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「お前…。今、レーニャに何をした?」
そう話すエリク神の声は低く、ヴィクトルの体からはなぜか震えが止まらなかった。それはヴィクトルが押さえつけているイヴァンも同じようで、歯をがちがちと鳴らして「ひっ」と小さな悲鳴がイヴァンからも漏れる。
「ヴィクトル、その男を離せ。そいつを我に寄越せ!」
地鳴りのような声でそう告げてくるエリク神に、ヴィクトルの体は自然に従いそうになる。しかし、ヴィクトルはそれじゃいけないと、自分の爪で太もものあたりを思いっきり傷つけた。
「…落ち着いてくれ!!ちょっと冷静になってくれ、エリク神!!」
「お前は誰に命令しているのだ!!!」
エリク神の怒りは凄まじく、そんな怒鳴り声にヴィクトルの体から力が抜けてしまう。すると、その場に倒れこんでしまったヴィクトルをエリク神は強く蹴り上げる。ヴィクトルの体はそのまま吹き飛ばされていき、その場に残ったイヴァンをエリク神は足で踏みつけているのだった。
「っ痛ぇ…くそ…」
イヴァンは必死に抵抗するものの、エリク神に抵抗する手段は持たない。ヴィクトルは吹っ飛ばされた衝撃で痛む体を押さえながらも、どうにかできないかと視線を巡らせていた。
そんな時、エリク神の後ろで慌てた様子のジャスミンとレーニャ神の姿が目に入る。
「レーニャ様っ!!このままで良いのですか?このままではエリク神様が!!」
ジャスミンがそう告げると、倒れていたレーニャ神は起き上がる。拳銃が効かないのか、間一髪で避けていたのか。そんなことはわからないものの、当の本人であるレーニャ神は酷く慌てていた。
「え、っと。…無理よ!兄様がここまで怒ってしまったら、私は止めることができないの!何を言ったって、聞き入れてくれないはずよ!!」
「それじゃ駄目です!どんな方法でも良いので、エリク神様を止めてください!それに、さっきレーニャ様も言っていたじゃないですか、人間に関わりすぎるのは良くないって」
「…けれど、兄様を一体どうやって止めれば…」
早口でそんな会話をするジャスミンとレーニャ神。そんな時、ジャスミンは何かを思いついたようにレーニャ神の耳元で何かを囁く。
「えぇ!?無理無理、そんなのできっこない!」
「レーニャ様、お願いです!!私にも今はこの方法しか思いつかないんです!」
そんなやりとりを見ていたヴィクトルだったが、痛みのせいか視界は段々と暗くなっていく。だからこそ、その後見えた光景はもしかしたら幻なのかもしれない。
エリク神の頬を無理に掴み、その唇にキスをするレーニャ神。最後に見えたのは、酷く驚くエリク神の表情だった。
そして…ヴィクトルは誰かに名前を呼ばれていると感じながらも、堪えきれずそのまま意識を手放してしまう。最後に何度も名前を呼んでくれたのは…一体誰だろうか?




