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「そういうわけで、気難しいが扱いさえ間違えなきゃ良い女だよ、あいつは。まぁ、隣国の国王はレーニャを怒らせて、国中に疫病を広げたらしいけどな」
「…待ってください」
そんな中、声をあげたのは今まで静かに話を聞いていたアレクセイだった。
「エリク神様、真実を見抜く貴方なら知っているでしょう。ジャスミンを危険な場所へと送ることはできません。リーリエ様が倒れたのは隣国の…」
「はぁーー本当に、頭がキレる男は嫌になるよ。だからいいんだろう?この国の皇帝であるヴィクトルがたった1人愛したジャスミンが隣国に行くからこそ、面白くなるっていうのに…ちっ、早くに答え合わせしやがって」
エリク神がそう告げると、急激に周囲が暗くなった気がした。森の外に大きな風が吹き始め、ざわざわと木々が揺れる音がする。それはまるで…エリク神が大きな災害を起こしたあの日と同じ兆候だった。
「エリク神様、お辞めください!!!」
そう先に口にしたのはティモンだった。ティモンはすぐさま、エリク神の足元に跪く。
「はは、案ずるな、ちょっと脅しただけだ」
その瞬間、周囲にまた温かな木漏れ日が戻ってきて、鳥たちの穏やかな囀りが聞こえてくる。それはまるで今のことはまるでなかったかのように、元の日常へと戻っているのだった。
「なぁ、アレクセイ。神たちにはそれぞれ考えがある。人間の前に姿を現すってことは、それなりの思惑があるってことだ。それをただ1人の人間が、まるで同じ立場だと思って歯向かわないことだな」
そう告げるエリク神の言葉に、誰もが目を離せなくなった。
「いいか、このままじゃジャスミンは隣国の刺客によって無惨に死ぬ。そうして迎える最悪な結末を変える手段を俺は今、提示してるんだ。これが神の言葉であり、お前にその言葉を否定する権利はない。我らは常にお前らよりも先の運命を見据えているからな」
いつのまにか、そう話すエリク神の手はジャスミンの首元へと向かう。そうしてきゅっと指を締めるような動作をした瞬間、ジャスミンは恐怖で体が震えた。しかし、エリク神はそんなジャスミンににっこりと微笑む。
「ま、所詮は人と神ってことだな。…アレクセイ、お前は恋人からもう少し神への信仰を学べ。神をも利用するくらいじゃないと国は守れない。お前も、ヴィクトルもな。いいか、この先、お前も間違った選択をした時は愛する者の記憶を奪われると思え」
最後にふっと笑ったエリク神は、テーブルの上にあるクッキーを皿ごと掴むとジャスミンに「また用意しておけ」だなんて告げて、どこかに消えてしまった。




