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悪役令嬢のモブな取り巻きは同調力で幸せを掴みます  作者: 虎依カケル


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第15話 対価

「お二人は学園に住まう泉の大妖精についての噂は知っていまして?」


 お昼休み、リオノーラはクローディアとシャノンに問いかけた。


「どうしたのですか、いきなり」

「いえ、デイミアン殿下が調べていたので……私も力になれたらと思ったのです」


 泉の大妖精については学園の者はみんな知っていることだ。学園の創設に関わっていることから、授業でも取り扱われている。そのため、泉の大妖精についての噂はいろんなところで飛び交っている。


「どうしてデイミアン様が大妖精について調べていらっしゃるのですか?」

「王族として、その情報を欲しがっているとのことです。妖精局では妖精に交渉して願いを叶えてもらっていますが、小さな妖精では叶えられる願いも小さい。大妖精ならば、どのような願いも叶えられると言われているので、その力を欲しているのだと思いますわ」

「そうなのですね……」


 それを聞いて、クローディアは何か考え込むように腕を組んだ。

 シャノンは「んー」と言いながら、知っていることを話してくれる。 


「泉の大妖精は何でも願いを叶えてくれるとは聞いたことがあるけど、泉に行けた人は数年に一人くらいだと聞いたことがあるよ」

「大妖精に誘われて泉に向かった人たちには、大妖精と会った記憶がぼんやりとしか残ってないとも言われていますね」


 出てくる情報は知っていることばかりだった。やはり、学園の生徒たちは似たような知識しか持っていないのかもしれない。

 どうしたものかと考えていると、クローディアが「そうですね……」と顎に指を当てた。


「ここはやはり、実際に泉の大妖精と会った人の話を聞くのが良いのかもしれません」


 その言葉に目を瞬かせる。


「クローディア様、大妖精に会った人のことをご存じですの?」

「はい。今の学園の生徒会長が大妖精に願いを叶えてもらったのです」


 その情報は知らなかった。シャノンも知らなかったようで、驚きの表情を浮かべる。


「その生徒会長はどのような方なんですか?」

「しっかりされた方よ。伯爵家の令嬢でありながら、学園の生徒会長を務めていらっしゃいます。噂を聞く限り、生徒会長になったことが大妖精に叶えてもらった願いではないかと」

「生徒会長にその話を直接聞いたことは?」


 その問いにクローディアは首を振る。


「私が直接聞いたわけではないのです。でも、ある人が聞いたとき、彼女は決してそのことについて語ろうとしなかったようですよ。理由はわからないけれど……」


 大妖精に願い事を叶えてもらうのは大事だ。誰だってその情報を独占したがるだろう。多くの人がその情報を得て、大妖精に願いを叶えてもらうことになれば、自分に対して不利益なことを願われてしまうかもしれない。


「ですので、直接話を聞きに行って、教えてくれるとも限りません。それでもよろしければ、生徒会長に会えるよう約束を取りつけましょう」


 リオノーラはクローディアの言葉にうなずく。


「もしダメだったら、そのときですわ。一度会わせていただけますか?」

「わかりました。今日の放課後、彼女に話を伝えます。明日、直接話を聞きに行きましょう」





 クローディアに生徒会長と会う約束を取り付けてもらい、次の日の放課後、リオノーラたちは生徒会室に向かった。

 生徒会室は教室棟とは離れた場所にある。足を踏み入れてみると、部屋はとても広く、置かれている調度品も上等なものばかりだった。

 生徒会の活動はその日はないようで、部屋には生徒会長しかいなかった。


「クローディア様、いらっしゃい。待っていましたよ」


 藍色の長い髪を持った生徒会長はにこりと笑顔を浮かべて迎えてくれた。席に座るように促すと、お茶を用意してくれる。

 生徒会長も席に座ると、彼女は口を開いた。


「はじめまして、私の名前はアラーナ。生徒会長をしているわ」


 リオノーラとシャノンは各々自己紹介をした。それを聞いて、アラーナは本題を口にした。


「それで、今日はどんな用かしら?」

「学園に住まう泉の大妖精について、お聞きしたいのです」


 その言葉にアラーナは大きく目を開く。視線を下げると、眉を下げた。


「……ごめんなさい。私も詳しく知らないのよ」


 アラーナはカップを手に取り、お茶を一口含む。


「……泉の大妖精は確かに願いを叶えてくれる。私みたいな伯爵家の令嬢が生徒会長になれたのも大妖精のおかげ。大妖精の力がなければ、家の爵位も高くなく、女性である私が生徒会長になんてなることはできなかったでしょう」


 彼女は視線を下げると、小さく笑った。


「……だから、大妖精は私から対価を奪っていった」

「対価を……?」

「ええ。何を取られたのかはわからない。でも、それを失ったせいで、私は友達を失ったの」


 泉の大妖精が願いを叶える対価を奪っていくという話は聞いたことがなかった。たしかに、願い事を叶えてもらうのに何も起きないとは考えられなかった。

 アラーナは対価に何を取られたのかわからないと言っている。大妖精に伝えられていないのだろうか。もしかしたら、ほかの者たちは対価を奪われたこと自体、自覚していないのかもしれない。


「……でも、そうね。私に遠回しにこのことを聞いてくる人はたくさんいたけれど、あなたたちほど直接聞いてきた人たちはいなかったわ。だから、私の頼みを聞いてくれたら、知っていることをすべて話します」


 アラーナはそう言って、こちらを見た。


「頼みとは何ですか?」

「私が失ったものを調べて欲しいんです」


 アラーナはカップの口を指先でなぞる。


「友達は突然、私のもとから去った。『アラーナ、変わったね』それだけを言って。……理由は何も教えてくれなかった」


 アラーナの瞳には後悔や寂しさといった感情は浮かんでいなかった。ただ純粋に気になるのだろう。


「私が聞いたところで、何も教えてくれないことはわかってる。だから、あなたたちに聞いてきて欲しいのです」


その言葉にクローディアがうなずいた。


「わかりました。その友達とは誰でしょうか?」


 アラーナに教えてもらい、次の日の放課後、彼女のいう友達のもとに向かった。

 上級生の教室はリオノーラたちの教室の上の階にある。そのため、階段を昇らなければ、通ることもない。だが、リオノーラたちはクローディアの風紀委員の仕事に付き合うために、たまに上級生の教室の前の廊下を歩いている。だが、頻度は多くないため、クローディアたちが通ると、上級生たちは緊張した面持ちをしていた。

 クローディアを先頭にして、上級生の波をかき分けていく。クローディアが歩けば、道が開くのだから、進むのは簡単だった。


「こちらに、グレースさんはいらっしゃいますか?」


 公爵令嬢に呼ばれ、その人は戸惑いの色を見せながら姿を現した。


「私ですが……どのようなご用件で?」

「少し、用事があるのです。お時間をいただけますか?」


 彼女は動揺しながらもうなずいた。


 クローディアが空き教室を予約してくれていた。小さな教室の椅子に座り、グレースと向き合う。


「それで、どのような用事でしょうか?」


 緊張した様子のグレースに、クローディアは優しく微笑みかける。


「難しい話をしにきたのではありません。あなたの友達だったアラーナ生徒会長について、お聞きしたいのです」

「アラーナについて……?」

「はい。アラーナ生徒会長は友達を何人も失ったと言っていました。けれど、その原因がわからずにいるのです。それを私たちに聞いてきて欲しいと頼まれたのです」


 それを聞いて、グレースは皮肉そうな笑みを浮かべた。


「そう、アラーナがそんなことを……。なんというか、気にしていたのね」

「それはどういうことでしょうか?」

「あの子が失ったものを知りたいんですよね。教えて差し上げます。……あの子が失ったのは、友達を思う気持ちですよ」

「友達を思う気持ち、ですか?」

「そう。彼女はとても友達思いでした。いつも周りを気遣って、優しい言葉をかけていました。けれど、生徒会長になってから、彼女は変わってしまった」


 グレースは悔しいのか、顔を歪める。それは大切な友達を失った悲しみの表情だった。


「変わったというのは、どのようにですか?」

「無神経なことを言うようになったのです。恋人に振られたと悲しむ子がいたとき、普段の彼女なら、優しい言葉をかけて、相手を前向きにさせていた。けれど、彼女はなんて言ったと思いますか?」


 グレースは眉を寄せて目を閉じる。


「『でも、婚約者が決まったら、別れる運命だったのよ? 気にしても仕方ないじゃない』と。そう言ったのです」


 学園では、結婚にはつながらずとも、学生である間だけ恋人同士になる人たちはいる。婚約者が決まれば、関係はなくなってしまう。それをわかっていて、みんな束の間の愛をはぐくむのだ。

 だが、わかっていても、わざわざそのことを口にしたりしない。


「それは……厳しい言葉ですね」

「今までの彼女ならそんなこと言わなかった。伯爵家の令嬢が生徒会長になんてなったから、調子に乗っているのだとみんな思いました。だから、離れていったのです」


 グレースは視線を下げた。彼女の表情が見えない。その瞳にどんな感情を映しているのかわからなくなった。


「アラーナ生徒会長は調子に乗ったわけじゃありませんよ」


 リオノーラが静かに口を開く。グレースが視線を上げた。


「どういう意味?」

「大妖精に願いを叶えてもらう代わりに、対価として何かを奪われたそうです。……きっと、それが友達を思う気持ちだったのかもしれません」


 グレースは何か言いたそうに口を開こうとした。だが、その言葉を飲み込み、小さく笑う。


「そうだとしても、私たちにはもう関係のないこと……彼女を遠ざけてしまったのだから」


 グレースは目を閉じる。懐かしい記憶を思い出すように。


「あの子のことは嫌いじゃない。でも、一緒にいられなくなった。もう関わらない。もう決めたことだから」


 グレースは立ち上がり、頭を下げるとその場から立ち去った。


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