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「なぁエリク…お前にとってレーニャはどんな存在だ?」


ファリドにそう告げられて、エリクはなにも答えられなかった。レーニャはただの妹のような存在だと、今まで通りそう答えれば良いはずなのに、今日はどうしてもそう口にできない。ついさっきレーニャに口づけされた感触は、エリクの唇からまだ消えてはくれないのだ。


ずっとずっとレーニャは妹であると、エリクは周囲に告げ…そして自分に言い聞かせてきた。レーニャは時に歌で男を呼び寄せ、寝所に連れ込む美しい女神である。そんな彼女を好きになって、エリクは嫉妬を抑えることなんてできるはずないのだ。


だからこそ、ずっとレーニャのことは妹としか思えないと口にしてきた。その結果、レーニャが傷ついたような表情をしても、レーニャから密かに熱っぽい視線を向けられていたとしても…全てを気づかないふりをしてきた。そうすることで、面倒なことは起きないはずだった。


「…彼女は…誰にも代えがたい存在です」

「そうか」


ファリドはエリクの答えを聞いて、満面の笑みを向けてくる。しかし、ファリドの口元は笑っているものの、その視線は冷たくエリクのことを射貫いていた。


「ならばすべて消してやろう。レーニャの記憶の中から、お前だけの記憶をすべてな。ははは、俺はそんなことを思いついたお前が天才だと思ったね。反省させるのにぴったりな罰だな」

「嫌っ!ファリド様、それだけはどうか…」


苦しそうにレーニャが隣でそう声を漏らすものの、ファリドは嬉しそうに口元を緩めるだけだった。


「レーニャ。お前も長い間苦しんできたんだから、少し楽になれるんじゃないか?エリクが手に入らない苦しさを埋めるために人間の男たちに抱かれたって、ずっとずっと満たされないまま傷ついてきたじゃないか」


ファリドの言葉にハッとして顔をあげ、レーニャの方に視線を向けるエリク。しかし、レーニャは顔を真っ赤にして手で顔を隠してしまう。


「逆の立場にするとレーニャ、君は苦しんで死んでしまいそうだからきっとこの形が良いだろう。なにより、エリクにとってはキツイ罰だろうからな」


そんな時、エリクが思い出すのは、自分が同じように告げたときのヴィクトルの反応だった。あの時、ヴィクトルが苦しんでいた気持ちが良くわかる。両思いが分かったところで、次の瞬間に片方から記憶が消えてしまう関係だなんてどれほど辛いものだろう。


「レーニャ、本当にすまない」

「…いいえ、私は最後にキスができて素敵な思い出ができました」


その後、ファリドの指示で暫くの間、人間に関わることも禁止された。しかし、どうしてもエリクは奪ってしまったヴィクトルの記憶を返したいとお願いする。同じような立場になってみて初めて、この関係は酷く苦しいものだと気づいたからだった。


ちょうど眠っていた神官のティモンの夢に繋ぎ、エリクは言づてをお願いする。頬を殴られた状態のままのエリクもレーニャも顔が腫れており、ティモンは焦っていたが、ティモンならうまく伝えてくれるだろう。


そうしてヴィクトルの記憶を返した後、代わりのようにレーニャの記憶は消されたのだった。


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