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「お前、名前は?」
「あら、私に興味を持ってくださいました?」
そう鈴の音が鳴るように笑う彼女は、隣国ラヴィル国の王妹であるリーリエだと名乗った。隣国ラヴィルと言えばおかしな宗教が流行っており、死んだ後は心臓を抜き出されて捧げられると噂の国だ。なんでも神によって嘘が見抜かれるといい、多くの者は基本的に嘘を吐くことをしないのだという。
「どうして俺に近づいた?」
「だって、凄くお酒に強そうなんですもの。私が一緒にお酒を飲む方は早々に潰れてしまうから、いつだってセーブしなきゃいけないのよ。けれどあなたは、私と同じくらいお酒に強いみたいだから」
そうして楽しそうに笑った彼女は、近くのテーブルに並べられたお酒やおつまみも大量に持って来ては、また同じ席に座るのだった。
「今日はうるさいお兄様がいないから、好きに飲み食いし放題なの。今日のためにドレスもコルセットを外してきたのよ」
彼女がそう笑って示すドレスは、確かに腰の部分が他の令嬢のように強く締め付けられてはいないタイプだった。しかし、彼女の腰はコルセットを付けていなくても細いことが良くわかる。むしろ、この細い腹にあれだけの酒がどうやって入っているのかのほうが気になるほどだ。
「…ちょ、許可を出す前に触らないでくださいませ」
イヴァンが自然に伸ばした手を、おつまみを食べようとしていたフォークでさっと制すリーリエ。普段ならそんな無礼な行為をされると苛立つものの、今日のイヴァンはそんな彼女を愛おしいとも思えた。
「じゃぁ、お前が先に酔い潰れたら、その腰を堪能させてもらおう」
「まぁ!それは負けることができないわ。私には愛する婚約者がいるんですもの」
そう言って笑いながらも、また酒を注ぎ始めるリーリエ。結局、その日の交流会終わりまでリーリエが酔い潰れることはなかった。一方で、少し足がふらつく程度には酒が回っていたイヴァンに、リーリエは意地悪そうに笑う。
「もし私のことを疑わないのでしたら、こちらの丸薬を差し上げますよ。中身は、私の友人が作った二日酔い防止の薬なの。これを飲まなかったら、明日の朝の目覚めは最悪ですからね」
彼女はそう告げると、取り出した丸薬を自分の口に入れて、あろうことかまた酒で飲み入れようとする。イヴァンはそんな彼女の元へと手を伸ばし、指でその薄い唇を開かせて丸薬を奪い取ってやった。
「ちょ、なに…」
「はは、お前が口に入れたものなら一番安心できるだろ」
そう笑って、イヴァンは彼女の口から取り出した丸薬を口の中に入れてかみ砕く。口内には酷い苦みが広がり、流石のイヴァンも眉間に皺を寄せた。
「味は最悪だな」
「だからお酒で飲むんですのよ」
イヴァンが苦みを感じたことに満足そうにした彼女は、もう1錠の同じ丸薬を取り出すと口に含んでお酒で流し込む。その後は優雅に立ち上がって、まるで先ほどまでの酒豪が嘘のように儚げに微笑んで去っていく。
イヴァンはそんな出来事が会って以来、リーリエをどうしても手に入れたいと感じていた。彼女には隣国で仲の良い婚約者がいると調べがついたが、そんなことはどうでもいい。
あの女を手に入れたい。そのためにはどんな手段も使う。それが今のイヴァンの考えだった。
分かりづらいかもしれないので補足です
1)交流会でヴィクトルの妹であるリーリエとイヴァンが知り合う
2)イヴァンはリーリエに惹かれ、彼女の国にスパイを送り込む
→この時同時に、国内では特殊な毒の開発をさせていた
3)自分しか解毒剤を持たない毒薬を飲ませるようスパイを操り、リーリエを眠らせる
→第1章より前のリーリエが倒れているところに繋がる
→第2章で祭壇に捧げられた女がこのスパイ
4)隣国にはリーリエを助けるための治療薬を持っている手紙を送ったが、返事がなくてイラつく
→イヴァンはイラつきすぎて、スパイから聞き出した隣国の皇帝であるヴィクトルが大切にしているジャスミンの家を燃やすように指示を出す
→第4章で明かされるが、手紙は女神のレーニャが奪っていた
→イヴァンの国に毒の雨が降ったりと、トラブルだらけで大変
5)ジャスミンが隣国に入国し、様々なことがありながらも毒の治療薬を作り出す
6)ジャスミンの存在に気付き、イヴァンはジャスミンを拉致
7)リーリエとの交換条件にジャスミンを使う
時系列はこんな感じです。
ぎゅっと詰め込んですみません!
完結後にここら辺を綺麗にまとめたいと思います。
作者の頭も混乱するので、一旦残させてください。




