鋭かった。


「あなたのおかげで、リオノーラを救い出すことができました。ですが、彼女の記憶は失われてしまいました」


 棘のある言葉を投げかけられても、大妖精は穏やかな表情を崩さなかった。


「そうだろう。それが対価だ。対価があることは話しただろう?」

「どうして私ではなく、リオノーラから奪ったのですか? 願い事をしたのは、リオノーラではなく、私たちでしょう?」


 クローディアの言葉にシャノンはうなずく。二人はずっと納得できていなかったのだろう。

 大妖精は目を細めて、リオノーラを見た。


「リオノーラが妖精に友好的ではなかったからだよ」


 その言葉に全員がリオノーラの方を見た。どうやら、妖精に対して良い感情を持っていなかったことがバレていたらしい。

 リオノーラは眉を寄せて、大妖精を睨んだ。


「あら、横暴なこと。先に信頼を失うようなことをしたのは妖精の方でしょう? どうして、友好的な関係を築けると思ったのかしら?」


 大妖精は困った子どもを見るように頬に手を添える。


「私たちは人間の願い事を色々叶えてきたはずだ。その方法が気に入らなかったからって、文句を言わないで欲しい。私たちは君たちのご機嫌窺いをしながら働く従者じゃないのだから」


 大妖精はそう言うと、ニィと頬を緩めた。


「それにしても、君は面白いね、リオノーラ」

「どういうことですの?」

「この学園に来たときから、私の像に向かって言っていたね。妖精には頼らないと。だから、君がどうしたら妖精に頼るか色々を試してみたんだけど……君の意見は全く変わらない。本当に面白いよ」


 いろいろと試す……? リオノーラには思い当たることがあった。


「もしかして、あのフェリーナの本。あれもあなたが……?」

「え、私……?」


 話題に上がり、フェリーナは首をかしげた。

 学園に入学して半年が経ったころ、図書館で見つけたもの。フェリーナを主人公とした物語で、クローディアたち三人が最終的に不幸になるといった話だった。どうしてそんなものを見つけられたのかと思っていたが……大妖精の仕業だとしたら……。


「ああ。役に立ったかな? このままだったら、君たちは不幸になるところだった。妖精に頼らないと言っていたけれど、君はその未来を見過ごせなかった。助かっただろう?」

「……とても不本意でしたわ」

「君が行動したことで、未来は変わった。またあの物語の内容も変わっているだろう。どうかな、また読みたいかい?」


 リオノーラは大妖精を睨みつける。腕を組み、はっきりと伝えた。


「結構ですわ! どんな未来だって、越えてみせるんですから!」


 大妖精は楽しそうにニィと笑う。まるで面白いおもちゃを見ているかのようだった。


「そうか。頼らないか……。じゃあ、また君から何かを奪ったら……君は妖精を頼ってくれるかな?」


 大妖精がリオノーラに向かって手を伸ばそうとした。逃げたくない。そう思い、大妖精をまっすぐ見ていた。……そのとき、リオノーラの前にクローディアたちが立ちはだかった。フェリーナがリオノーラを庇うように。クローディアはリオノーラの目の前に。そしてそれを守るようにシャノンが立っていた。


「させません。リオノーラは私たちが守ります」

「シャノンは騎士だから……私の剣は大切な人を守るためにあるんだから!」

「妖精が人を傷つけるようなことをするなんて……許せません! これ以上私を失望させないでください!」


 三人とも震えていた。自分よりも何倍もあるような相手に立ち向かっているのだから、当然だろう。だが、誰一人として逃げようとしなかった。

 彼女たちのその優しさが、強さが……嬉しかった。

 胸も中が温かいもので満ちる。リオノーラは胸元に手を当てた。


(もし、記憶が失ったままだったとしても、彼女たちとなら……ずっと一緒にいたいですわ)


 リオノーラは大妖精を見上げる。腰に手を当てると、宣言するように口にした。


「私は妖精に頼りませんわ! 施しも受けないし、自分の力で解決してみせますわ!」


 その言葉にほかの三人もうなずく。きっとリオノーラと同じ気持ちなのだろう。だから、リオノーラは前を向いていられた。これから先に何があっても……自分の力で解決する。そう決意した。

 大妖精は大きく目を開く。そして、納得したようにうなずいた。


「……なるほど、なるほ。頼らないし、施しも受けないか。……じゃあ、君の一番嫌がることをしてあげよう」


 大妖精がこちらに手のひらを向ける。


「リオノーラ!」


 みんながリオノーラを守るように覆いかぶさった。だが、大妖精の魔力が強いのか、全員、リオノーラから遠ざけられる。


「きゃあっ!」


 三人は地面に倒れた。彼女たちの方に駆けつけようとした。だが、リオノーラの体は動かない。


(どうして……みんなを助けたいのに!)


 自分の無力さを呪った。もし、自分に力があったら、みんなを助けられただろう。妖精の魔法。対抗できるとしたら、妖精の魔法しかない。


(……けれど、私は自分の力で何とかしてみせますわ!)


 リオノーラは動かない体を無理やり動かす。右足を動かし、左足を動かし……三人の前に立った。


「私が三人を助けますわ!」


 大妖精がニィと笑う。


「相変わらず……頑固な人間だ」


 瞬間、眩しい光が放たれた。

 思わず、その眩しさに目を閉じる。体を強張らせたが……体に温かいものが満ちた。ふわりと浮かんだように体が軽くなる。まるで枷が外されたようだった。


(これは……大妖精の魔法?)


 眩しい光がなくなり、リオノーラはゆっくりと目を開いた。


「……あれ」


 気づけば、学園の大妖精の像の前に立っていた。周りにはクローディアたちもいる。


「みんな、大丈夫ですか……?」


 そう口にした瞬間、わずかな違和感を覚えた。口を押さえて、三人のことを見る。


「リオノーラ。どうしましたか?」


 クローディアが心配そうな面持ちでこちらを見ていた。リオノーラはゆっくりと口を開いた。


「……とても不思議な気持ちですわ。……大切な思い出があるというのは、こういうことですのね」


 その言葉に全員が息を飲む。


「リオノーラ、もしかして……」

「あります。……みんなとの記憶が、あります」


 クローディアたちと出会ったときのこと。クローディアの恋の話、シャノンの騎士への思いとかわいいことへのこだわり。そしてフェリーナを含んでみんなと食事をしたときの楽しさ。

 全部が、流れ込むように思い出されていく。

 思わず、涙が零れた。それを見て、クローディアたちの目元にも涙が浮かぶ。


「リオノーラ、本当!?」


 シャノンがリオノーラの胸に飛び込んできた。顔を覗き込むようにして何度も聞く。


「本当に、本当? 記憶が戻ったってこと?」

「ええ。……記憶が戻ったみたいですわ」


 フェリーナが口元を押さえて涙を零した。クローディアは涙を隠そうとハンカチで目元を押さえている。


「どうしてぇ!? どうして記憶が戻ったの!?」

「私にもわからないんですの。どうして、そんなこと……」


 その瞬間、思い出す。


 ……大妖精は言っていた。リオノーラの一番嫌がることをすると。それなのに記憶を戻すということは……。


「……もしかして」


 あることが思い当たり、涙が引っ込んだ。シャノンの肩を押し、離れさせる。


「リオノーラ……?」


 シャノンが不思議そうにこちらを見ていた。だが、リオノーラはそれどころじゃなかった。


「……受けてしまいましたわ」

「え?」

「大妖精の! 施しを受けてしまいましたわ!!」


 大妖精に向かって言ったはずだ。妖精に頼らないし、施しも受けないと。だから大妖精は施しを与えた。リオノーラへの嫌がらせのために。


「許せませんわ! 何ということなんでしょう!」

「えっと。でも、記憶が戻ったのはいいことでしょう?」


 怒り狂うリオノーラに対し、クローディアは戸惑った様子でそう言う。だが、そういう話ではない。


「記憶が戻ったことは嬉しいですわ! けれど! そうじゃないんです! 嬉しいと思うことすら! 相手の思い通りな気がして!」


 このまま喜んでしまえば、妖精を頼らないと宣言したリオノーラが妖精を頼ることを肯定することになる。一方的に与えられたものでも、受け取ったと見なされるだろう。


「でも、対価は奪われてないんだし……」


 シャノンの言葉に、リオノーラは全力で首を横に振る。


「奪われましたわ! 私の誇りを! 汚されたんです!」


 両手で顔を覆って泣き出すリオノーラの肩にフェリーナは手を乗せる。


「妖精は悪いだけの存在じゃないですよ。だから、全部良い方向に行ったのですから、素直に受け取って……」

「私は良くありませんわ~!!」


 リオノーラ以外の全員がよくわからないという表情をしていた。怒っているのはリオノーラだけだった。


 リオノーラは大妖精の像を睨みつける。


「本当に、あなたたちのことなんて、大っ嫌い!!」


 リオノーラの言葉を受けても、大妖精の像は薄ら笑いを浮かべていた。


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