【 番外編2 夜にあなたを誘う歌声 】
場面は第5章のラストの続きのシーンです。
神様たちの恋のお話。
エリクは突然、周囲の時間が止まっていると感じた。
自分の足の下には、体を粉々にしてやろうと強く踏みつけている隣国の皇帝のイヴァンの姿があり、少し遠くにエリクに吹き飛ばされて苦しそうにするヴィクトルとそんなヴィクトルに駆け寄るジャスミンの姿。
そして、自分の目の前にはついさっき、突然口づけてきたレーニャの真っ赤な顔があるのだった。
「え?」
この世界で動いているのはエリクとレーニャだけ。すると、レーニャも周囲の異変に気付いたようで、驚いたように周囲を見渡す。
「これは一体何が?」
「いや、俺もわからない…」
そんな時、2人の目の前に恐ろしい存在が現れた。
「ファリド様っ…!」
眩しいほどに煌めく金の長い髪と、笑っているはずなのにこちらを冷たく見据えているように感じる金の瞳。圧倒的な美しさで目を惹く容姿をしており、男にも女にも思えるその人物は…実際その通りである。ファリドは男でありながら、望むままにその細く薄い腹で実際にエリクやレーニャを孕ませた神であり、時にこうして子供たちを叱りつけにやってくるのだ。
「きゃぁ!」
「レーニャ!!」
目の前でファリドの手が鞭のようにしなり、レーニャが強く頬を打たれて倒れこむ。助け出そうとエリクも動くが、次の瞬間、今度はエリクの顔をファリドは何度も何度も殴りつけてくるのだった。
「っ、ぐふ…」
「受け入れろ、これも躾けだ」
ぐわんぐわんと揺れる視界の外で、そんな声が聞こえる。その後、レーニャの泣き出しそうな声が聞こえ、ファリドはエリクを殴る手を止めたようだった。
「お前たちは少し人間に干渉しすぎた。わかるな?人間たちで遊ぶのは自由だが、入れ込むことは許さない。そうやって、何人もの神たちが狂ってきたのを、お前たちも知っているはずだろう?」
ファリドの言葉に、彼の機嫌を損ねたのだと納得する。エリクは痛む体を押さえながらもレーニャへと視線を向けた。レーニャは打たれた手の痕が残るほど頬を赤く染めているものの、エリクほど酷く痛めつけられている様子はなかった。
「申し訳ございません…」
レーニャはファリドを前に頭を下げ、エリクも痛む体を押さえて起き上がり、レーニャの横で頭を下げる。ただ…何度もこの男と過ごす中で、エリクもレーニャも分かっていた。
ファリドという男は、この程度の体罰で許すはずがないのだ。




