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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第21話 フェリーナの話

 観察してみると、フェリーナは誰とも接していないことがわかった。今まではエイミーと一緒にいたが、彼女とは完全に距離を置いている。エイミーはといえば、新しい友達を見つけて楽しそうにしていた。


 リオノーラはじっとフェリーナを見つめていた。だからか、時折彼女と目が合った。すると、フェリーナは少し驚いた顔をして目を逸らした。偶然、目が合ったと思っていたが、それはこのあと数回続いた。どうやら、向こうもこちらを気にしているらしい。


「何を見ているのですか?」


 じっとフェリーナを観察していると、クローディアがリオノーラの視線の先を見た。そこにフェリーナがいることに気が付き、「ああ」と声を漏らす。


「フェリーナさんですね。何か気づいたことはありますか?」

「エイミーと一緒に行動しなくなったこと以外何も……」

「そうですか。こちらも調べていますが、何も情報を得られていません。……どういった方なんでしょうね」


 クローディアが調べても、フェリーナの情報はあまり出て来ないらしい。彼女は普通の人が知らないことを知っていた。それをリオノーラに伝えてくれたのだ。


「私、少しフェリーナと接触してみますわ」




 放課後、リオノーラはフェリーナに声をかけた。


「フェリーナ。よければ、またお話をしませんこと?」


 フェリーナは目を大きく開いた。戸惑うように視線を下げて、「あの……」と口を開く。


「……私も、リオノーラさんともう少しお話してみたかったです」


 フェリーナを連れて裏庭のベンチのところまで来た。ここはあまり人が寄り付かないため、話をするには打ってつけだった。

 二人でベンチに腰を下ろす。フェリーナは少し落ち着かない様子だった。だが、彼女は意を決してこちらを向いた。


「私、ずっと謝りたかったのです」


 突然の話題に首をかしげる。


「何を?」

「いつもクローディア様に注意をさせてしまって……私の勉強不足で周りに迷惑をかけていることを申し訳ないと思っていたのです」


 クローディアは生徒会の風紀を担当している。そのため、校則を破る生徒にはいろいろと注意をしてきた。その中にフェリーナもいた。


「私はあまりお金のない男爵家の育ちです。そのため、マナー講師を雇うお金がなく、忙しい両親に教わりながら育ちました。そのため、まだまだ未熟な部分も多く、クローディア様をいつも怒らせてしまって……」


 リオノーラは思わず、最後の言葉に口を出してしまった。


「ちょっと待ってくださいませ。クローディア様は怒っていませんわ」

「え?」

「あの方はお優しい方ですわ。決して感情に振り回されて行動しているのではなく、生徒たちを指導するのもお役目だからですわ。そこは勘違いしないでくださいませ」


 綺麗で大人びた顔立ちをしているため、厳しい表情をすると怖く見えてしまう。そのため、彼女のことを勘違いしている者は多い。だが、彼女は根が真面目なだけだ。誰かを罰したくて行動しているのではない。


「そのように勘違いする方が、クローディア様に失礼ですわ」


 そう言うと、フェリーナは青ざめた。


「そう、ですね。親切にしてくださった方になんて失礼なことを……」

「考えを改めてくれるならいいですの。今度、直接クローディア様にお礼を言ってくださいませ」

「……はい」


 フェリーナは真剣に受け止めてくれた。それが正直以外だった。

 図書館で見つけた『フェリーナの物語』では、クローディアはまるで悪者のように描かれていた。だから、彼女自身、クローディアのことを悪く思っているのだろうと考えていた。だが、フェリーナは彼女のことをそのように受け止めていなかった。


(……私が行動したことによって物語の内容が変わったのかしら?)


 だが、あの本をもう一度見られない以上、確かめるすべはない。自分の行動が正しかったのだと信じるしかなかった。


「そういえば、最近は一人で行動しているのですね」


 そう言うと、フェリーナは苦い顔をした。


「エイミーとは……いろいろと意見が合わないことが多くあって……一緒にいるのが辛くなってしまったのです」


 エイミーは何かとフェリーナを庇っていた。……いや、庇っているように見せて、クローディアに反発していた。そのことはリオノーラも引っ掛かっていた。


「そうなのですね。たとえば、どんな?」

「えっと……」


 フェリーナは言葉を詰まらせる。話し出すのをじっと待っていると、彼女は口を開いた。


「私が男爵家を継ぎたい……とか」


 リオノーラは目を瞬かせる。それを見て、フェリーナはぎこちなく目を逸らす。


「やはり、変ですよね。女性が領主になりたいだなんて……普通は男性が継ぐものなのに。でも、うちはまだ男児が生まれていないので、できれば私が継ぎたいのです!……親はまだ説得できていませんが」


 きっと彼女は家族を大切に思っているのだろう。だから、家族の役に立ちたいと思った。その心が素晴らしく、リオノーラは胸元で両手を組んだ。


「いいえ……とてもかっこいいですわ!」


 リオノーラの言葉にフェリーナは顔を上げた。


「え?」

「女性が家を継ぐなんて、そう簡単なことじゃないですもの。でも、それを決意したということはそれだけの覚悟をしたということ。誰にでもできることじゃありません。かっこいいですわ!」


 素直に思ったことを口にすると、フェリーナがぶわっと涙を溢れさせた。


「え、ちょっと、え、フェリーナ!?」

「ごめんなさい、突然涙が……。その、感動してしまって……」

「感動することあったかしら!?」


 リオノーラは慌ててハンカチを取り出して、フェリーナに手渡す。彼女はそれを受け取ると、涙を拭いた。


「……リオノーラさんもお優しい方ですね?」

「私が?」

「はい。こうやって気にかけてくださりますし……」

「そりゃ、目の前で泣かれたら、誰でも気にかけますわよ」

「それだけじゃなくて、入学式のときも……」

「入学式?」

「はい。入学式前に学園で迷子になった私を案内してくださいました」


 リオノーラは眉を寄せながら思い出す。そういえば、そんなこともあったかもしれない。


「そのときから、リオノーラさんは素敵な方だと思っていました。あのクローディア様とも仲良くされて。……ずっと憧れていたんです」


 フェリーナはそう言うと、こちらに手を差し出してきた。


「リオノーラさん。私、あなたと友達になってみたかったんです。……私の友達になってくれませんか?」


 別にフェリーナと友達になるのはかまわなかった。友達になることで『フェリーナの物語』と違う筋書きになることも間違いないだろう。

 だが、彼女はまだわからないことがたくさんあった。エイミーの悪事、そして泉の大妖精のもとへ行く方法を知っていたこと。気を許すにはまだ早すぎる気がした。

 リオノーラはその手を取らず、笑みを浮かべる。


「そうね、あなたのことをもう少し知ってから……そうしたら考えてあげますわ」


 そう答えると、フェリーナは嬉しそうに笑った。


「はい! よろしくお願いします!」


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