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徹夜をして疲れ切っていたアレクセイのことも下がらせ、1人になった執務室で、リーリエの部屋から聞こえる喧噪を遠くに聞いていたヴィクトル。
「はは…ルスラン侯爵も尻に敷かれることになりそうだな」
そう口にした独り言は、誰もない部屋に響く。とりあえず溜まった仕事をこなそうと机の上にある書類に目を通していたヴィクトルだったが、少ししてインクが無くなり、デスクの引き出しを開けた時にどこか違和感を感じた。
収納の中身のわりに、引き出しがどこか重い気がするのだ。不審に思って収納の中身を取り出すと、不自然な仕切りがあって引き出しの奥には小さな鍵の掛かった箱が隠されていた。
「これは…?」
ヴィクトルにとってそんな箱は見覚えがあるものの、中身は思い出せないものだった。こんなとき、箱の鍵はどこに隠すのか?そう思ってふと考えついたヴィクトルは、執務室の本棚にある昔良く読んでいた小説を手に取る。そこにはやはり、小さな鍵があったのだった。
小説を元の場所に戻し、ヴィクトルはデスクの上の鍵のかかった箱に鍵を合わせる。すると、簡単にロックは外れ、ヴィクトルは箱の中身を見ることができた。…しかし、その頃には既に中にあるものを理解していた。不自然に靄の掛かった記憶。これは今日何度も経験したことであり、大抵その記憶に関わるのはジャスミンに関わるものだからだ。
ただ…思い描いていた予想から大きく外れて、そこにあったのは全く見覚えのない刺繍のされたハンカチや観劇のチケットの半券、お菓子の包み紙だった。
「まるで子供のようだ」
箱の奥には、シワができないように大切にしまわれた手紙のようなものもあった。ヴィクトルがそれを手に取ると、2ヶ月ほど前のヴィクトルの誕生日を祝う言葉とジャスミンの名前があった。彼女はヴィクトルの誕生日に万年筆を贈ったらしく、ヴィクトルの瞳と同じサファイアを嵌めた万年筆が目に付く。ついさっきまで書類にサインをしていたのはこの万年筆だった。
「…あぁ、こんなのは見つけたくなかった」




