第24話 階段の踊り場にある大きな鏡
「階段の踊り場にある大きな鏡ですか? その噂は聞いたことがあります」
次の日、リオノーラは情報を集めるために、クローディアとシャノンに噂話をした。クローディアはその話に聞き覚えがあるようで、知っていることを教えてくれる。
「常に置いてあるわけではなく、たまに姿を現すと言われている姿見です。もしくは実際には常に置いてあるけど、必要としていない人はそれを認識しないとも言われています。……場所まではわかりませんが」
「でも、階段の踊り場に普通鏡なんて置く? シャノン、見たことないなぁ」
「私も記憶にないですね……」
噂は知られているが、肝心の鏡の場所がわからなかった。あくまで噂なので、本当にあるかもわからない。
「その鏡がフェリーナさんに関わりがあると考えているんですね?」
クローディアの問いにリオノーラはうなずく。
「はい。……勘違いかもしれませんけれど」
フェリーナは一日中、様子がおかしかった。まるで別人にでもなってしまったかのようだった。
放課後、学園中を探索してみようと決意すると、クローディアとシャノンが顔を見合わせてうなずいた。
「私たちも手伝いますよ」
「シャノンたちにおまかせ~」
二人の申し出にリオノーラは顔を輝かせた。
「本当にいいんですの?」
「もちろん。生徒の身に何かが起こっているのなら、確認しなければなりませんからね」
「シャノン、またフェリーナと話したぁい!」
リオノーラは二人に両手を合わせる。
「よろしくお願いしますわ!」
放課後、二手に分かれて鏡を探すことにした。リオノーラは一人でクローディアとシャノンは一緒に行動することになった。さすがにクローディアを一人で歩かせるわけにはいかないというシャノンの主張からだ。
学園の校舎は広く、三階建てだ。階段もいくつもあるため、探すのに手間がかかる。
リオノーラは端から階段の踊り場を確認していった。
「自分で言うのもあれですけれど、本当にあるのかしら……」
クローディアが言っていたことが本当なら、鏡を必要としていないリオノーラの前には現れない可能性もある。
不安を胸に抱きながら、階段を昇ったり、降りたりしていった。
校舎の真ん中、図書館へ向かう途中の階段を昇り切ったとき、リオノーラはふと違和感を抱いた。階段を降り、踊り場に向かう。
「……ありましたわ」
そこには大きな姿見があった。鏡には自分の姿が映っている。その後ろに階段を昇ってくるクローディアとシャノンの姿が映った。
「リオノーラ。鏡は見つかりましたか?」
クローディアはすぐに鏡に気づけなかったようで、そう尋ねた。
「……はい」
リオノーラが鏡の前から退くと、二人はやっと鏡に気づいた。
「……そんなところにあったんですね」
二人は鏡を覗き込む。だが、見る限り普通の鏡だった。
「鏡の前で、どのようなおまじないをするのでしょうか」
「わかりませんわ。調べてわかることかはわかりませんけれど、ちょうど図書館の近くですし、調べてみるのはいかがでしょうか?」
「図書館で調べて、出てくるものなの?」
「泉の大妖精が関わる学園だからか、おまじないの本は豊富なのですよ」
「へぇ」
あまり図書館に行かないシャノンは意外そうな顔で図書館のある方を見た。
「そうですね。手がかりがありませんから。一度調べてみましょう」
クローディアとシャノンが図書館の方へ歩き出す。リオノーラはもう一度、鏡の方に振り返った。
「……え」
そこにはフェリーナの姿が映っていた。涙を流して、鏡を叩いている。
「フェリーナ?」
「なぁに、リオノーラ」
後ろから声がした。振り向けば、そこにはフェリーナが立っていた。鏡の中にいる彼女とは違い、勝気な表情を浮かべている。
「やだ、リオノーラ。気づいちゃったのね」
彼女はこちらによると、リオノーラの手を取った。
「……私が偽物だってこと」
フェリーナがリオノーラの手を引っ張る。その力が強くて、逃げることもできない。
「リオノーラ!」
少し離れていた二人が異変に気付き、こちらに駆け寄る。シャノンが短剣を取り出してかまえると、フェリーナが声を上げた。
「動かないで」
彼女はリオノーラを盾にする。シャノンは悔しそうに顔をゆがめた。
「フェリーナはリオノーラみたいになりたかったの。でも、うまくなれなかった。……もし本物のリオノーラを取り込めば、もう少し完成度は上がるかしら?」
フェリーナが鏡に手を伸ばす。指先が鏡の中に吸い込まれていく。指、手のひら、腕とフェリーナの姿は鏡の中に飲み込まれていく。
「リオノーラ!」
クローディアとシャノンが手を伸ばして腕を掴み、リオノーラが鏡の中に取り込まれようとしているのを阻止しようとした。だが、鏡に引き寄せられる力の方が強く、彼女たちの力ではかなわない。
リオノーラの体も鏡の中に取り込まれていく。体の一部が鏡の中に入っていくと、その部分の感覚が失われたような気がした。
「二人とも、手を放してくださいませ!」
二人も巻き込むわけにはいかない。そう思って言ったが、二人は手を放そうとしなかった。
「絶対放さない!」
リオノーラの体がどんどん取り込まれていく。クローディアが掴んでいた部分が鏡に取り込まれそうになると、クローディアの手を鏡がはじいた。
「リオノーラ!」
シャノンの手も鏡にはじかれる。二人はこちらに手を伸ばしたが、鏡の中にまで入ってこれない。
体のすべてが鏡に取り込まれると、リオノーラは意識を失った。




