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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第29話 新しい関係

 空き教室に来ると、クローディアはリオノーラに座るよう促した。リオノーラが席に着くと、彼女は隣の席に座る。


「こうやって二人で話すのは久しぶりですね」

「そうなんですね」

「そうなんです……。リオノーラ、今日は一緒にいてみて、どうでしたか?」


 クローディアはまっすぐこちらを見ている。リオノーラは背筋を伸ばすと、今日感じたことを口にした。


「……不思議な感じでしたわ。私は親しい友達がいませんでしたから。けれども、こうやって友達に囲まれて……とても温かい気持ちになりましたわ」

「そうですか、よかった」


 クローディアは優しく目を細める。リオノーラの言葉を嬉しく思っているようだった。


「リオノーラ。今日は一緒にいてくれて嬉しかったです。シャノンのわがままを聞いてくれてありがとう。……でも、あなたは無理して私たちと一緒にいなくてもいいのですよ」


 彼女はそう言うと、視線を下げた。


「私はあなたからたくさんのものをもらいました。一緒にいる楽しさ。自分を理解してくれる心地よさ。互いに思いあえる嬉しさ。リオノーラはまっすぐだから、いつも私は助けられていました」


 クローディアの話すリオノーラの像はまるで他人の話を聞いているような気持ちになった。それは本当に自分なのだろうか。けれど、彼女は優しい目をこちらに向けてくれる。


「わがままを言ってもいいなら、あなたと一緒にいたい。でも、それは私の一方的な気持ちの押し付けに過ぎない。あなたの気持ちを無視したくない。だから、あなたが決めていいのですよ」


 クローディアはぎゅっと自分の手を握り締める。一呼吸置くと、まっすぐこちらを見た。


「私はあなたの気持ちを尊重します」


 彼女は真剣に自分の気持ちを言葉にしてくれた。自分とこうして向き合ってくれるのは、彼女の生真面目さもあるのだろう。なんとなくこのまま関係を続けていくこともできたはずなのに、リオノーラの気持ちも聞いてくれる。……それがとても嬉しかった。


「今日一日、一緒に過ごしましたけれど……正直、記憶を失くす前の自分がどんなことを思って過ごしていたかはわかりません。あなたたちをどう思っていたのか……でも、あなたたちが私にくれているものはわかりますわ」


 胸元に手を当てる。今日一日だけでもたくさんのものをもらった。


「優しさ、温かさ。信頼に愛情。私がそれを与えてもらえるほどの人間かはわかりませんけれど、それをくれるあなたたちは、私にとって特別な人だったことはわかりましたの」


 記憶を失う前の自分はどうやって彼女たちの気持ちを受け止めていたのだろう。もし、当たり前に受け止めていたのだとしたら……それはひどく羨ましく感じられた。彼女たちと対等でいられたということだからだ。


「……もう少し、一緒にいてもよろしいですか?」


 自分に何ができるかはわからない、彼女たちの望む姿になれるかもわからない。けれど、もっと知りたいと思った。


「前のように戻れるかはわかりません。でも……またあなたたちと関係を築いていきたいと思いますの」


 気持ちを素直にぶつけると、クローディアの目元に涙が浮かんだ。けれど、彼女はそれを零すことなくうなずいた。


「ええ。もちろんです。……私たちはあなたを歓迎します」




 クローディアと二人で帰ろうと歩いていると、一階でシャノンとフェリーナが立っていた。どうやら、リオノーラたちが帰るのを待っていたようだ。


「二人とも来たねぇ。じゃ、帰ろっか」


 前をクローディアとフェリーナ、後ろをリオノーラとシャノンが並んで帰った。クローディアが思い出したように後ろを振り向く。


「シャノン。明日は宿題忘れないでくださいよ?」


 クローディアの言葉にシャノンは頬を膨らませる。


「大丈夫ですよぉ! だってシャノンは、いつもはしっかりしてる子ですから!」


 シャノンはそう言って胸を張る。それを見てフェリーナがくすくすと笑った。

 四人でたわいもない話をしながら帰る。それは当たり前のように感じられて、特別のようにも感じられた。

 こんな時間がいつまでも続けばいいと思った。


(……もし記憶が戻ったら)


 彼女たちは喜んでくれるだろうか。でも、どうしたら記憶が戻るだろうか。

 泉の大妖精の魔法だ。ほかの大妖精に頼んでも魔法を解くことができるかもわからない。……だが、泉の大妖精に頼る選択肢はなかった。

 きっと記憶は戻らないだろう。そう自覚していた。

 できるなら、またこの四人で新しい関係を築いていたらいい。そう思うことしかできなかった。


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