第一章 【出会い3】アキラside
(アキラside)
俺のリビングのソファーに二人で腰かけている。
名前を聞いたら、「ヒナ」と言った。
連れてきたのはいいが、どうするか。
正直、困っていた。
何故かこのまま、ヒナと別れたくなくて。
でも、欲情とか、そういう感情ではなく。
服も上げたし、正直家に居てもらう理由もない。
(……居てもらう……?)
自分の不思議な言葉に驚く。
今まで、女を適当に抱いたが、寂しかったわけでもないし、女自体には興味がなかった。
しかし、何というか。
ヒナのことを知りたい、という気持ちが出てくる。
何を考えているかわからない、前を真っすぐ見ているヒナの横顔を見ながら、考える。
くぅ~
その時、小さな音が静かな部屋に鳴り響いた。お腹の音らしい。
「あ……ごめんなさい、朝から何も食べてなくて……」
ヒナがこちらに顔を向けて、恥ずかしそうに話す。
「あぁ~、俺も腹減ったな。」
基本的に自炊しない俺の家には、食料がない。
「食べにいくか」
俺が立ち上がると、下から、ヒナが困惑した目で見上げてきた。
「申し訳ないけど、外食が出来なくて……」
「大した物作れないけど、家に食材あるから、食べに来ますか」
1食分なんて、余裕で奢るくらいのお金に余裕であるが。
(まぁ、結局こんな夜道を歩いて帰らせる訳にもいかないし)
何故かそう自分を納得させて、ヒナの家に行くことになった。
この街の中でもひと際汚いアパートの2階。
ここがヒナの家らしい。
そんな外観に似つかわしくない、2個の鍵が取り付けられた鉄の扉に、鍵を差し込むヒナ。
ドアが開くと、アパートのイメージ通りの木製の所々軋んでいる廊下、奥にワンルームが見えた。
ベットと箪笥しかない簡易な部屋だったが、キレイに保たれている。
しかし、違和感があった。
唯一付いていた窓には、木が打ち付けられ、外からは見えないようになっていた。
「椅子はないので、ベッドにでも座ってて」
そういいながら、ヒナは台所と思わしき壁に仕切られたところに入って行った。
することもないので、部屋の中を観察することにした。
ベットと箪笥、そして少し大きなキャリーケースがあった。
違和感を感じ、キャリーケースを見ようと立ち上がると、手に何かが当たり、枕の下に何か固い物が入っているのがわかる。
枕を開けると、そこには、立派な単発式けん銃があった。
よく手入れをされており、間違いなく使用出来る。
銃を片手に眺めていると、
「できた」
声を掛けられて、驚いて顔を上げた。
全く気配がわからなかった。
ヒナの持っているお盆には、何かよくわからない雑草のような物を炒めた料理と、適当に野菜をぶち込んだようなスープが乗っていた。
すごくいい匂いがする。
「旨そうだな」
俺は動揺を隠しながら銃を枕の下に戻し、お盆を受け取る。
はっきり言っておかしい。
この街で、この環境で生きてきた俺が、気配を感じなかったとかありえない。
何かがおかしい。
ヒナは、もう一度台所に戻って自分の分のご飯を持ってきた。
「美味しいかは知らないけど、取り合えず、お腹は膨れる」
そういって、ヒナはスープを飲んでいる。
俺も一口スープを飲んだ。
(うまい……)
程よい塩味と野菜の旨味が丁度良く、かなり美味しい。
少しニヤニヤしてしまっていたかもしれない。
そんな俺の顔をじっと見ていたヒナは、少し微笑んでまたスープを飲み始めた。