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目覚めた場所は、普段過ごしている場所だった。ザハール国の森の最奥に、エリクが普段好んで住んでいる場所がある。人間たちのように家を建てているわけでもなく、ただ草木が生い茂ったそこを暮らしやすいように整えているような場所だった。
「厄介なことになった…」
そう口にしたエリクは、大きなため息を吐く。過去、自分がヴィクトルやジャスミンに行ったことが、こうした形で跳ね返ってくるとは思わなかった。
レーニャがイヴァンと言う男に拳銃で撃ち抜かれたとき、エリクは自分の中の血が一気に冷え切ったのを感じた。レーニャは神であることから、拳銃程度で頭を打ち抜かれたとしても…長い間、体を弱らせていない限り復活する。エリクやレーニャを殺せるのは、全てを裁くあの格上の神である男たった1人だけだからだ。
そう分かっていても、あの時、拳銃で撃ち抜かれたレーニャを見て、エリクは怒りで頭がいっぱいになった。なにも考えることが出来なくなり、ただイヴァンという男をこの場で殺してやろうと…それだけしか頭になかった。
自分の中にそれほど乱暴な気持ちが隠されていたのだと自覚する。…そして、それ以上に今はどうしようもない虚しさだけが胸を占めていた。
人間とは違い、神は途方もない長い時間を過ごす。今までだってエリクとリーリエの間には様々な思い出があった。時に一緒に酒を飲んだり、人間に悪戯をして遊んだり…しかし、そんな記憶は全てレーニャの元から消えてしまったのだ。
「レーニャ…」
エリクは彼女の様子が気になって、家を抜け出し隣国へと向かう。本当は見たくない気持ちでいっぱいだったものの…このままじゃずっともやもやするだけな気がしたからだ。
そうして、エリクは彼女がいつものように歌声で国の男たちを寝所へと誘う様子を見る。いつもと違うのは、レーニャの方から積極的にキスをしたり、愛の言葉を囁いている様子だった。男たちは美しいそんなレーニャの姿に夢中になり、彼女も楽しそうに過ごしている。
そんな中、ふとレーニャの視線がエリクの方へと向いた。彼女はこちらの存在に気づいていたのだ。
「初めまして、見ない顔だけどあなたは人間じゃないわよね?ふふ…混ざりたいの?」
そう告げられて、エリクは限界だった。エリクはその場を逃げ出し、ただただ胸の痛みに酷く苦しむこととなった。




