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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第31話 リオノーラの過去

 放課後、誰もいなくなった教室で、四人は残った。

 フェリーナが少し不安そうな面持ちでリオノーラたちを見ている。


「それで、話って何ですの?」


 リオノーラが問いかけると、フェリーナは意を決して顔を上げた。


「……リオノーラさんの記憶を取り戻したいと思っていて。それで、考えたんです。大妖精の魔法は大妖精にしか解けない。なら、もう一度泉の大妖精にアプローチしてみたらどうかなって……」


 クローディアとシャノンは視線を下げる。きっと、二人も一度は考えたのだろう。その様子を見てから、リオノーラはゆっくり首を振った。


「……それはだめですわ」

「どうしてですか!?」

「また新しい対価を奪われる可能性があるからですわ」

「でも、そうでもしなきゃ記憶は戻らないかもしれないんですよ!」

「そのためにもっと大きな対価が……取り返しのつかないものが奪われたらどうするんですの?」

「……私から対価を奪えば……」

「そんなこと言わないでくださいませ、フェリーナ。あなたが犠牲になる必要はないですわ」


 フェリーナは眉を寄せて顔を下げる。納得はできていないようだった。きっと、彼女には罪の意識があるのだろう。自分が巻き込んだから、リオノーラの記憶がなくなった。彼女なりの贖罪をしたいのだろう。


「私は妖精に頼るようなことはしたくないのです。……絶対に」


 そう宣言すると、クローディアが口を開いた。


「前から思っていたけれど、どうしてリオノーラはそんなにも頑なにおまじないや妖精に否定的なのですか?」

「シャノンも思ってたぁ。みんな、当たり前のようにおまじないをしているじゃない。どうして、だめなの? それにリオノーラ、おまじないに詳しかったじゃない」


 リオノーラは小さく笑う。リオノーラは確かにおまじないに詳しい。そのうえでおまじないや妖精を否定していた。……それには理由があった。

 話そうか悩んだ。きっとこの話を聞けば、彼女たちは自分に幻滅するだろう。そうすれば、どんな態度になるかわからなかった。


「リオノーラ。理由があるなら教えて欲しいです。でも、あなたがもし話したくないと思っているのなら、別にいいのですよ」


 クローディアが優しい目でこちらを見ている。


「あなたなりの考えがきっとあるのですよね」


 理由も言えず、頑なにおまじないを否定している。そんな自分にも、クローディアは優しく接してくれる。……だから、ちゃんと話したいと思った。


「……私は昔、おまじないや妖精がすごく好きでしたの。自分の願い事を叶えてくれる特別な存在。願い事を叶えてくれる確率は高くはなかったけれど、叶えてくれたときはすごく嬉しかったですわ」


 キラキラした生活に憧れていた。いろんなことに夢見ていた。だから、少しでも理想に近づきたいと思い、いろんなおまじないをしていた。


「私には昔、婚約者がいましたの。同じ伯爵家で、田舎にある領地の後継者の人。……私はその人と婚約するのが嫌でした」


 自分より上の階級の人と婚約することが夢だった。もっとお金持ちでキラキラとした生活をしているような……そんな人と結婚したかった。


「だから、おまじないをかけました。この婚約が破断になりますようにって。その願い事は叶った。……相手の子息が不幸に見舞われるようになりましたの」


 リオノーラは目を閉じる。今でもそのときのことはよく覚えていた。


「私と関係することだけ、悪いことが起きたのです。最初は小さなことでしたが、だんだん大きくなっていって……。私もお願い事をなかったことにしたいって妖精にお願いしましたわ。でも、叶わなかった。……最終的にはうちの家に遊びに来る予定だった彼の馬車が崖から落ちた」


 話を聞いていた三人は息を飲む。顔を青くしながら、クローディアが聞いた。


「その人は……?」

「奇跡的に一命をとりとめましたわ。でも、もううちの家とは関わらないって……婚約も解消されましたの」


 望み通り、婚約はなかったことになった。おまじないによって願い事が叶った。……でも、それがよかったとはどうしても思えなかった。


「相手を傷つけたいと思っていたわけじゃありませんでした。怪我をさせるつもりだってなかった……。でも、妖精たちにはそんなことはわからない。彼らはただ願い事を叶えただけ。……だから、私は妖精に頼るのをやめましたの」


 妖精は優しい存在じゃない。都合のいい道具でもない。意志を持ち、自分で判断し、行動する。おまじないによって願い事を叶えるのも気まぐれだ。人間と仲良くしたいからとか、役に立ちたいからとか、そんな理由で願いを叶えているわけではない。……ただ、甘いものをくれるから、願いを叶えているだけだ。


「……妖精が、そんなことを……」


 フェリーナが顔を真っ青にしながら絶句する。彼女は妖精とともに暮らしてきた。彼女にとって妖精は自分に優しくしてくれるお友達みたいな存在だった。だが、人間と妖精は種族が違う。絶対に分かり合えるとは限らない。


「それでリオノーラはおまじないに否定的だったのですね。……その話を聞いたら、納得です」

「でも、そうしたら、リオノーラの記憶はずっと戻らないことになるよぉ? それでもいいの?」


 シャノンの言葉にリオノーラは微笑んだ。


「記憶がなくても、あなたたちは私と仲良くしてくれる。……それだけで十分ですわ」


 リオノーラはそう言うと、立ち上がった。荷物持って、三人に向き合う。


「遅くなる前に、帰りましょう? 解決しないことを考えたって、どうしようもありませんわ」


 三人は顔を見合わせる。納得しない様子を見せながらも、帰る準備をしてくれた。





 教室を出て、廊下を歩く。四人とも、何も言わずに歩いていた。

 校舎を出ると、泉の大妖精の像が立っていた。誰も、何も言わずその像を見て足を止めた。まだ、大妖精に頼ることに未練を残しているのだろう。だけど、それはリオノーラが許さなかった。

 像を睨みながら、宣言するように口にする。


「……絶対に、妖精の力に頼らない」


 その瞬間、視界が歪んだ。


「……え」


 体が勝手に動き出す。ゆっくりと足が動き出した。

 何が起こったのかわからなかった。見れば、ほかの三人も歩きはじめている。


 意識は曖昧だった。

 何回か階段を昇ったり下りたりした。渡り廊下を通った。裏庭も通った。気づけば、また大妖精の像の前に立っていた。


「…………」


 朦朧とした意識の中、みんなが呟いた。


「泉の大妖精のもとへ、我来たり」


 眩い光が差し、目の前が真っ白になった。


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