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「…本当は、ずっと嘘をついていたことがあります」
ジャスミンがそう声にすると、すぐさま後ろのルスラン侯爵が高笑いをした。
「はははははは、エリク神の前で罪が裁かれると知り、怖くなったんだろう?これはもう自白ではないか!!なにが清純な女性だ!綺麗な顔つきをしているくせに、本心は汚い魔女のような女だな!!!お前を庇っていた兵士たちも今頃、悔しくて仕方ないだろうよ」
「ルスラン侯爵、口が過ぎるぞ」
ヴィクトルは鋭い視線をルスラン侯爵に向けてそう告げるものの、ルスラン侯爵はそんなヴィクトルを押しのけてジャスミンの前にやってくる。
「ルスラン、貴様…」
「陛下だって本当は疑っていたじゃないですか。この国の医者が皆、解毒できないほどの恐ろしい毒薬の知識を持つのはこの女だけなんですよ。さぁ、ここで薄情しろ!このクソ女!お前は何を隠している!一体、死ぬ前にどんな懺悔がしたくなったというのだ!」
ルスラン侯爵の言葉に、その場が一斉に静かになる。不安や疑いを含んだ視線がジャスミンに向けられ、誰もがジャスミンの声が発せられるのを待っていた。
「…ヴィクトル様、私はあなたを愛してしまっていたんです」
しかし、ジャスミンが口にしたのはリーリエに向けた懺悔の言葉ではなかった。
目の前にいるヴィクトルの目が大きく開かれ、ジャスミンの言葉を今か今かと待っていたルスラン侯爵はわなわなと震えた後にジャスミンの頬を殴りつけた。
「お前!!!この期に及んで陛下に縋ろうというのか!!!」
冷たい石の台座に縛り付けられていたジャスミンは逃げることもできず、ルスラン侯爵に殴られた頬に鈍い痛みが走る。口の中に血の味が広がり、二度目も殴りつけてこようとするルスラン侯爵の腕が見えたものの、傍にいた兵士たちが必死になってルスラン侯爵を押さえつけているのだった。
「放せ!!!私を一体誰だと思っている!この女が…この魔女のような女が…!!!!許せない、陛下に色目を使うこの悪女が!!!」
ぎゃぁぎゃぁと騒ぐルスラン侯爵の口を封じたのは、傍にいるヴィクトルだった。手に付けていた手袋を脱ぎ、ルスラン侯爵の口に無理矢理詰め込む。その表情は驚くほど冷たく、ルスラン侯爵は怯んだように喉を鳴らした。
「見苦しいぞ、ルスラン!今ここで儀式は行われるのだ。ジャスミンの罪は裁かれる。俺が許したのは儀式で心臓を捧げるジャスミンの言葉であって、お前の言葉ではない。それとも、ジャスミンの代わりにお前をここで殺して、その心臓を祭壇に捧げてやろうか!」
ヴィクトルの言葉に、ルスラン侯爵は真っ青な顔をして静かに顔を俯かせた。一方で、ジャスミンに近づいていたヴィクトルは、真っすぐにジャスミンの瞳を見つめてくる。その表情は、優しく穏やかなものだった。
「ジャスミン、お前の言葉を聞かせてくれ」
ヴィクトルの優しい声に心臓が早く脈打つ。ヴィクトルの瞳に見つめられるといつも嘘が付けなくなって視線を逸らしてばかりだったジャスミンだったが…今はもう気持ちを隠す必要はなかった。
「…私はずっと貴方をお慕いしておりました」
それはジャスミンにとって、ずっと心に秘めておこうと決めていた言葉だった。