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ヴィクトルが温室を去った後、入れ替わるように少し焦ったような1人の兵士がやってきた。
「ジャスミンっ!!すまない大丈夫か?…まさか陛下が温室に足を運ぶなんて」
「大丈夫よ。普段の陛下は鍛錬している時間のはずだし、朝の時間は護衛も傍に置かないから、行動が分からなくても仕方のないことよ。私もまさか温室で顔を合わせるとは思わなかったわ」
そう困ったように微笑んだジャスミン。さっきまでヴィクトルの前でどくどくと脈打っていた心臓も、彼が去って行ってようやく静かになってきた気がするのだった。
それにしてもまさか王城を出ていく最期の日に、彼とまた再会するだなんて…。
「それで…私は拘束を受けた方が良いのかしら?」
「いいや、宰相からはこのままジャスミンを解放して良いと指示を受けている。今は宰相が話をしているだろう。だからジャスミンは今のうちに王城を出た方が良い」
「そう、ありがとう。…確かに、早い時間の方が人目も少なくて良さそうね」
「…本当になんでこんなことになったんだ」
「そう悲観しないで。私は元の生活に戻るだけよ」
ジャスミンがそう告げて微笑むと、目の前の兵士はどこか泣きそうな表情を浮かべる。温室の外ではそんなやり取りを少し遠巻きに見ている他の兵士や侍女たちも居たが、誰もがジャスミンが出ていくと知って表情を暗くしていた。
「陛下のことも、リーリエ様のこともよろしくね。この国のどこかで、皆のことを応援しているわ」
ジャスミンはそう告げると、ゆっくりと王城を出ていくのだった。
とりあえず、書きたかった場面を描いたプロローグです。
陛下からジャスミンの記憶が消えた理由は…次に続きます!