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04.オネエな魔王と初対面


 流石に休みなく走り続けたら私でも疲れて息切れが酷く、喉が渇いていた。そして残った体力でよたよた門に近づけば、前で警備している門番たちが剣をこちらに向けて駆け寄ってくる。

 


「何の用だ!」

「あの……私……」

「ここがどこか分かっているのか!!部外者は立ち去れ!!!」

「いや、その……」

「去れ!!これは警告だ!!」

 

 

 当たり前だが、馬車ではなく走って城までやってくる人物が怪しくないわけが無い。どうやって中に入ろうかと酸素の足りてない頭で必死に考える。ここで門前払いされたら行く宛てがないのだ。

 



 

「何をしているの」

 


 背後の気配に気づかず、突然した声にぶわりと鳥肌が立つ。私は今まで強い敵とも戦ってきたが、勝てないと即座に思い至るのは初めてだ。

 人間である私ですら感じ取れるほど、溢れ出ている魔力。

 その場にいるだけでその存在を示す威圧感。2mは軽く超えるであろう恵まれた体躯は、鍛えられて筋肉が美しく着いている。どれをとっても、気を抜けば体が震えそうになる。


 

 艶やかな闇を彷彿とする黒髪は、後ろの方が長く伸ばされている。長い睫毛に縁取られた切れ長な瞳は、ルビーのように赤く煌めいており瞳孔が細い。まるで彫刻を見ているような無機質な美しさだと思った。

 そして人と圧倒的に違うのは、額から突き出すように生えているツノだった。周りに控えている魔族よりも彼は一回りも二回りも大きいツノだった。ツノの大きさが強さの象徴だったりするのだろうかと推察する。そして頬や手のひらには鱗のような模様が浮かんでいた。



 その長身に身にまとっているのは、黒を基準としたフリル多めの服だった。マーメイドスカートのような形状で、魔族の民族衣装か何かなのだろうか。何の毛皮かは分からないが、ふわふわとしたものも首元に飾っている。



 言われずとも、彼が魔王だと一目でわかってしまった。



「はっ、魔王陛下。怪しげな人物が城へ近づいていたため追い払おうと……」

「そう。ねぇ貴方、人間よね? 何者かしら」

 


「あの……こういう、者です……」


 

 息切れで上手に話せない私は、そっと首から下げていた王家の紋章を取り出した。

 紋章を見て、私を冷たい瞳で頭の先からつま先まで静かに眺めた後、魔王様がゆっくりと口を開いた。



「……ルネディアの使者かしら。それとも使用人?」

「いえ……」


 

 私が想像していたより大分高い声に驚きつつも、それを悟らせぬよう私は膝を着き頭を深く下げたまま返答する。

 長距離を走って暑くなってコートとマフラーを途中で鞄にしまい込んでしまったため、確かにボロボロの衣装しか身にまとっていなかったのでまさか婚姻に来た隣国の姫だとは思わないだろう。

 しかし王族としてのクソ長い口上を言える元気がなかった。しかし不敬は働けぬと最低限の言葉しか返せない。

 


 

「具合でも悪いのかしら? とりあえずここは寒いから中に通しなさい」

「はっ」


 

 彼がそう告げると門番が返事をして扉を開けてくれた。

 そして私は応接室へと通された。周りには魔王様に危害を加えるのを阻止するためか、護衛のような人がずらりと並んでいた。広い部屋とはいえ使用人たちも待機しているので人口密度が高い。

 時間が経ち、お茶を出してもらってやっと呼吸も落ち着いてきた。

 


「それで、要件は何かしら?」


 


 魔王様、否、部屋中から鋭い視線が突き刺さる。汗だくで城の前にいた人間を警戒するのも無理はないだろう。落ち着いてくるとそんな怪しい人物をここまで入れてくれただけで有難いなと思う。


 

 私は一歩前に出て、カーテシーを行う。

 残念ながらお母様から習った綺麗なカーテシーでも、薄っぺらいボロボロのドレスを身にまとっていれは見栄えはしないが。

 

 

「僭越ながらルネディア王国の第八王女、イザベラと申します。この度は私一人で嫁ぎに参りました」

「……は? どういうこと?」

「私はあくまでも政略結婚の駒ということで、私が気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにせよという意味です。

 魔力陛下が愛人や側室を何人作ろうと、白い結婚でも私は構いません。ただ帰る場所がないのでここに置いてくれると助かるのですが……」



 そこまで私が告げれば、部屋の中に静寂が訪れる。

 いきなり来た人間を受け入れられないよな、と内心頷いた。

 


「お願いします」

 

 

 謝罪の意味も込めて今度は深く深くお辞儀をした。それでやっと周りからざわめきの声がしたが、肝心の魔王様の返事がない。

 私は床で土下座でもしようかと膝をつけば、困惑の声が響いた。

 

 

「ちょっと、意味わかんないんですけど!? アタシ、国交回復のつもりでそっちの国王に手紙は送ったけど、勘違いしすぎじゃないかしら」

「……ど、どういうことでしょう。国王に今すぐ嫁ぐよう言われて参じたのですが……」

 


 どうやら行き違いがあるようだ。しかし私は今日嫁げと言われて来ただけだから、それ以上の情報もなく狼狽えることしか出来ない。

 私はハッとして昨日老いぼれ執事から渡されていた国王の手紙を取りだした。国印が押されているので信じて貰えると思う。


 

 それを魔王様に献上すれば、奪い取るように彼は手紙を読んだ。

 そして分かりやすく頭を抱えた。


 

「人間の思考ってどうなってる訳? それに嫁入りと勘違いしたなら、それはそれでもっと国同士の話し合いかなんかあるでしょ!!?」


 

 それはそうだなと心の中で頷く。魔王様の方がうちの国王よりもよっぽどまともな倫理観しているなと頭の片隅で冷静に思う。

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