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速水刑事(“ナポリ”)のラフ案2
「いいよ!駐車場にはオレは入れて置いてやる」と言うムリさんに運転を代わってもらい、チノパンは署の階段を駆け上がって行く。
その日に手の空いている若手が掃除をすると言うのが“強捜係”の暗黙のルールで……恐らく刑事部屋にはまだ誰も居ない筈だ。
ところがドアを開けてみると、長髪に水色の三つ揃えスーツの若者がチノパンの席で仰向けになって居眠りをしている。
“由美”としてはこの若者が誰なのかが見当が付くので近寄って覗き込んで見る。
高い鼻にしっかりとした眉。しかしまつ毛が長く寝顔はなんだか可愛らしい。
「これが昭和の美丈夫なのね……実際に見るとやっぱり凄いわ……」
でも若者が「んがっ!」と目を覚まし掛けたので“由美”は慌てて“チノパン”へ戻る。
「ちょっと!起きてください! そこ、オレの席なんですけど!」
若者は大きな欠伸の後、両手で顔をゴシゴシしてからチノパンを見上げる。
「いつからお前の席になったんだよ!」
「たぶん、あなたが転任してからです。だから明け渡してください!」
「でっけえ図体してなに細かい事、言ってんだよ!第一、“オレの後釜”って事はオレの後輩だろ? こーいう時は何も言わず先輩に席を譲るもんだ! 席なら他にも空いてんだろ? ムリさんのとことかプリンスのとことか……」
「ムリさんはもう来ます!」
「なんで?」
「一緒に住んでますから!」
「ムリさんと同居?! お前、物好きだねぇ~じゃあプリンスの……」
と言いかけたところでプリンスが入って来る。
「おっ! ナポリ! 来たな! 相変らずめかし込んでるな!」
「ハハ! プリンス! ご無沙汰っす! 最近、ゴルフどうですか?」
「ここのところ忙しくてな、非番の日も打ちっ放しがせいぜいだよ」
「『独身貴族に休みなし』ってとこですか?」
「ああ、お前みたいにな!」
続いてムリさん、タニさんが入って来る。
「よっ!ナポリ!久しぶり」「しばらくだな」
二人の声掛けに頭を掻きながら一礼する“ナポリ”の横で……憮然と立っているチノパンにタニさんが声を掛ける。
「どうかしたか?チノパン!」
「いえ! 掃除をしようと思ってたんですけど……」
「そいつは早くした方がいいな。そのつもりで時間をずらしているチョーさんが追っ付け来るぞ!」
「へえ~! お前掃除するの?! 顔に似合わずマジメだなあ。あ、灰皿もキレイにしとけよ」と机の上を目で指す“ナポリ”にチノパンは心の中で毒づく。
「その吸い殻!お前が吸ったもんだろ!」
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掃除を終えたチノパンが手を洗って戻って来ると刑事部屋は全員揃っていて“ナポリ”を中心に歓談している。
相変らず“ナポリ”に席を陣取られているチノパンは止む無く壁に背を預けて腕組みをする。
「そう言えばお前、向こうじゃ“ハリー”って呼ばれてるんだって?!」とのプリンスの問いに“ナポリ”は持っている吸い掛けのタバコを咥えて、ジャケットの中に手を突っ込み、ホルスターから拳銃を抜いて見せた。
「コイツのせいですよ」
その銃にチノパンは腕組みを解いて壁から背を離した。
「コルトパイソンじゃないですか!!」
「おっ! よく知ってるね!新米!」
「柴門です!」
「ああ、聞いたよ!お前が灰皿洗ってる最中にな!『ジーパン』って言うんだろ?!」
「チノパンです!!」
「似たようなもんじゃねえか!相変らず小っちぇえヤツだな。興味あんのか?」
「ええ、銃には!! 興味あります」
“ナポリ”は銃身をクルリと回してシリンダーを掴みグリップをチノパンに向ける。
「ほらっ!」
パイソンを受け取ったチノパンは弾倉を開いて弾を確認する。
「やっぱり.357マグナム弾だ! 実物は初めて見ました! しかし、どうやって携帯できるようになったんですか? オレは装備課に『ニューナンブしかない!』って言われたんですよ!」
「別に!なんもねーよ!普通に『パイソンにしたい』って言っただけぜ! っう事は……ここの装備課にはマグナム弾はねえんだ!?」
「ある訳無いじゃないですか!」
「で、お前さんが“ハリー”って呼ばれているのと、その銃とはどういう関係があるんだ?」とタニさん。
「タニさんは映画なんて観ないかもしんないけど……『ダーティハリー』って名前くらいは知ってますよね? 主人公のハリーキャラハンはサンフランシスコ市警の刑事で44マグナムをぶっぱなしてる。オレは44マグナムだとメシ食う時とか邪魔だから銃身が短いパイソンにしたんですよ」
「なぜ、そんな威力のある銃を使うんだ」とのチョーさんの問いに“ナポリ”の顔は険しくなる。
「決まってるじゃないですか!銃を持った犯人の動きを確実に止める為です」
「お前!それは間違ってるぞ!」と詰め寄るムリさんの方を向き直った“ナポリ”は言葉を返す。
「拳銃に弾を込めないムリさんのお説教はオレには無意味ですよ」
「なんだと!!」と“ナポリ”に掴み掛ろうとするムリさんを止めながらタニさんは訊く。
「お前、その銃で人を殺めた事があるのか?」
「ありますよ! もちろん何の咎めも受けていません!」
その言葉にムリさんはますます熱くなる。
「ああ確かに!! お前は見境いなく銃をぶっぱなすハリー野郎だよ!!」
「ムリさんこそ、そんな甘い考えじゃ市民は守れませんよ!」
チノパン以外の“強捜係”の面々の頭の中には“ナポリ”の腕の中で息絶えた“凶弾の被害者”の女性の姿がまざまざと蘇った。
しかし……
「オレの指揮下ではその銃をぶっぱなす様な事は絶対に許さん!」とのボスのひと言に“ナポリ”は顔を歪めておし黙った。




