-6
こんな風に目に付かない場所へと隠して、ずっと気持ちを抑え込んでいた過去の自分。小さな菓子の包み紙さえも捨てられないほどジャスミンのことを愛していたのにも関わらず…ヴィクトルの立場では、平民の彼女を自分の妻に迎えることは出来なかった。
話を聞く限り、昨日の出来事ではジャスミンもヴィクトルへの思いをずっと隠していたのだという。冤罪で処刑台に上がることになり、生きている中で明かすはずのなかったヴィクトルへの恋心を最後に口にしたジャスミン。そんな時、自分はどう感じたのだろうか。
…ようやく、周囲から向けられる悲痛な視線が理解できた気がする。今朝からずっとジャスミンを覚えていないと話すヴィクトルに、人々は痛々しいほどの視線を向けてきていた。もしかしたら、ヴィクトルとジャスミンの恋心は周囲に知られていたのではないだろうか?それでも誰もが口をつぐんでいた状況なのかもしれない。
ふと、万年筆に埋められたサファイアがきらめいた気がして、ヴィクトルはドキリとする。宝石の奥に見えたエリク神は、こちらを見てニヤリと笑っていた気がするのだった。
「本当に厄介な神だ」
ヴィクトルはその後、箱の中身を元に戻すことにした。その際、ジャスミンからもらったのだろう万年筆も中に入れ、鍵をかける。ただし…そんな箱は、窓から勢い良く庭にある池の中へと投げ入れた。きっとこれは自分の弱みになりえるものであり、今捨てておかなければきっと一生眺めて苦しんでしまうものとなるからだ。
残った小さな鍵だけを引き出しの中に戻し、ヴィクトルは机の上に山積みになった書類にまた目を通し始めるのだった。




