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ジャスミンはふと、視界の端にヴィクトルの姿を見た。ヴィクトルの執務室はこの中庭から見える場所にあり、ジャスミンはどうしても彼のことを目で追ってしまう。ジャスミンの恋心は、ヴィクトルの中から記憶を消されたときに一緒に心の奥へとしまい込んだはずなのに、こうして傍で暮らしているとどうしても思い出してしまう。
「ふふ、ジャスミンはやっぱりお兄様が気になるのね。本当に、お兄様も意地っ張りで困ってしまうわ。いつまでジャスミンを待たせるつもりかしら」
「…いいえ、そんなことないわ。私だって、今更どう話しかけていいかわからないんだもの」
そう言ったジャスミンは、視線を目の前にある紅茶へと向ける。リーリエだけでなく、一緒にお茶会をしているルスラン侯爵やアレクセイ、ティモンの視線も集まってジャスミンは段々と何を言って良いのかわからなくなる。
「むしろ、今までの私は陛下の前でどう接していたのかしら…」
ただの調薬師として、陛下の守る国民の1人として…少し仲の良い友人として、以前までは会話していたヴィクトル。そんなヴィクトルもジャスミンのことを思ってくれていたと知ったのは、ジャスミンが処刑される騒動があったからだった。
「俺が暴走して、あんな処刑騒動なんか起こしたから」
「やめてください、ルスラン侯爵様。…私は、結局あの騒動があって色々と運命が変わって良かったと思っているんです。ただ引きこもって薬を作って、陛下のことを遠くから見て満足していた私にとって、あの事件は大きく運命を変えてくれました。陛下と両思いだったとわかっただけで、私にとっては大きな意味のある事件でした」
そうにっこりと笑いかけるジャスミンだったが、リーリエはなにか思うところがある様子でルスラン侯爵の腹を腕で小突いている。確かに、あの時はリーリエが毒で倒れていたからこそ、いつも以上にルスラン侯爵が暴走して事件が巻き起こったのだ。毒も元はリーリエを狙った隣国のイヴァンの仕業であり…それこそ、様々な条件が重なってジャスミンの処刑が行われた。




