第一章 【出会い2】アキラside
(アキラside)
2階建ての築浅の普通のマンションの前。
治安の悪いこの街では、かなり立派な建物だ。
鍵を差し込んでドアを開ける。
俺が入っていくと、少女がついてきた。
「ところで、その物騒な物を手放してくれないか?」
男の腱を切ったまま、右手に握りしめられているナイフを顎で指した。
「……」
少女は、そっと目の前の書籍棚の上にナイフを置いた。
少女と見つめあい、沈黙が訪れる
相変わらず何を考えているのかわからない表情をしているが、先ほどの冷徹さはない。
「そこの右手のドアに風呂があるから、とりあえずシャワーを浴びてこい。家具を血で汚したくない」
少女を風呂へ促す。
少し警戒する仕草が見えた。
「子供相手に何もしねぇよ。浴びてる間に適当に服用意しとくから、早く流してこい」
少女は、少し表情を和らげてから、風呂へ入って行った。
(連れてきたのはいいが、どうするか)
とりあえず、適当に引っ掛けた女供が置いていった服を漁る。
栄養失調としか思えない薄くて細い体に合う服など到底なかった。
仕方なく、自分のTシャツを用意した。女性ものは露出が多く、小さな体の少女では、恐らく着れないだろう。
風呂場に持っていき、入り口に置いておく。
恐らく浴びていた少女の動きが止まり、警戒されているのがわかる。
「着るもの置いといたから、これ着ろ」
俺がドアを閉めると、再度シャワーで洗っている気配がした。
(俺らしくない)
俺は、この治安の悪いこの街の、治安の悪い奴らの組長をしている。
別に、自分からそうなりたくて、なったわけじゃない。
なぜかそういった奴らから慕われて、そういう感じになっているだけだ。
誰が偉いわけでもない。群れているわけでもない。
そういう状態で。
今回のような出来事は日常茶飯事のこの街で、人助けなんてしない。
……しかし、少女に、何か引き付けられるものがあった。
(とりあえず、出てきたら名前を聞こう)
久々に人間に興味が沸いた。
そう思うと、少女が風呂から出てくるのが楽しみになってきた。