プロローグ
これは私がまだ幼い頃のこと。
お母様が家に唯一あったボロボロになって読みにくくなった絵本を、面白おかしく話を盛ったり登場人物を増やしたりし読んでくれるのが好きだった。同じ本でもその日その日で全く違う話になって、私の数少ない毎日の楽しみだった。
私はお姫様が王子様と結ばれるより、騎士の冒険譚の方が好きだった。私の中の王子様のイメージが、性格の悪く意地悪な義兄たちだったからだ。
「ねぇお母様。どうして魔王に攫われた姫は自分で抜け出したりしなかったんだろう」
物語の中のお姫様は、勇者か王子様が助けに来てくれる。そんなにいやならもっと抵抗したり、戦って逃げたらいいのに。
「そうね……もしかしたら、お姫様は魔王のことが好きになって、ずっと一緒に居たかったのかもね」
そう言ってお母様は笑っていた。そして、その日の夜はお姫様が魔王に何度も何度も愛を伝えて結婚するという物語を読んでくれたのを今でも覚えている。
17歳になった私は、魔王陛下と政略結婚をすることになった。そして私はらしくもなく、恋に落ちた。
私は素直じゃなくて不器用な優しさを持つ魔王陛下に、今日も愛の言葉をぶつける。
「魔王陛下、愛している!」
「アンタは毎日毎日同じ言葉を叫んで、飽きないのかしら!?」
魔族特有のとんがった耳を赤くして逃げ出す魔王を、私は自慢の脚力で今日も追い掛けて、微笑ましそうな使用人たちの前を通り抜ける。
母国にいた時とは比べ物にならないほど幸せな生活。
私はふと、昔の魔王と姫が結ばれるお話を思い出して笑ったのだった。いつかハッピーエンドを迎えられるように、これからも私は愛を伝えていく。