歪な初詣-3
「いやぁ!案外時間かかったけど参拝も出来たし次はー屋台!屋台行こう!屋台!」
「えっ!おみくじ引かないんですか?」
「おみくじか。俺引いたことないから気にした事なかったわ」
意外だった。
確かに参拝が終わった時、私の腕時計の針は12時を過ぎており、若干お腹は空いてきていたが、
参拝からおみくじ。ここまでが一連の流れ、
というかいつもそうしていたからそういうものだと思っていた。
「じゃあおみくじ引いてから屋台行くか!」
どれだけ屋台に行きたいんだろ。
それでもおみくじを引きたそうにしている私に合わせてくれた。
100円を箱に入れ、たくさんあるおみくじの中から一枚を取り出した。
いつもは一年がどうなるかを先に知れる気がしてどんな結果でもワクワクしたが、
今回ばかりはどうか、どうか良い運勢でありますようにと願いながら開いていく。
――大吉――
良かった。心からそう思った。
「おっ大吉じゃん!良かったな!」
「うん!あっ!アサヒさんは―――
「かたっくるしいからアサヒでいいよ!」
「じゃ・・・じゃあ、アっ・・・アサヒはおみくじ引かないの?」
「んー。俺はいいかな!それよりも屋台!屋台行こうぜ!」
「そっか。じゃあ屋台行こっ!」
ドキドキした。
ただ"さん"を付けなかった。
ただそれだけなのに、私はすでに呼び捨てされているのに、鼓動は早くなった。
おみくじをろくに中身を読まずに鞄へしまっていると、
「おっしゃあ!まずは甘酒飲もうぜ!」
そう言うと彼女は私の手をとり足を進めた、
「こっちだ!」
握った手の感触が伝わってくる。
彼女にとっては特別な事ではないのかもしれない。
しかも二回目。
それでも私には・・・
こんなに色々かさなってくると・・・
顔が、また―――
「どうした?寒いか?」
赤くなってしまったようだ。
振り返った彼女にバレてしまった。
「大丈夫!」
「そうか?寒いんなら我慢しないで言いなよ」
心配してくれている彼女には申し訳ないが、この顔の赤みは積もった雪のせいではなく、
あなたのせいですよ。アサヒ。
「ここだ!俺ここの甘酒好きなんだよな!毎年ここで飲んでてさ!」
「そうなんだ。そこまで言うなら楽しみかも」
参道の脇道には色とりどりな屋台が所狭しと連なり、
参拝の終わった人たちの人だかりで波ができている。
そんな中彼女は、その人だかりの隙間をスムーズに抜けていく。
彼女に引かれる私も誰にぶつかる事もなく目的の甘酒の屋台まで着くことができた。
「お兄さん!甘酒二つね!ありがと!」
どうぞっと彼女から差し出された小さめの紙コップに入った甘酒は、
その周りだけでも暖めようと白い湯気を立ち上らせていた。
「いただきます」
やけどしないように、すすりながら飲んだそれは、
麹の形を少し残したままで、甘みの後に少しだけ生姜の香りがしていた。
「美味しい」
「だろ!?ここの甘酒ホント好きなんだよね!」
私が言おうとする前にすでに口から出ていたその言葉に、
彼女はまた無邪気な笑顔になった。
その純粋な笑顔にこちらまで笑顔になってしまう。
「体も温まったし!今度はなんか食べようか!お腹すいたでしょ?」
「そうだね。あっ!あそこすごい行列になってる。美味しいのかな」
「おっタコ焼きと焼きそばみたいだな!俺買ってくるから、ユズキはあそこの人ごみが無いとこで待っててよ!」
彼女が指差した方向はちょっとした広場となっており、屋台で買い物を済ませた人達が、人混みを避けてそこに集まっていた。
家族連れやカップルも皆そこで食事をしている様だ。
「わかった!なんか毎回お願いしてごめんね」
「大丈夫!大丈夫!じゃあ買ったらそっち行くから!」
そう言うと彼女は一人行列に並んでくれた。
それを見届け、私は他の人達の邪魔にならない様、人の波に合わせながら、広場へと向かう。
広場は、砂利で整えられてはおり、雪は踏みつぶされて跡形もなかった。
食事を終えた子供たちが駆け回り時々湿った砂利のせいで足を滑らせたりしている。
ほら!危ない!なんて父親に怒られている声を微笑ましく眺めながら私は彼女を待った。
「ユズキさんじゃない。こんにちわ」
「忘年会ぶりー!」
「あっ・・・こんにちわ・・・」
こんなところで・・・。こんなタイミングで・・・。
その声の主は、会社の同期二人だった。
私はとっさに愛想笑いで返事をしていた。