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その後、ジャスミンが新しい茶葉を用意して3人の元へ戻ると、エリク神とティモンは楽しそうに会話をしていた。頬を赤らめ、エリク神から目が離せなくなったように色々な質問をしては楽しそうにしているティモン。アレクセイは警戒心を残したまま、そんな2人の様子をじっと眺めているのだった。
「あぁ、待ってたぞ、ジャスミン。今、お前の話をしていたんだ」
お茶目なのか、気を許させるための手段なのか、クッキーのかけらを口端に残したまま無邪気にそう笑うエリク神。ジャスミンはどうしてもそんな様子が気になってしまって、手にしていたハンカチでエリク神の口元を拭う。
「はは、我に恋人みたいに振舞うのはお前だけだ」
「…でも、あんなふうに突然のキスは困ります。一歩間違えば、私は熱いお茶を零していました」
「それもそれで面白かっただろうなぁ」
そう笑ったエリク神は、新しく淹れた紅茶をぐっと飲み干すと、ジャスミンに視線を合わせる。
「なぁ、ジャスミン。この者たちと話していたんだが、お前、隣国には興味ないか?」
じっと視線を向けてそう話すエリク神。そんなセリフに、ジャスミンは自分の心を見抜かれたような気がして驚く。実はここ数日、ジャスミンは国を出て隣国に向かおうか悩んでいた。この国にはもう未練はなく、むしろ国で過ごす間はどうしてもヴィクトルのことを考えてしまう。…しかし、国を出るということはエリク神の加護から出ることにもなるのだ。
この世界は国1つに神が1人付いており、国によって様々な考え方はあるが基本的には自国の神を信仰する。移住は自国の神の保護下から抜け、他国の神の下へと入ることになる。
ジャスミンはそのことにずっと悩んできた。自分はエリク神に救われ、今ここで過ごしている。処刑されるところを助けられ、願いまで叶えてくれたエリク神の保護下を抜け、他の神が信仰されている他の国に行って良いものかとずっと悩んでいたのだ。
「…いいのですか?」
「あぁ、我は構わんぞ。確かに我の保護下からは外れるが、干渉できないわけではない。よっぽど気の合わない神の国に行かれるとなかなか干渉しづらくて悩むが、そもそも我はお前の人生を縛り付けているわけでもないからな」
そう話したエリク神に、ティモンは目をキラキラとさせながら話しかける。
「隣国のラヴィル国は、エリク神様と兄妹のように仲が良いレーニャ様が信仰されている国。レーニャ様は歌声が素晴らしい女神様であり、夜になると時折、美しい歌声が聞こえるのだと噂に聞いたことがあります」
「はは、勉強熱心だな。ただ、レーニャの歌声は逸話に効くような可愛いものじゃないぞ。あれは、自分以外の女たちを眠らせて、時折、男どもを寝所に呼ぶ歌だからな」
「は、…え…」
「まぁ、神のことも知りすぎることも良くないってことだ、ティモン。お前のような綺麗な男は隣国に向かえばすぐに寝所に呼ばれるからな。好いた男と幸せに暮らしたいなら、お前は隣国に足を踏み入れるんじゃないぞ」
けらけらとそう楽しそうに笑ったエリク神は、アレクセイの方にちらっと視線を向けながらもむしゃむしゃとクッキーを食べている。真実を映す石版の神でもあるのだから、アレクセイとティモンの関係もお見通しなわけなのだ。




