01.男勝りなイザベラ姫
私の朝は剣の素振りから始まる。
日が昇ると同時に目を覚まして、冷たい水で顔を洗い素早く動きやすい服へ着替える。
私に与えられている離宮とは名ばかりの、平民の家屋のようなボロ小屋に使用人はいない。これは昔からの事なので、17歳になった今では自分の身の回りのことは一人で全部出来るようになってしまった。
過去たまにやってきた使用人は服に針を仕込んだり、腐ったパンやスープを平然と渡してくるため、来ないでくれた方が気が楽だった。
それにこうやって朝から稽古を始めても咎める人がいないのはむしろ都合がいいとも言える。
そうして一時間ほど軽く身体を動かして、身体が芯から温まったのを感じる。汗を拭い、水で濡らした布で体を清めて一息をつく。
「自分の身は自分で守れるほど強くあれ」
というのが亡き母の教えだった。
このルネディア王国の王族は一夫多妻制である。
現在は正妃、側室が三人、愛妾が四人となっている。今代は好色な国王なため、側室や愛妾が歴代の王達と比べても多い方らしい。それだけ居れば、離宮でのドロドロとした醜い女の争いが起こるのは必然であろう。
病死という名の暗殺で人が減ったりもするし、愛妾であれば一年程国王のお目通りが無く飽きられたらお役御免になって出て行ったりもする。その為側室や愛妾の顔触れはたまに変わるものだ。
そして現在王家の血を引く子供たちは王子が五人、姫が八人いる。
私はその一番下の姫である。とはいえ半分だけ血の繋がりのある兄姉達の大半は結婚して王宮から出ていっている。
そのため最近は私に対する嫌がらせが減っていて万々歳だ。
ただし正妃腹の第二王子と、国王に気にいられている側室の第一王子が王太子争いを長年繰り広げているが、末席の私にはあまり関係の無いこと。
私は私で今日を生き抜くことで忙しいのだ。
まぁ出来たら第二王子の方が王位に着いて欲しいものだが、余計な口は挟むまい。
何を隠そう第一王子は典型的な弱い者イジメが大好きな性格をしているので、彼が国の頂点に立った際の恐怖は底知れない。幼少期の私は髪を引っ張られたり木の棒で叩かれたりと何度も被害にあっている。
それでも大きくなれば多少なりとも改善されるかと思っていたが、使用人達の噂を聞く限り悪化の一途を辿っているとしか言えない。
王家にはそんな終わった性格の人間が沢山いる。だからお母様はそのように教えを説いたのだろう。
私のお母様は見た目こそ儚いが、気性の激しい強い人だった。
これからは女性も働く時代だと考えたお母様は、努力を重ね学園で優秀な成績を残し、伯爵令嬢の身でありながら王宮の仕事を任されていた。女だと馬鹿にされ戦いの日々だったというが、それでも仕事にやりがいがあって充実していたのだと話していた。
ある日、薬を盛られて国王陛下のお手つきになってしまうまでは。
その一回で子供を授かったお母様は、伯爵令嬢と身分も高かったためそのまま側室へと迎え入れられることになった。
てっきり愛妾かと思っていれば側室入りだということで、面白くない他の側室達や正妃から嫌がらせを受けていた。
そんな中お母様は男女の双子……私イザベラとイヴァンお兄様を元気に産んでくれた。
男児を産んだことで更に正妃や側室の目は厳しいものとなり、私達が赤子の時から暗殺が数え切れないほどあったらしい。
頼れる人も限られるそんな環境で、お母様は私とお兄様を鍛え上げた。自ら剣の握り方を教え、護身術を叩き込んだのだ。そして基礎ができるようになった途端、騎士団に放り込まれた。
運のいいことに人情溢れる人たちで編成された騎士団だったため私達双子の子供を可愛がりつつ、甘やかすことなくしっかりと力をつけさせてくれた。
しかし男である兄ではなく、私の方がメキメキと成長をしていったのが周りからしてみれば意外だったのであろう。私は模擬剣を振り回し、木に登り、走り回るのが楽しくて性格に合っていた。
「あんまり無理するな。大丈夫、私がお兄様を守るから」
「ありがとう。でも、情けないな僕」
「そんなことを言うな、私にとって自慢の優しいお兄様なんだから」
意地悪な義兄姉に虐められそうになったら、私が追っ払っていた。それでもお兄様は私が反撃にあいそうになったら震える体で私の前に立ってくれる優しいヒーローだ。
それから空いた時間は博識な母が付きっきりで勉強を教えてくれた。こちらで適性があったのは兄の方で、私は勉強がからきしであった。
何度聞いても耳から耳へから通り抜けていくし、授業を聞いていれば眠たくなる。
「お兄様はすごいな」
「僕らは双子だから、適材適所、二人で支え合えるように得意な事が別々なのかもね」
「そうかもしれない!やはり頭がいいな!ところで適材適所ってなんだ」
「それはね……」
そう言って私はお兄様に教えて貰っていた。そんな私達を見てお母様は微笑む。
「そうね、二人が一緒なら何があっても大丈夫だわ」
それからも毒の耐性を付けてくれた。貴族、王族として恥ずかしくないようマナーを教えてくれた。
私達が厳しい環境で生きていく上で大事な事を沢山教えてくれた、自慢のお母様だった。
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