【 最終章 愛する人へ贈りたいもの 】
ヴィクトルが意識を取り戻した時、傍で聞こえるのは誰かの会話だった。
「いや、本当に焦ったぞ。リーリエ様は、その場で酒瓶を振り上げてだな」
「っ…ま、待ってください!今の会話の中で酒瓶が登場する状況なんてないじゃないですか。リーリエ様はただ今回の事件の話し合いに向かっただけですよね」
「それが最初っから酒瓶を持って行ったんだよ。俺は置いて行かせようとしたんだが、リーリエ様が頑なに酒が必要だっていうから。普通飲むためだって思うだろ?あれは多分、最初っから酒瓶で殴るのが目的だろうな」
「ぶっ、はははは。ちょ、お腹痛い…」
そう言って楽しそうな会話が聞こえる中、ゆっくりと目を覚ましたヴィクトルはどこか楽しそうに会話をするアレクセイとティモンの姿を見る。
「なによりな。その時のルスラン侯爵の慌てっぷりも面白くて…陛下!!」
ヴィクトルと目線が合い、驚いたように近づいてくるアレクセイ。ティモンもそんな声に反応して、急いでヴィクトルの傍へと寄ってくるのだった。
「陛下、ご気分は?吐き気があったり、痺れたりする部分はありませんか?」
「…いいや。それよりも、楽しそうな会話だったな」
「あぁ、そういった軽口が話せるなら大丈夫そうですね。ティモン、俺は医者を手配してくるから、陛下のことを頼む」
「うん、わかった」
そう言って駆け出していったアレクセイが、扉の外でいくつかの指示を出している声が聞こえた。一方で目の前にいるティモンは、目に涙を浮かべながらヴィクトルの手を握る。
「陛下はどこまで覚えていらっしゃいますか?私も聞いた話ですが、隣国の皇帝であるイヴァン様がエリク神様を怒らせたのだと聞いています。陛下は仲裁に入る中で酷い怪我を受けたようで、肋骨が何本も折れているということでした」
そうティモンに告げられて、ゆっくりとヴィクトルは意識を失う前の記憶を思い出すのだった。確かに起き上がろうとすると、腹のあたりが酷く痛む。冷や汗が流れてベッドに戻ると、ティモンが慌てたように「落ち着いてください」と話して、ハンカチで汗を拭ってくれるのだった。
「結局、イヴァンとの話し合いはどうなった?それに、お前たちの先ほどの会話も気になる」
「…へ?一体どこから、聞いて!?」
「リーリエが酒瓶を振り回したと」
「くっ…ふふ、す、すみません。ん、ごほん。…えっと、リーリエ様は陛下が隣国からぼろぼろになって帰ってきたのを見て、すぐさま隣国の皇帝のもとへと怒鳴り…いいえ、話し合いに向かいました。その際、付いて行ったのがアレクセイとルスラン侯爵であり、リーリエ様の暴れっぷりに振り回されたとのことです」
ティモンからの報告に苦笑いが漏れるヴィクトル。リーリエは見た目では清楚で大人しそうに見えて、実はめちゃくちゃ男勝りである。人前に出るパーティの際は常に、ヴィクトルが同伴して彼女が本性を出さないように見張っているのだが、今回ばかりは仕方がなかったのだろう。




