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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第25話 鏡の中

 目を覚ましたら、階段の踊り場にいた。最初、知らない場所に来てしまったかと思ったが、目の前には先ほどの姿見がある。


「ここ……図書館に向かう階段……?」


 だが、階段の配置が違った。さきほどいた場所とは昇り下りの階段が反対に位置している。


「もしかして、鏡の中の世界でしょうか?」


 階段に備え付けられている窓から外を見た。建物の位置が反対になっていた。まるで鏡のように。


「……リオノーラさん」


 振り向けば、そこにはフェリーナが立っていた。弱々しく眉を下げ、不安そうな面持ちでこちらを見ている。


「……あなたは、本物のフェリーナ?」


 そう問いかければ、彼女は泣きそうな顔でうなずいた。


「はい。……ごめんなさい。ご迷惑をかけてしまって」


 彼女はぎゅっとスカートを握りしめる。悔しそうな顔から察するに、この状況は彼女の望んでいるものではないことがわかった。


「フェリーナ。話を聞かせてくれまして?」

「もちろんです。お話しましょう」




 階段を昇り、図書館の中に入った。出入口の場所も本棚の配置も逆転しており、見知った場所のはずなのに違和感を覚える。いつもなら誰かしら人がいるのに、誰もいなかった。

 フェリーナと向かい合って座ると、彼女はすぐに頭を下げた。


「すべて私が悪いのです。申し訳ございません」

「いったい何があったのかしら?」

「はい。はじまりは私が妖精に相談したことからです」


 その言葉に眉を寄せる。


(……妖精に相談?)


 まるで妖精と話せるみたいに聞こえた。


「私がリオノーラさんみたいに自信を持ちたいと話すと、妖精は鏡の存在を教えてくれました。なりたい自分になれる姿見があると。向かってみると、鏡の向こうにもう一人の自分が現れて、彼女が出てくると同時に私は鏡の中に閉じ込められて……」

「ちょっと待ってくださいませ。あなたの話を聞いていると、妖精と会話をしているように聞こえますわ」


 普通の人は妖精が見えない。会話もできないはずだ。それなのに、フェリーナはそれをしたような口ぶりだ。

 フェリーナは眉を下げて小さく笑う。


「……誰にも話してこなかったのですが、実は私は妖精を見ることができます」


 リオノーラは大きく目を見開く。


 妖精を見ることができる人が存在することは知っていた。妖精局に務める人たちはそういった人ばかりだ。だが、妖精を見れる人なんてそうそういない。だから、妖精局はいつも人手不足だった。


「私は幼いころから妖精と一緒に過ごしてきました。まるで友達のように……彼らのことを信じていたから、まさかこんなことをされるだなんて思ってもいなかったのです」


 そう言って彼女は視線を下げる。妖精を信じてきた彼女にとってはショックな出来事だっただろう。


「フェリーナは妖精に色々と頼りながら生きてきたのですか?」

「そうですね。シュガーをあげれば、簡単なことなら何でもしてくれました」


 友達である妖精たちはフェリーナの願いを叶えてきた。フェリーナにとって、彼らに頼ることは日常的なことだったのだから、彼らを疑うこともしなかった。


「……そう。じゃあ、もうそれをやめなさい」

「え?」


 フェリーナはよく理解できないというように首をかしげた。


「妖精はそうやって、困ってる人にいたずらをすることがありますの。いつも助けてくれるわけじゃない……あなたの友達は親切なだけじゃないですわ」


 リオノーラの言葉にフェリーナは「でも」と否定する。


「妖精たちは今までとても親切にしてくれました。たった一度のことで関係を切るだなんて……」

「でも、あなたを困らせたでしょう? わざと困らせるだなんて、それは親切じゃないですわ」


 その言葉にフェリーナは押し黙る。だが、すぐには受け入れられないようで、ずっと黙っていた。

 そんな彼女に優しい笑みを向ける。


「友達をやめろと言っているわけじゃありませんの。適切な関係を続けていけばいいですわ。けれど、常に頼るのはあなたのためにもなりません。何かを変えたいのなら、自分の力で変えていかないと」


 フェリーナはグッと手を握り締める。


「……リオノーラさんはどうしてそんなにもお強いのですか?」


 リオノーラは目を細める。


「強くありませんわ。強くありたいと思っているだけです」


 リオノーラは立ち上がると、フェリーナの前に来て、手を差し出す。


「ここから出る方法を探しましょう、フェリーナ。これからのことを考えるのはそのあとですわ」


 フェリーナは強くうなずいて、差し出された手に自分の手を重ねる。リオノーラは彼女の手を引っ張り立ち上がらせる。二人は目の高さが合うと、ニッと笑った。


「さて。ここからどうやって出ましょうか……」

「妖精にはここから出る方法は聞いていません。ここには妖精たちもいませんし……。普通の世界とは違う異空間のようなものでしょうか」


 ひとまず図書館を出て、姿見のある階段の踊り場まで来た。

 鏡にはリオノーラとフェリーナが映っている。見たところ、普通の姿見だ。


「この鏡を通って、元の世界に戻れたらいいのだけれど……」


 だが、鏡には変化はない。諦めて、フェリーナの方を見る。


「この辺りを探索してみましょうか。何か出る手がかりがあるかもしれません」


 リオノーラとフェリーナは学園内を歩き回った。どれだけ歩いても、誰ともすれ違うこともない。動物たちの姿もなく、ただ静かに木々が風に揺れていた。


「フェリーナはここに来て、どれくらい経ちましたの?」

「……二日ほど。食堂に行けば食料がありましたので、生きていくことはできましたけれど」


 誰もいない場所で一人だったのは、とても心細かっただろう。だが、彼女は弱さを見せずに歩いている。


「妖精からこの世界について、何か聞いていまして?」


 問いにフェリーナは首を横に振る。


「いいえ、何も。なりたい自分になれるとしか聞いていません」


 手がかりは何も見つからなかった。仕方なく、姿見のある場所に戻ろうと歩きはじめる。

 時間は流れているようで、あたりは薄暗くなりはじめた。夜が近いのだろう。


「このままだったら、どうしましょうね。……二人で生きていくのでしょうか」


 フェリーナは暗い顔をする。リオノーラまで巻き込んでしまったことに申し訳なさを感じているのかもしれない。

 リオノーラは「んー」と考えると、小さく笑った。


「もし、二人で生きていかなければならなくなったら、楽しく生きる方法を考えましょう?」

「え?」

「妖精の魔法は人間ではどうにもできません。ならば、せめて前向きに考えないと。明日の宿題をしなくてもいいとか、面倒なしがらみに囚われなくていいとか……。気休めですけれどね」


 リオノーラの言葉に、フェリーナは目元に涙を浮かべる。


「……どうして、あなたはそんなにもお強いのですか」

「フェリーナがいるからですわ。……私一人では、強くあることはできませんですもの」


 一人だったら、怖くて仕方なかっただろう。だが、一人ではない。フェリーナがいる。彼女を不安な気持ちにさせたくなかった。


「それよりも、二日間も一人でいたフェリーナの方が強いですわ。……一人で耐えて、偉かったですわね」


 フェリーナは涙を流す。


「……私は強くいられたんですね」

「そーよ、そーよ! フェリーナは強くて、かっこいいですわ!」


 そう言い切ると、フェリーナは頬を緩めた。


「リオノーラさん、私は……」


 学園の鐘が鳴る。すると、どこからか地響きのようなものが聞こえてきた。


「な、何かしら?」


 足元が揺れる。座り込まないよう、何とかバランスをとると、フェリーナが遠くを指さした。


「リオノーラさん、あれ!」


 見れば、地面が崩れ落ちているのが見えた。崩れた地面は消えてしまい、その場所は何もなくなってしまう。それはこちらに迫っていた。


「フェリーナ、逃げますわよ!」


 フェリーナの手を掴んで、リオノーラは走り出す。どこに向かえば安全なのかわからなかった。


(もしかしたら、あの姿見のところに行けば……!)


 踊り場にある姿見からこの世界に来た。元の世界に通じているとしたら、あの姿見しかないだろう。

 踊り場の姿見のもとまで走ってきた。姿見のある階段はまだ崩れておらず、その場にあった。


「リオノーラさん、階段も崩れはじめました!」


 フェリーナが焦った声でそう言う。

 階段と一緒に崩れ落ちてしまえば、もう元の世界に戻れるかわからない。……生きていられるかもわからなかった。

 リオノーラは祈るように鏡に両手のひらを当てた。


(私たちを元の世界に戻して……!)


 すると、そこに温度を感じた。誰かと手のひらを合わせているような感覚だ。


「え……」


 触れた手のひらから鏡の向こうの景色が変わっていく。揺らいで世界がはっきりとすると、そこにはクローディアとシャノンがいた。リオノーラはクローディアと手のひらが触れていた。


「リオノーラ!」


 クローディアの手がリオノーラの手を握る。柔らかい手のひらの感触がした。クローディアに引っ張られ、手が鏡の向こうの世界へと通り抜けていく。リオノーラはすぐにフェリーナに手を差し出した。


「フェリーナ!」


 フェリーナはすぐにその手を取った。鏡をすり抜け、その向こうの世界へと脱出することができた。


「リオノーラ、フェリーナ! 無事でよかった!」


 クローディアが泣きそうな顔でこちらを見ていた。シャノンは目をうるうるさせるとリオノーラに抱きついた。


「助かって良かったよぉ~!」


 フェリーナは二人に向かって何度も頭を下げる。


「助けてくださりありがとうございます!」

「あなたも大変でしたね」


 クローディアはフェリーナの肩にポンと手を置く。

 リオノーラはその様子を見て、目を瞬かせていた。


「リオノーラ、どうしたの?」


 シャノンが顔を覗き込んできた。声をかけられて、リオノーラはハッとする。


「いえ……助けてくださりありがとうございます」


 リオノーラは二人に向かって頭を下げる。そして、問いかけた。


「あなたたちのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


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― 新着の感想 ―
これはもし王子が妖精に頼っていたら。婚約は出来てもクローディアへの愛情が対価になって大惨事さんになってたやつですね 妖精?に閉じ込められたのに(私たちを元の世界に戻して……!)が願い判定されて対価持っ…
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