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「ジャスミン!!本当にごめんなさい、侯爵ったら本当に気が使えないし、間が悪いし…え?これは?」
助け出されたジャスミンにハンカチを差し出しながら慌てて近づいてきたリーリエだったが、ふと、ジャスミンの腕の当たりになにか小さな箱が引っかかっているのを見つける。それは確かにアクセサリーケースであり、リーリエはすぐにそれを手に取った。
「お兄様、これやっぱり私たちの結婚指輪じゃない!」
リーリエの結婚指輪はこの国で有名な宝石商に頼んだものであり、アクセサリーケースには王家のために作ったものの証として王家の紋章が彫られる。このアクセサリーケースは確かに、その紋章があったのだ。
「…ちがう。リーリエ、これは…」
「もう、言い訳しないでくださいませ!!だってここに証拠が…ん?」
怒ったような様子のリーリエがアクセサリーケースを開けて、言葉を止める。不思議に思ったルスラン侯爵も、そんな箱の中身を見た時に気まずそうに口をつぐんだ。他の者たちは訳が分からずにいたが、ヴィクトルはそんな状況に大きなため息を付いた。
「それはもう、捨てるつもりだったんだ」
「…だからって、あんな窓から!これはお兄様が大切な人に渡すもので…」
「あ、あ、リーリエ様。それは私が預かりますから」
そんな時、ヴィクトルの後ろにいたアレクセイは、ケースの中身に気付いたのか慌ててアクセサリーケースを受け取る。
「あ、それってもしかしてあの時の!」
一方でティモンもこのケースの中身について何か知っている様子であり、リーリエは自分だけが何も知りえない事態に大きく声を上げた。
「あーもう、男たちって本当に隠し事ばかりで嫌になるわ!!」
そう言ったリーリエは水に濡れて冷えたジャスミンの手を引き、慌てた様子のヴィクトルから引き離す。
「お兄様、はっきりおっしゃってください。それはジャスミンに送るはずのものではないんですか?王家の男として生まれたものは、自分の瞳の色のピアスを贈る伝統があったはずです。そのケースの中にあるピアスはお兄様の瞳と同じサファイアがはめ込まれています。それが要らなくなったということは、リーリエへの思いを捨てたと認識して良いのですか?」
そんなリーリエの言葉に、その場には沈黙が訪れる。誰もが自分が口を出す場面じゃないかとわかっているものの、当の本人であるヴィクトルは口を開く様子はなかった。
「…あ、あの…今日はここで解散にしませんか?ルスラン侯爵も殿下もお召し物が濡れていますし、殿下も言い出せないことがあるんだと思います。リーリエ様、結婚式も近いですし、今日のところは一旦、皆さんが風邪を引かないように…くしゅ」
そう周りを気遣っていたジャスミンだったが、寒い風に吹かれてつい、自分もくしゃみをしてしまう。小さく体が震えていることに気付いたのか、リーリエも慌てたようにジャスミンを気遣ってくれた。
「ご、ごめん。ジャスミン、そうだわ、このままだと寒いわよね。私の部屋に行きましょ、お湯と着替え、すぐに用意してあげるからね。侯爵、あなたも付いてきて!」
リーリエがそう言って侍女を呼び、いくつか指示を出しながらジャスミンとルスラン侯爵を連れていくのだった。




