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「お久しぶりですね、イヴァン様」
ついさっきまで扉の外で聞こえていた乱暴な口調が彼女だと思えないほど、穏やかにそう声を掛け、ドレスの裾を上げて優雅に挨拶をするリーリエ。
「改めて皆さまにもご挨拶しなければなりませんね。私はザハール国第一王女リーリエと申します。こちらは私の婚約者のフェリクス・ルスラン侯爵と我が国の宰相であるアレクセイです。どうぞ、お見知りおきを」
リーリエがそう告げると、騒ぎを聞きつけてやってきた兵士たちは手が出せなくなり、その場にうろうろし始める。いくら侵入者とは言えど、相手は隣国の王女なのだ。
「いい、全員帰れ。何かあればこちらからまた指示を出す。誰か、客人に出す茶を用意しろ」
「あら、構いませんよ。こちらで美味しいお酒を用意していますから。グラスだけ用意してくださいますか?」
リーリエがにっこりと傍にいるメイドに微笑みかけ、メイドは少し慌てながらも部屋の外に駆けていく。その後、兵士たちがいなくなって静かになった頃、声を掛けられたメイドが慌てた様子でグラスと氷を運んできた。
メイドが準備をしている間、リーリエは気にしない様子で近くにあるソファに座った。そんな様子を見ながら、ふとサイドテーブルに自分の眼帯が置いたままだったことに気付いたイヴァン。イヴァンは過去に戦いによって片目を負傷しており、普通の令嬢であれば見るだけで悲鳴を上げるほど恐ろしい傷痕が残っている。
今は自室で休憩中だったために外していたイヴァンだったが、リーリエはイヴァンのそんな傷痕を見ても変わらずに過ごしている。やはり、彼女は普通の令嬢とは違うのだ。
そんなことに口端を緩ませながら、イヴァンは眼帯を付けると体の痛みを堪えて立ち上がり、リーリエの前にある1人かけのソファへと腰かけた。
「あら、随分お辛そうですね」
まったくそう思っても居なさそうな口調でそう告げたリーリエ。そうして、メイドが去っていったタイミングで、リーリエは後ろに控えるアレクセイに、持ってきた酒を出すように告げた。
「ん?随分酒の趣味がいいじゃないか」
彼女が手にしているのは、世界でも数少ない希少な蜂蜜酒だった。甘い味とは対照的に、恐ろしいほど高い度数の酒。普通の者であれば、一口飲むだけでも思考がくらくらするほどの酒でもある。
「ふふ、あなたのために取り寄せましたの」
そう告げたリーリエだったが、優雅な手つきで酒瓶を手にして近づいてきた後、突然荒々しくイヴァンの顔目掛けて叩きつけてくる。イヴァンがすっと横に逸らしたことで酒瓶はイヴァンの後ろにあるソファの背に当たって砕け、蜂蜜酒の香りが一気に広がるのだった。




