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小説の更新情報は下記の傘花SNSよりご確認いただけます(-_-)


Instagram:@kasahana_tosho

 「今は2階にいるんじゃないか?先に東達が聞き取りを始めているはずだ」


 審馬の問いに四方が答える。


 道草を食っている間に東由依あずまゆい巡査長に先を越されたか。とにかく手柄を立てて出世をしていこうと意気込んでいる彼女は、その辺の刑事とは気合が違う。けれどその気合が空回りしてよく間違った方向へと進んでいくせいで、とんでもない推理を叩き出す事があるから問題だ。


 何より一番の問題は、誰もそんな彼女を止めないことだ。やたら出しゃばって手柄を立てようとする若い女刑事。そんな人間は、周りからただやっかまれていく。


 審馬はちらりと2階を覗き込みながら階段を上ろうとする。けれどそれを四方に肩を掴まれ阻止される。


「その酒臭い状態で参考人に会うな。お前は地域課の奴からもう1回詳しく話を聞いてこい」


 四方は審馬の肩を軽く叩く。彼はそのまま審馬を押し退けるようにして階段を上っていく。


 やはり上司面をしていて鬱陶しい男だ。 


 腹立たしさに近くにあった傘立てを蹴り上げようとして、けれどそんな審馬の感情を知ってか知らずか、四方がこちらに振り返って冷たい視線で睨みつけてくるせいで、結局舌打ちだけをして審馬は外へ出る。


 家から出たすぐ近くの庭に、見知った顔が2人で話しているのが目に止まる。


「地域課の誰が貧乏くじを引いたのかと思ったら、高橋、お前だったのか」


 審馬が声を掛けると、まだ青臭さの残る若い男2人がこちらの方へと振り返る。


「審馬さん。本当、貧乏くじも貧乏くじですよ。3人ですよ、3人。しかも事件性ありときた。もう昼間っからキツいのなんのって…」


 飄々と語る高橋爽大たかはしそうだい巡査長の横で、もう1人の男がえずくような声を漏らす。


「ちょっと新人君には刺激が強すぎたみたいですね」

「お前も新人みたいなもんだろ、高橋」

「俺はある程度経験を積んでますから。でも、正直今回はキツかったですけどね」

「遺体、そんなに酷いのか」

「いや、どちらかと言うと綺麗でしたけどね。でも3人のご遺体を一気に見ることってあんまりないじゃないですか。それに何か、あの女が気色悪いというか気味が悪くて」


 高橋が菜穂子とともに自宅にたどり着いた後の状況について話し始める。


 自宅に着いて、高橋は遺体を見せて欲しいと菜穂子に尋ねた。菜穂子はそれについて抵抗することなく、「こちらです」と彼らを2階の部屋へと案内する。


「別に隠そうだとか隙をついて逃げてやろうとか、そういう雰囲気は全くなかったんですよね。何だろう。それが当たり前で、自分の義務、みたいな」


 事件性など本当はなくて、家族が亡くなった後、菜穂子が救急車や警察に連絡するという考えに至ることができず、自分で手続きをするにはどうしたら良いのかと本気で考えたという可能性すら頭を過る。


 けれどそんなものはすぐに幻想だったと気付く。


 2階のいくつもある部屋の一番奥。その扉を開けてすぐに、高橋は異様な寒さを感じたのだと言う。季節的には寒さの深まる真冬ではあるが、それにしても背筋が凍るような冷気が流れてきたのだと。


 菜穂子に促されるまま、高橋達は室内へと足を踏み入れる。そこで見た光景に彼らは目を疑った。


「殺風景な部屋に人が寝てるんですよ。3人。ピクリとも動かない。見た目は綺麗だけど、ひと目で死んでるってわかる」


 部屋の中心に3人の遺体が横たわっている。


 一体死後何日が経過しているのだろう。けれど、不思議と耐えきれないほどの死臭は漂っていない。彼らの身なりも驚くほど綺麗に整えられている。


 ーーーあとは火葬だけなんです。簡易的ではありますが、葬儀も個人的に済ませました。なので、死亡診断書さえいただけたら。


 高橋達の後ろに控えていた菜穂子は当然のことのようにそう言った。


 あとは火葬だけ。けれどその火葬をするには、死亡届と死亡診断書を提出した先に貰える火葬許可証が必要。火葬許可書がなければ、火葬場で遺体は燃やせない。


「個人的にやる葬儀ってなんだよ」


 高橋の語る話を頭の中で整理しながら審馬はそう言う。

 

「知りませんよ。直葬とか、そういうことなんじゃないですか」

「葬儀屋もいないのに?」

「確かに。棺にも入ってませんでしたね」


 そんな状態で、菜穂子は一体どうやって火葬場まで遺体を運ぼうとしていたのだろう。民間にも遺体搬送業者があるとは聞いたことあるが、それにしても非現実的だ。


 人が死んだら警察か医者か葬儀屋。そんなものは、義務教育で教えてもらわなくても知っている。呼べない事情があるのであれば、何故菜穂子は遺体を隠そうともしなかったのか。


 役所に警察が来た時点で、何故彼女は逃げ出さなかったのか。


 さっさと火葬してしまい、殺した遺体の証拠隠滅をしたかった。彼女は決してそんなことを考えていたわけではないのだろう。


 女はただ、正式な手続きとして火葬をしたかった。


 何だそれは。


 高橋が話を続ける。

次回投稿は6/11(水)

を予定しております。

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