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「ジャスミン、返せないというのなら…そのピアスを付けて、俺の傍にいてくれないか?」
そう告げるヴィクトルは、まっすぐにジャスミンと視線を合わせる。そうして、一歩ずつ近づいてくると、ジャスミンを逃がさないようにがっしりと腕を掴むのだった。
「俺の中からジャスミンの記憶は一度消えた。けれどずっと…ずっと考えるのは、君のことばかりだった。仕事が手に付かなくなって、君が出ていったあともずっと監視を付けていたし、君が他の男と仲良くしているのを見ると、なぜだか胸が苦しくなった」
そうして、ヴィクトルはその場に片膝をついて、ジャスミンの手に小さくキスをする。
「俺たちに身分差なんて関係ない。なにより、ジャスミン、君はエリク神に気に入られた存在だ。そんな君が、俺に相応しくないなんて絶対に言わせない!だからどうか…この国で共に暮らしてくれないか?」
ヴィクトルのそんなセリフに、ジャスミンは胸がいっぱいになった。本当に彼の言葉に頷いて良いのかと悩み、戸惑ってしまう。そんなとき、ふと奥の生垣のあたりから視線を感じた。よく見ると、今日の結婚式の主役のリーリエやルスラン侯爵を含め、主賓たちがなぜかこの事態を遠くから見つめているのだった。
ジャスミンと視線が合うと何人かは気まずそうに視線を逸らす。それでもリーリエはそこで、大きくガッツポーズをしてにっこりと笑いかけてくれているのだった。
それから、同じタイミングでジャスミンの胸元にある以前ティモンから受け取ったロザリオも熱くなった気がした。どこかでエリク神やレーニャ神にも見つめられている気がして、どこか心強くも思えたジャスミン。
「陛下。私も、陛下の傍で過ごしたいです」
ジャスミンのそんな言葉に、ヴィクトルははっと顔を上げてジャスミンの体を抱き寄せてくれる。その瞬間、後ろにいた観客からも歓声があがり、ヴィクトルはそこで初めて、多くの人に見られていた事態に気付くのだった。
その後、誰もいないはずの神殿の鐘がなった。神殿の屋根の上についた鐘の傍には、小さな人影が2人分ある。普通の人間では上ることが出来ない場所のため、誰もがそこに人々を見つめる神がいるのだろうと実感するのだった。




