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「帝国の偉大なる太陽に挨拶申し上げます。陛下、ご希望のものをお持ちしました」

「はぁ?何か頼んでいたか?」


目の前にいる老人は明らかに無害そうに思えるが、ヴィクトルにはまったく覚えがない。もしや、新手の刺客かとティモンにも視線を向け、万が一の事態に備えたが…目の前の老人がよぼよぼとした手で出してきたのは、小さなアクセサリーケースに入ったピアスだった。


「陛下のご希望通り、職人たちが丁寧に作り上げました。サファイアもこれほどに精密な加工ができるのは、陛下の品だからですぞ」


そう言って、モノクルの奥でにっこりと優し気な笑みを浮かべる老人。


「陛下と同じサファイア色の宝石を使ったピアスということは、私もあまり詮索はできませんが、我々に嬉しい報告が届くのも近そうですなぁ」


この国では王族が自分の瞳の色のピアスを渡し、婚約を申し込む伝統があった。ふと、目の前の男が宝石業界の重鎮である男だと思いだす。しかし、これほどまでにピアスに関して思い出そうとすると頭の中が靄がかるのは、これもまたジャスミンに関わるものなのだろう。


…かつての自分は、こんなにも大層なものをただの平民であるジャスミンに渡そうとしていたのだろうか?


「陛下…?」


ヴィクトルがピアスをじっくりと見たまま動かなくなったのを見て、心配そうにティモンが声をかけてくる。ヴィクトルは出来上がったピアスを見ると、なぜか殆ど知らないはずのジャスミンが自分に笑いかけてくれるようなそんな感覚を覚えるのだった。


あり得ない。かつての自分が恋をしていたというにしろ、彼女はもうヴィクトルの中から消えていき、ただの平凡な平民な女になったはずだ。なのにどうして、このピアスはあまりに彼女に似合っていると思えるのか?どうして、彼女がこのピアスを身に着けて微笑んでくれるようなおかしな妄想をしてしまうのか?


「品は確かに受け取った。…褒美はまた、アレクセイから送らせよう。これほどの品を届けてくれたことに感謝しよう。ご苦労だった」

「いぇ、いつかこの宝石をどなたかの耳で揺れるところを、我々は楽しみにしておりますゆえ」


そう話す老人の男は、もしかしたら全てを見抜いているのかもしれない。静かに立ち上がった後は、杖の音と共にゆっくりと消え去っていく老人の姿。


…ヴィクトルの心は、ピアスを持ったまま少し揺れていた。



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