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第2話 友達じゃない

 リオノーラは田舎というにふさわしい領地で生まれ育った。

 領主の娘であるにも関わらず、きらびやかな生活をせず、田舎らしくのんびりとした家族に囲まれていた。


 だが、リオノーラはその生活に満足しなかった。


「私は貴族らしく、キラキラとした生活がしたいの!」


 そんなリオノーラが憧れたのは絵本だった。絵本の中では貴族の令嬢たちがキラキラとした生活をしていた。美しい衣装に身を包み、豪華な装飾品を身に着けている。貧乏ではないが、節約主義の家庭で生まれ育ち、流行を追いかけられないリオノーラには絵本の中でも眩しかった。


 何より憧れたのは白馬の王子様だ。貴族の頂点。一番キラキラしていた。


「私、王子様のお嫁さんになるわ! そうすれば、一生キラキラした生活ができるでしょう?」


 リオノーラは立派なレディになるために、口調を変えた。言葉が美しくなければ、美しい女性になれないと考えたからだ。

 読書をたしなむことで、都市での流行を勉強した。家の家事を手伝うことで、少しずつお小遣いを得ることができた。


 そして、学園に入学するときに、そのお金を使い切った。

 流行を追った髪型。上等な生地を使った衣類。化粧道具もそろえ、身なりを整えた。


「これで、ばっちりですわ!」


 努力の甲斐もあり、公爵令嬢のクローディアとともに行動することになった。素敵な彼女と行動すれば、きっと自分の生活もキラキラするに違いない。そして、そんな生活をしていれば、素敵な殿方に出会うことができるだろう。


(そして、いつか白馬の王子様に出会えることができれば……!)


 夢見る少女はそのためには努力を惜しまなかった。





「クローディア様、何か悩み事はありませんか?」


 リオノーラは友達がどういうものなのか、図書館で調べまくった。本の記述によれば、悩み事を打ち明け、相談できるような関係こそが友達だという。


 リオノーラは理想が高かった。令嬢たるもの、美しく上品でキラキラしていなければならない。その強いこだわりに周りはついていけなかったようで、学園に入学する前から友達がいなかった。


 図書館で見つけた『フェリーナの物語』のような出来事を起こしてはならない。そのためにはまず、クローディアたちともっと仲良くなることが大切だと考えた。


 だから、実践してみようと思った。クローディアの悩みを相談してもらい、仲を深めようと思ったのだ。


「ええっと……。リオノーラ、どうしたのですか?」


 クローディアは不思議そうに首をかしげた。リオノーラの発言の意図を探っているようだ。


「クローディア様に何かお困りごとがありましたら、相談に乗りたいと思いましたの!」


 こぶしを作って言うと、クローディアは困った顔をしてシャノンを見た。シャノンは「ん~」と人差し指を顎に当て、考えるそぶりを見せる。


「相談事があっても、リオノーラには言わないと思うよぉ」


 シャノンはニコッと笑って、そう言い放つ。


「ちょっと、シャノン……!」

「だってぇ~。実際そうでしょう? クローディア様?」


 シャノンは同意を求めるようにクローディアに目を向ける。クローディアは眉を下げながらリオノーラに向き合うと、一つ息を吐いた。


「ごめんなさいね、リオノーラ。あなたに相談することはないのですよ」


 その言葉に愕然とした。


「何一つも?」

「何一つも。……ごめんなさい」


 クローディアは申し訳なさそうに謝った。

 相談事がないわけがない。話せないのだ。つまり、相手が自分では役不足ということだ。


「……そうですの」


 がっくり、と肩を落とす。だが、すぐに背筋を伸ばした。


「また何かありましたら、ご相談してくださいませ!」


 そう元気にふるまうと、クローディアはホッと息を吐いた。


「ええ、そうさせてもらいますね」


 クローディアを困らせたいわけではない。仲良くしたいのだ。だが、今まで友達のいなかったリオノーラにはどうしたらいいのかわからない。


(何かいい方法はありませんの……?)


 そう思って、教室中に視線を巡らせる。すると、生徒の一人が小瓶に入ったシュガーを見つめていた。


 それを見て、シャノンが小さく呟いた。


「シュガーだねぇ」

「ええ。でも、シュガーは校則違反ではありませんから」


 この世界には妖精がいる。小さな妖精たちは目には見えないが、そこらじゅうにいるといわれている。


 その妖精は魔法が使える。だから、人々は妖精たちの好きな甘いものでおまじないをするのだ。そうすれば、妖精が願い事を叶えてくれるといわれている。もちろん、妖精たちは気まぐれなため、必ず叶えてくれるわけではないのだが。


 シュガーは腐らず、持ち運びができるため、一番よくおまじないに使われているものだった。


(でも、おまじないはダメですわ)


 リオノーラはすぐに首を横に振った。できるなら、妖精に頼らずにクローディアと仲良くなりたい。


(なら、どうやってクローディア様との仲を深めましょうか……)


 そんなことを考えていると、教室の外から女生徒の甲高い声が聞こえてきた。


「デイミアン殿下よ!」


 女生徒たちの視線の先には、金髪に碧眼。誰よりも上等なものを身に着け、顔立ちも上等な男子生徒。この国の第一王子デイミアンの姿があった。

 教室のほとんどの女生徒がデイミアンにくぎ付けになっている。リオノーラもその一人だった。


(王子……。美しすぎる、美しすぎますわ……!)


 尊顔から溢れ出るきらびやかなオーラに目を細めて見つめていると、デイミアンはこちらに目を向けた。優しい笑みを浮かべると、周りの令嬢たちが黄色い歓声を上げた。デイミアンはその表情のままクローディアのもとに訪れる。


「クローディア、生徒会の時間だよ。準備はできているかい?」

「ええ。準備できています。ですが、王子。あなたのような方が私のような者をわざわざ迎えにくるものではないですよ」

「君を迎えに来ただけじゃないよ。この教室の人たちに会いに来たのもあるんだから」


 デイミアンがヒラヒラと手を振る。その先にはフェリーナがいた。彼女は少し困った顔をして、ぺこりと頭を下げた。

 その光景を見ていたクローディアは小さく息を吐く。


「そうですか、わかりました。では、向かいましょうか」


 デイミアンがクローディアを伴って、教室を出ていく。その様子をリオノーラは惚けた顔で眺めていた。


 みんなの憧れる王子デイミアンと学園で最も美しい公爵令嬢クローディアは並ぶととても絵になる。二人が並んでいる姿は美しい以外の何物でもなかった。


(とても眼福ですわ~!)


 胸が躍るような気持ちで二人の様子を見ていると、シャノンがわざとらしく息を吐いた。


「リオノーラさぁ。クローディア様のおそばにいられるからって、調子乗りすぎぃ。友達でもないんだから、出しゃばっちゃだめだよ~」


 その言葉にリオノーラは目を瞬かせた。


「友達じゃない?」

「友達じゃない」

「クローディア様と私が?」

「そうよぉ」

「…………」


 理解するのに少し時間がかかった。


「じゃあ、私はクローディア様の何ですの?」

「おまけ?」

「おまけ……」


 シャノンは手鏡で前髪を直すと、にこっと笑った。


「だからね、リオノーラ。これ以上、クローディア様を困らせちゃだめだよ~」


 そう言って、シャノンは立ち上がる。


「じゃあ、シャノンは用事があるから。ばいばーい」


 ヒラヒラと手を振ると、リオノーラを一人置いてその場を立ち去った。





「どうしたらいいのかしら」


 リオノーラは学園の庭を歩いた。どうしたらクローディアと友達になれるか考えるためだ。

 学園に入学してから半年。一緒に行動できるようになったからって、距離が縮まったわけではないらしい。では、どうしたら、彼女と友達になれるだろうか。


「もっと、クローディア様のことを知るべきなのかしら?」


 まだ一緒にいるようになって少ししか経っていない。彼女について知らないこともあるかもしれない。

 リオノーラはこぶしを作る。


「そーよ、そーよ! もっとクローディア様のことを調査する必要がありますわ!」


 こぶしを空に向かって振り上げながら歩いていると、あるものが目に入った。

 学園に住まうといわれている大妖精の像だ。

 この学園の設立には大妖精が関わったとされている。そのため、この学園には大妖精の像が祀られているのだ。


 その大妖精の像を睨み上げる。

 この世界には妖精がいる。誰もが妖精に祈るようにおまじないをした。自分の願いが叶うようにと。その願いが本当に叶うかもわからないのに。

 だが、リオノーラは妖精に頼らないと決めていた。自分の力で成し遂げたいからだ。


「私は絶対にあなたたちに頼りませんわ……!」


 そう口にして、像の前で決意表明をした。


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