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「揃ったな」
処刑の場、エリク神を祀る神殿の間にジャスミンは連行され、到着を待っていたこの国の皇帝でもあるヴィクトルがそう声を発した。
ザハール国で生まれた全ての人は、死後に心臓を抜き取ってエリク神の祭壇に捧げることで、生涯に吐いた嘘や隠していた強い思いがゆっくりと石板に浮き上がってくる。平民たちがこの儀式に参加することはほとんどないものの、国に関わる王族や貴族は死んだ後に心臓を抜き取り祭壇に捧げられる。そして、国を揺るがす犯罪者や反逆者たちもその罪をきちんと清算させるために、この祭壇の前で処刑をされてから心臓を祭壇に捧げることが決まっていた。
ジャスミンの体は多くの人が見守る中、真実を記す石版の前の大きな石の台座の上に鎖で固定された。処刑を執行するのは本来決められた神職者のはずだが、なぜかジャスミンの前にはヴィクトルが立っている。
「処刑執行は俺が行う。…苦しむことなく、一息で逝かせてやろう」
以前見た時よりも少しやつれた様子のヴィクトル。妹のリーリエが倒れてからは、犯人探しに奔走したと聞いている。リーリエのことを愛していたヴィクトルだからこそ、リーリエが目覚めずに少しずつ弱っていく今の状況は辛いことだろう。
「ジャスミン、ここは嘘を嫌うエリク神の前だ。お前の正しさは死を持って証明される。その前に言い残したことがあれば、今ここで聞いてやる」
ヴィクトルがそう告げて腰に下げた剣を抜くと、神殿に集まった人々から少しずつ泣き声が聞こえてくる。仲良くしていた兵士たちや侍女たちが泣く姿は、ジャスミンにとっても少し心苦しいものだった。