歪な初詣-1
「それはそうとアサヒ!せっかく連れてきた子をほったらかしにして!」
「あー!悪い!ここに来るとどうも疼いちゃって!」
手を合わせて彼女が拝むように私を眺めてくる。
どうやら彼女もシェリーさんにはタジタジのようだ。
「悪い!じゃないわ!もうすぐ年越しなんだから一緒に行って埋め合わせくらいしてきなさい!」
「ユズキはそれでもいいか?」
突然の呼び捨てに少しドキッとした。
シェリーさんとの会話もアサヒさんの歌も全てが楽しかった私としては、ここに連れてきてくれた事だけでも感謝しているのだが、年末年始の予定もなかったので、お願いすることにした。
「よろしくお願いします」
「おし!じゃあ1月1日10時にここの前待ち合わせ!近くの神社は屋台もあるからめいっぱい楽しもうな!」
その後、シェリーさんにもう遅いからと帰宅を勧められ、二人に見送られながら私は帰宅の途に着いた。
私は家についてもしばらく布団の中で眠れなかった。
―――1月1日―――
私は5時に目が覚めた。
ドキドキして眠れなかった。
あの次の日、平常心に戻った私はあの日を思い出していた。
私はあの日、初めて会った人の前であんなに泣いたんだ。
人前で泣くなんていつ振りだろう。
NewFeel・・・。今まで通りの人生だったら、絶対に行ってなかったな。
あの雰囲気。あの熱狂。勝手に気持ちが高揚してった気がする。
シェリーさんも初めて会ったはずなのに、なんでも受け入れてくれる雰囲気で素敵だった。
でもやっぱり・・・。
公園でのアサヒ、NewFeelでのアサヒ。その時の言葉、その時の表情が鮮明に思い出される。
思い出せば出す程に、私の心拍数は早まり、心音が聞えてくる。
今彼女はどう思っているのだろう、とか、彼女は今何をしているだろうとか。
約束の日はどんな服装で行こうとか。
ずっと考えてまた眠れなかった。
当日になっても決まらない服装は自分の持っているなるべく清潔感があるものに決めた。
服装も決まった。持ち物はバックに入れた。髪も整えた。
あの待ち合わせ場所までは私の足でも20分もかからない距離だからまだ余裕がある。
掃除機かけようかな・・・部屋の片づけしようかな・・・
落ち着かなかった。
部屋の中をウロウロ歩いてみたり座ってみたり。
いつも以上に部屋がキレイになっていく。
・・・。
「もう行こ・・・」
独り呟き家を出た。
外は昨日降ったらしい雪がうっすらと積もり、コンクリートを白く染め上げていた。
先にそこを通った人たちの足跡を追いかけるように待ち合わせ場所へ向かう。
次第にあの公園が見えてくる。
あの日の事がまた勝手に思い出される。
―――あなたに私のなにがわかるっていうんですか!!―――
大声を出す私。
私は一人で顔が熱くなった。
たぶん真っ赤になっている。
とっさに顔を背ける。
でも不思議と悪い思い出という気はしない。
私の足音が少し軽くなった気がした。
繁華街はすでに初詣を終わったのであろう家族連れやカップルで賑わっていた。
中には振袖姿の女性もいる。
キレイ・・・少し見とれてしまうくらいの心は私にもまだあるようだ。
あっもう着いた。
―――New Feel―――
光の消えたネオン管に少し悲しげな雰囲気を覚えながら店の扉に寄り掛かった。
あの夜は衝撃的だったな。
目を瞑るとすぐに思い出されてくる。
なんであの時、全然知らない彼女の手を握ったんだろ。
私を引く手と後姿は無邪気な子供の様だったけど、それがとても綺麗で・・・キラキラしてた。
彼女の真剣に歌うあの姿に心が震えて、観客と話している笑顔に・・・私は・・・
こつん。
目を瞑っていた私は突然おでこを突かれびっくりして目を開けた。
そこには笑顔で私の顔を覗き込む彼女がいた。
「いきなりビックリするじゃないですか!」
「いやぁ寝てるのかと思ってさ」
彼女は悪戯っぽい笑顔で頭の後ろに手を組んだ。
「こんな所で寝たりしません!普通に声かけてくださいよ!」
「顔赤いぞ?そんなに前から待っててくれたのか?」
「そんなに待ってないので大丈夫です!そんなことより行きましょう!」
これ以上彼女に問い詰められたくない私は、彼女の背を押して、無理矢理歩き始めた。
「そんなに押さなくてもいいだろ!?」
「早く行きたいからいいんです!」
「そっそうなのか!おし!行こう!」
「はい!」
なんとかやり過ごす事が出来た。
・・・かな。