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それから暫くの間、ジャスミンはユーリの元で人々を救う手伝いをしていた。しかし、兵士にまた目を付けられると厄介なことから、髪は短く切ってしまい、ユーリから借りた男物の服を着る。髪もわざと赤く染めて、顔に化粧でそばかすをわざと書くことで、ジャスミンは見た目だけでは元のジャスミンだとわからない姿に変える。
「ジャック、吐き気止めが切れそうなんだ」
「あぁわかった。これから薬を作るよ」
ジャックと名を変え、この国ではユーリの助手として過ごす。かつて、父親の後を何もできずについて回った幼少期とは違い、自ら人を救う手伝いができることはジャスミンにとっても満たされたものだった。
それでいて…ジャスミンとユーリは、秘密裏に軍の内部で使われている治療薬を解析し、薬草を調合して新たな回復薬を作りだした。突然降り注いだ緑色の雨が何らかの形で口の中に入ったことが原因で眠りについてしまった人々。そんな人々がジャスミンとユーリが開発した回復役によって目を覚まし、少しずつ街には活気が戻ってくるのだった。
もちろん、そんな光景は王族や軍にも伝わっているだろう。回復薬を作りだしたユーリは一度、軍の連中によって呼び出されたものの「大丈夫だったよ」なんて笑って帰ってきた。一体、どんなやりとりが軍とユーリの間であったのかはわからないが、もしかしたらユーリはただの街医者ではないのかもしれない。ジャスミンは少しだけ、そんなことを感じるのだった。
そんな日々の中、ジャスミンの前に懐かしい顔が現れた。
「やぁ、ジャスミン。久しぶりだね」
ジャスミンの頬にキスをし、楽しそうに微笑むエリク神。ジャスミンは突然のことに驚いて、持っていたクッキーを落としそうになった。今日は街で花祭りが開かれており、ジャスミンは人々に配ろうとクッキーを焼いていたのだが…そんな匂いにエリク神が惹かれて来たらしい。
「もう!エリク神様はいつだって突然ですね!」
そんなジャスミンの反応を楽しむように、エリク神はジャスミンの持っていたクッキーをかごごと奪う。そのまますたすたと歩き、ソファに座って今度は紅茶をいれるように要求してくるのだった。
少しの意地悪で、ジャスミンはミントティーを淹れてやっても良いんじゃないかと考えた。しかし、そんな態度は見抜かれていたようで、エリク神からは「ミントティーを用意するのならまたキスをしてやる」だなんて告げられてしまうのだった。
「っ…わかりました。ちゃんと熱い紅茶を用意しますね」
「ジャスミン、私のも頼むわ」
そんな時、エリク神の横に同じようにふわりと登場した見覚えのある人物がいた。
「レーニャ様まで…。もうお2人共、どうして玄関からやってきてくださらないのですか!」
「私たちみたいな存在に、そう説教するのはあなただけよ。ジャスミン」
「はは、違いないな」
どこか楽しそうにしながら、ジャスミンの作ったクッキーを食べ進める2人。ジャスミンが2人分のお茶を用意して戻ったころには、クッキーのかごは既に空になっているのだった。
「今年はいつも以上に賑わっているわ。あんなことがあったのにね」
ジャスミンの家の外から見える人々の様子を見ながら、レーニャ神はそう言って笑う。この花祭りは、この国の女神であるレーニャ神を称えるものとして行われていた。なんでも、噂によればこの国の原因不明の緑の雨や、そんな雨が体内に入ったことで人々がどんどんと倒れていったのは、レーニャ神による祟りだとこの国では噂されているのだった。
そのため、ここ最近は忘れ去られていたレーニャ神を称える花祭りを盛大に開催することにしたのだという。今は一部の信徒しか訪れなかった神殿も今日のために綺麗に花で着飾られていたのを、先ほどまで街に出ていたジャスミンは目にしていた。そのせいか、今日のレーニャ神はどことなく機嫌が良い。




