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1限目 日だまりのなかで

 部活とは何か?

 それは学校生活を華やかにする大事な要素だ。


 仲間と汗を流す、自分を表現する作品を作る、大好きな分野に没頭する。

 活動内容はそれぞれ違うけど、3年間なにかしらに打ち込むことで学業だけでは味わえない充実感を体験することができるのだ。


 つまり何が言いたいかというと、入学時の”部活選び”というのは学校生活を充実させる上でとても重要な選択の一つだということだ。

 これはこの学校でどんな生活を送りたいかを決めることに他ならないからだ。

 もちろん部活に入らないという選択もアリだ。うん、多様性社会。


 本当に学校を楽しみたいのであれば、手を抜くことは許されない。

 自分自身と向き合い、自分のやりたいことを見つめ直し、誤りのない選択をするべきなんだ!




 さて、その部活選びを誤ってしまった人はどうなるのだろうか。

 その一例を紹介しよう。


 分厚いカーテンが締め切られた真っ暗な部屋の真ん中。

 縄で椅子に縛り付けられます。


 え? 信じられない? 嘘をつくな?

 だいたいどんなミスチョイスすれば、そんなアブノーマルな状況になるのかって?

 あはは。そんなのアタシが知りたいよ。


 だって、現在進行形でそのアブノーマルな状況になっているアタシも訳が分からないんだもん。


 一体アタシ”風登亜紀(ふとうあき)”は何を間違えてしまったのだろうか?



ーーー



 遡ること4時間前。

 

 桜並木が活き活きと咲き誇る中、アタシは私立青蓮女子学園高等部の入学式に新入生として出席していた。


 青蓮女子学院、通称”青女”は中高一貫・完全寮制の女子校だ。

 県内で名を馳せる政治家や事業家のご令嬢が通うことで知られている。

(ちなみに青女に通う生徒のことを巷では”聖女様”と呼んで、崇めている)


 もちろん、アタシみたいな一般家庭の娘でも入学が可能だけど、その殆どが高等部からの中途入学。

 しかも、学校の格式や制服の可愛さもあり、県内外の女子の憧れだから、倍率は毎年5倍はザラなこと。


 そう。アタシはその難関を突破することが出来たのだ!

 元来勉強が得意でなかったけど、どうしても青女の制服に袖を通したくて、中学三年生の一年間を勉強に捧げた。


 青女の生徒として入学生の席に座っている今となっては、あの地獄のような一年間も勲章のように輝いて見える。

 

 入学式を終え、それぞれの教室に戻り、ホームルームが始まる。

 アタシは1年3組だ。

 1組と2組は中等部からの繰り上がり組、3組と4組は高等部からの中途入学組と分けられている。

 一般的に前者を”ご令嬢クラス”、後者を”庶民クラス”と呼んでいる。

 まあそう呼ぶのはあたしたち庶民クラスの生徒だけで、いわば僻みみたいなものだ。

 ちなみに、こうやって分けられるのは1年生の時のみで、2年生以降はお互い混合したクラス替えになるらしい。


「私はこのクラスを受け持つことになった蓬莱理沙。担当科目は日本史だ。よろしくな」


 アタシが所属する1年3組の担当、蓬莱先生の第一印象は仕事のできるキャリアウーマンという感じだ。

 眼鏡をかけ、少し癖のある髪を後ろで縛っている美人な先生。

 けど、ちょっとだけヤンチャな雰囲気が残っていて、好印象に思える。

 どうやら担任ガチャは成功したようだ。


「さて、君たちは今日から青蓮女子学院の生徒となる。知っていると思うが、我が校は明治初期から女子教育を支え続けた、伝統ある学校だ。

 どうかそのあたりを胸に刻み、規則正しい行いを心がけてほしい。

 君たちの一挙手一投足は常に見られているからな」


 クラス中に僅かな緊張が走る。

 蓬莱先生の言葉はアタシたちの心にドスンと楔をうつ。


 自分たちが袖を通す和を基調とした制服、この左胸元に刺繍された青蓮女子学院の校章は決して穢されることが許されないものなのだ。


「1組2組の奴らみたいにいかにもお嬢様みたいな言葉遣いや作法は真似しなくてもいい。むしろするな。そんな形だけのもの君たちには求めてないからな。

 社会に恥じない言動をしろ。ただそれだけの単純な話さ。

 わかったな?」


『はい!』


 その後、恒例のクラスメイト全員の自己紹介をし、先生からの簡単な事項連絡が終わった頃には午後3時になっていた。


「よし、ホームルームはこれで終わりだ。みんなお疲れ様。

 このあとは自由時間だ。

 親御さんと一緒にいてもいいし、寮に戻ってもいい。

 あ、そうだ。

 午後6時まで校庭や体育館で部活の勧誘をやっているぞ。興味があるやつは見に行ってくれ。

 では解散!」


 ホームルームが終わると、教室の中は一気に賑やかになる。

 ここからやっと花の高校生活が始まるのだという喜びがクラスメイトそれぞれから感じられる。

 かくいうアタシもその一人なのだが。


「亜紀!」


 両手を上げ、背筋を伸ばしていると教室の後ろ扉からアタシを呼ぶ声が聞こえた。

 声のする方に目線を向けると、ショートヘアの女子生徒が笑顔で手を振っていた。


 狩野零子。

 小学校から同じ学校だった幼なじみで、一緒に青女に入学した。この学校では数少ない顔見知りの一人。

 彼女は4組でクラスは別れてしまったけど、同じ校舎の中にいるのだからそれほど不満に思わない。


 零子は教室に入ると、ちょうど使用主が立ち去っていたアタシの隣の席に腰を下ろす。


「亜紀ってさ、このあとどうするの? 別に用がなかったら、部活勧誘してるとこ行ってみない?」


「いいよ。アタシも行く」


 アタシはホームルームで渡されたプリントをまとめて、せっせと教室を出る準備をする。


「でもさ、零子ってバスケ部に入るって決まってるじゃん。わざわざ見に行く必要ないと思うけど」


 零子は中学生の時にバスケットボール部に入っていて、全国優勝を果たしたことがある。

 これはエースだった彼女の功績と言っていい。

 そのおかげでスポーツ推薦枠として青女に入学することができた。

 ちなみに、学力の方は入学水準値ギリギリだったらしい。


「そうなんだけどさ、どんな部活があるか見るだけでも面白そうじゃん。どうせ寮に戻ってもやることないし、時間潰しにはちょうどいいっしょ」


「それもそうか。でも、零子って体育会系の部活の中では運動神経のいい期待のホープって有名だって聞いてるから、結構勧誘来ると思うよ。他の部活に引き抜かれないよう気をつけないと」


「わかってるよ。そんなことより亜紀はどうなのさ?」


「どうって?」


「今の流れからしたら部活のことしかないでしょ。もうどの部に入るか決めてるの?」


「う~ん。まだ決めてないんだ。けど、今のところ文化部を考えてる」


「そういえばあんた昔から運動音痴だったわね」


「うっさいなあ」


 中学の頃は帰宅部だった。

 別に青女は部活に入ることを推奨も強制もしていない。

 けど、せっかく新しい生活に足を踏み入れたのなら今までの自分から心機一転したいと思ったのだ。

 世間で言うところの高校デビューだね!


 一通りかばんにプリントを入れ終えると、それらと一緒に渡された部活動一覧とそれぞれの勧誘拠点が書かれたパンフレットを広げる。零子もアタシの方に顎を乗せて、一緒に紙面をのぞき込む。


「へえ。運動部は校庭、文化部は体育館に分かれているのか。他にもそれぞれの部室でもやってる部もあるみたいだね」


 アタシは子どもの頃から身体を動かすのが苦手だった。自分で言うのも癪だけど、零子の言うとおり運動音痴という奴だ。特に球技とかダメダメで、体育の時間なんか地獄だった。

 だから理由から運動部に入るつもりはさらさらない。


「亜紀は文化部を狙ってるんでしょ? どんなのがあるのよ」


「華道部や茶道部、国際交流部なんていうのもある。さすがお嬢様学校。どれも敷居が高そう」


「でも、面白いのもあるよ。ほらこれとか」


 そう言って零子が指さしたのはパンフレットの体育館ではなく、部室棟の一角。

 そこに書かれていたのは……


「『お笑い研究部』? これってアレだよね? 落語とか漫才とか研究して、自分たちでもやるみたいな」


「名前からすればそうでしょ。でもお嬢様でもこういうのに興味あるんだ。意外。それとも庶民クラスの人が作ったとか?」


「”同好会”じゃなくて、ちゃんと”部”になってるってことはしっかり活動してるんだろうね」


「亜紀。まだ何入るか決めてないんだったら、ここにすれば? 楽しい3年間過ごせるかもしれないよ?」


「いや、これはパスかな? あんまりお笑いとか興味ないし。他のにするよ」


「ふ~ん。見学するだけでもいいと思うんだけどなあ。まあ、あんたがそういんだったら無理強いはしないよ。

 そんなことよりパンフレット見続けても何も解決しないし、早く見に行こ! 実際見れば気に入るもの見つかるかもしれないし」


「それもそうだね」


 アタシはカバンを持って、零子に導かれるまま教室を出て行った。



ーーー



 部活選びのため、零子と校内を右往左往し始めて1時間ほど経った頃。

 アタシは零子とはぐれてしまった。


 発端は校庭に足を踏み入れた瞬間だ。

 予想していた通り、期待のエース狩野零子は運動部の勧誘に襲われた。しかも、多数の部活同時ときたもんだ。

 一気にもみくちゃにされ、いつの間にか彼女との距離が開いていく。


 現在も校庭の中心で季節外れの押しくらまんじゅうでもしてるかのような光景が繰り広げられている。

 その中心に零子がいるんだろう。居場所が分かるんだったら、なにも焦ることはない。

 「亜紀、助けて!」という声が聞こえたような気もしたが、アタシにはどうしようもできない。

 親友には悪いけど、事態が沈静化するまでアタシは休憩してるよ。


「疲れたぁ。もう足がパンパンだよぉ」


 二人用のベンチに座り、自分のふくらはぎを揉みほぐす。

 さすがに1時間歩きっぱなしはキツい。

 そのくせ、めぼしい部活を見つけることはできなかった。


 確かに心惹かれる部活もいくつかあったけど、入部したいとまではいかなった。

 別にこだわりがなければどこでもいいと思うかもしれない。

 けど入部するからには3年間打ち込める部にしたい。

 なんせこの高校生活を楽しめるかどうかの大事な選択だからね。ここで手を抜くつもりはないよ。


「今日一日疲れたなあ。まだ終わってないけど」


 ベンチに深く腰掛けながら、ここ1時間の記憶を頭の中で回想していると、どっと全身に疲労がのしかかってきた。


「そういや昨日は入寮してずっと荷ほどきしてたからなあ。環境が変わりすぎてほとんど眠れなかったし」


 どんどん自分のまぶたが重くなるのを感じる。

 春の陽気が眠気を更に倍増させていく。


「零子もまだ脱出できそうもないし、少しだけ眠らせてもらおうか、な……」


 アタシはベンチの上で横になり、そのまま深い眠りに入る。



ーーー



「はあ、ひどい目に遭った……」


 アタシが部活勧誘の波から脱出できたのは午後5時を過ぎた頃だった。


 「アタシはバスケの推薦ですから」と何度も断ったのに、誰一人退こうとしない。それどころか、バスケ部のブースに行って「狩野さんをうちに譲ってくれない?」と交渉する部まで現れた。

 中学時代に人数が足りないからといろんな部活の試合に助っ人として出たことがあったけど、まさかそれで他の中学の人に目をつけられていたとは思わなかった。

 最後に生活指導の先生が仲裁に入ってくれなかったら、いつまでもみくしゃにされていたことか。


「それにしても亜紀のやつ、アタシを見殺しにしやがって」


 何度も助けを呼んでも駆けつけもしない。

 それでも親友か!

 そういえば部活棟入り口近くのベンチに座り、挙げ句の果て呑気に眠ろうとしていたのをチラッと見た。


 アタシは薄情者にどんな罰を与えようか?

 あいつ、昔からくすぐられるのめっちゃ弱かったからな。脇腹を思いっきりくすぐってやろう。


 そう考えつつ、亜紀のいたベンチに向かった。


「ちょっと亜紀、どうして助けてくれなかったのさ! ……ってあれ? いないじゃん」


 ベンチをのぞき込むと、そこには亜紀の姿はなかった。

 それどころか彼女のカバンや持ち物もない。


「ここで座ってたように見えたんだけど。先に寮に戻ったのかな?」

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