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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第16話 覚えておいてね

「つまり、私が失ったのは友達自体ではなく、私の友達を思う気持ちだったということね」


 グレースから聞いた話を伝えると、アラーナは納得した表情を浮かべていた。そこには悲しさや寂しさといった感情は浮かんでいない。


「まぁ、仕方ないわね」

「それで済ませていいのですか?」


 クローディアの問いかけに、アラーナは肩をすくめる。


「だって、なくなってしまったものも離れてしまった友達も、もう戻ってこないもの」


 彼女は本当にそう思っているようだった。そもそも、とっくに仕方ないものとして区切りをつけていたのかもしれない。

 アラーナは目を閉じる。そして目を開いたときにはもう吹っ切れた顔をしていた。


「話を聞いてきていただき、ありがとうございます。泉の大妖精の話を聞きたかったのですよね。お話いたします」


 彼女はにっこり微笑んで、何事もなかったように背筋を伸ばした。


「泉の大妖精はご存じのとおり、学園の創設に関わったとされています。ほかの妖精たちとは違い、絶大な魔力を持っているため、どんな願いでも叶えてもらえるとされています。だけど、対価を奪われてしまう……。正直、私も大妖精のことはよく覚えていません。覚えているのは、大妖精のもとに行くとき……学園のどこかを歩いたことです」

「学園のどこを歩いたのですか?」

「よく覚えていないのですけど……何回か階段を昇って降りて……裏庭を歩いて……大妖精の像の前まで歩いてきたことは覚えています。そして、目の前が真っ白になって、気づいたら泉の前にいました」


 アラーナの話す内容は確かに曖昧なものだった。妖精局がなかなか泉の大妖精の情報を掴めなかった理由がよくわかる。


「泉の大妖精はどのようなお姿でしたか?」

「大きかったのは覚えています。私たちの何倍もの大きさです。あと、私たちが着ている服とは少し違いましたね。性別はどちらか判別つきませんでした。……もっとも、妖精に性別があるのかわかりませんが」

「大妖精とはどのような話をしましたか?」

「それが……よく覚えていないのです。対価を取られたという認識があったので、その話はしたのかもしれません」

「なるほど……」


 アラーナが言っていた通り、彼女はあまり多くのことは知らなかった。収穫は対価を取られることと、泉の大妖精のもとへ向かうにはどこかを歩かなければならないことだけだった。もしかしたら、この情報はすでに妖精局も知っていることかもしれない。


「いろいろと教えてくださり、ありがとうございます」


 クローディアが代表して、アラーナにお礼を言う。


「いいえ。こちらこそ、話を聞いてきてくれてありがとう」


 アラーナはそう言って笑った。





 得られた情報は想定していたよりも少なかった。もともと多くは知らないと言っていたから、仕方がないだろう。

 これからも調査を続けなければと思いながら歩いていると、エルウッドが前を通り過ぎた。


「エルウッド!」


 エルウッドはこちらを見ると、少し驚いた表情を浮かべた。


「どうしましたの?」

「いや、何でもないよ。……それでどうしたの?」

「泉の大妖精についての情報を少し得ましたの。でも、本当に少しで曖昧ですし、妖精局がすでに知っていることかもしれないので、デイミアン殿下に報告してもいいか悩んでいまして……」


 エルウッドは腕を組んで、悩む素振りをすると、うなずいた。


「報告してほしい。デイミアン様は小さな情報でも欲している。それに、妖精局が知っていても、王族が知らないことはあるからね」

「わかりましたわ。それと、クローディア様たちも一緒に行っていいかしら?」

「かまわないけど、どうして?」

「調べるときに手伝っていただきましたの」


 そう言うと、彼はうなずく。


「わかった。一緒に来るといい」

「ありがとうございます。それでは」


 リオノーラが立ち去ろうとすると、その腕をエルウッドが掴んだ。


「どうしましたか?」

「えっと……」


 エルウッドは何かを話そうとして、視線を下げる。そして、パッと手を離した。


「いや、やっぱり何でもない」


 何でもないという顔ではなかった。リオノーラはまっすぐエルウッドを見る。


「対話することを簡単に諦めないでくださいませ。私はちゃんと聞きますから」


 エルウッドは大きく目を開いた。そして、眉を下げて笑う。


「対話を諦めないで、か。たしかに諦めようとしてた」


 彼はまっすぐこちらを見た。その瞳は熱を帯びているように見えた。


「……君って、そういう子なんだね。……やっぱり気になるよ」

「……はい?」


 先ほどと違い、エルウッドはリオノーラの手を優しく取った。


「前も言ったけど、俺はリオノーラが気になってる。だから、君がデイミアン様を気にかけると……なんというか嫉妬してしまうんだ」

「……嫉妬」

「前に、デイミアン様ではなく、俺にしないかって言ったことがあっただろう?……あれは冗談じゃなく、本気のつもりだったんだ」


 彼は繋がれた手を握りながら言葉を続ける。


「君はデイミアン様に惹かれていた。でも、自分が失恋するとわかりながら、デイミアン様とクローディアの関係を取り持った。そして、涙を流しながらそれを喜んだ。……とても心の美しい子だと思ったんだ」


 彼は優しい表情でこちらを見ている。蕩けるような瞳に、リオノーラは繋がっている手を引き抜いて、逃げてしまいたい気持ちになる。


「君は自分より格上の貴族の家の子息にしか興味ないかもしれないけど、俺のことも興味を持ってほしいな」

「想定してなかった内容に驚いてるんですけれど……」


 エルウッドの手は熱かった。見れば、彼の耳は真っ赤になっている。


「……照れているんですの?」

「うっさい」


 エルウッドの顔は本格的に赤くなった。

 リオノーラはくすりと笑い、彼の手にもう片方の手を重ねる。


「もちろん、エルウッドのことも気にかけてますわ」

「本当?」

「ええ。友達として、ですけれど」

「……友達として、ね」


 エルウッドは肩を揺らして笑う。


「早くリオノーラに特別な目で見てほしいよ」

「あら、あなたが侯爵家以上の家を継ぐことになったら、考えてもいいですわ」


 軽口に軽口で返すと、エルウッドは突然真剣な目でこちらを見る。


「……なるほど」

「な、何ですの……」

「ううん、何でもないよ」


 彼はにこりと笑うと、するりと手を引き抜いた。


「リオノーラ、その言葉覚えておいてね」

「どの言葉ですか?」


 エルウッドはその問いに答えないまま、にこにこと微笑んでいた。


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